第5話 遠い日の記憶②
「……ねぇってば!」
俺の顔を覗き込む形で顔を出したのは、紅い髪色をした十歳ほどの女の子だった。
人形のような端整な顔立ちをしており、その瞳は自身の髪色と同じく深紅の瞳で、背中まで伸ばした髪はキラキラと輝いて見える。
「えっと…君は…?」
「……えっ……」
俺の問いかけにその子は驚いたような顔をして困惑している。
と、思いきやプクっと可愛らしく頬を膨らませて可愛らしく怒る。
「もう!寝すぎて私の事も忘れたの?…はぁ……」
女の子はため息をついた後、俺の手を取る。
「と・に・か・く!
「うおっとと」
女の子は俺を強引に引き寄せて立たせると、手を握ったまま歩き出す。
「さぁ、帰りましょ!私たちの村に!」
「あ…ああ」
何故……この子を見ていると、俺の胸はこんなにも締め付けられるんだ……………
どうして………尋ねたいことが沢山あるのに、声が出ないんだ………………………
「…………俺は…お前を……」
やっと言葉が出たと思えば、前回と同じことを言っていた。
俺は一体、この子に何を言おうとしているんだ……………?
そんなことを考えていると、突然周囲が
「アッハハはハハハハハはははははㇵㇵㇵㇵㇵハハハはぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!」
まず初めに聞こえて来たのは笑い声……………そして、その後に聞こえて来たのは、とても悲しく…悲痛な叫び声だった。
「な…んだよ……これ………」
俺の目に映ったのは、森の中にあるどこか分からない村の、様々な木造の建物や、その周囲にある木々や草花が激しく燃え盛っている姿だった。
………そして、様々な人たちの……見るも無残な姿だった……………………………
「う……うぷ……」
あまりにも残酷な光景に、俺は吐いてしまう。
その時、俺は気が付いてしまった。口元を押さえようとした手に、べったりと付着した赤い血液に。
「一体何が………くっ…頭が…………割れそうに痛い…………」
俺は頭を押さえ、燃え盛る村の中をフラフラとした足取りで歩いて行く。
行先は一つ……誰かの叫び声の元へと向かう。
この先に行くなと言わんばかりに頭痛は酷くなっていき、まるで誰かに警告されているかのように感じた。
それでも足を止めずに俺は歩いた……その先にあるものが何かも知らずに…………
そして目に映ったのは………紅い髪色をした………あの女の子だった………………
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」
激しく髪を振り乱し、天に向けて慟哭するその姿は、まるで何かに取り憑かれているかのようだった。
俺は一歩ずつ、女の子の元へと歩いて行く。
「大丈夫…大丈夫だから…」
一体何が大丈夫だというんだ………………こんなにも、苦しそうなのに。
「に……げて……おね…がい……はぁっはぁっっっ………逃げて!」
逃げる……?君がそんなに苦しそうにしているのに?
「俺は………逃げない………お前を、一人にはしない………」
これは、俺の見ている夢だ…………でも、ただの夢じゃないということも分かっている。……………………知っている。
多分――――これは俺の―――――
「どうして………逃げて………くれないの?」
その問いかけには答えずに、俺は女の子の元へたどり着く。
そして――――
「――――――――っ!」
その体を、優しく抱きしめる。
女の子は驚き、目を見開く。
抱きしめたその体は、小さく、暖かく、そして震えていた。
服にはびっしりと血液が付着しており、両手の先からはポタポタと血が滴っている。
「俺が……お前から………逃げるわけないじゃないか…」
強く……ただただ強く、抱きしめる。離さないように、何処にも行かないように。
何故かは分からない。でも、そうしなければいけないと思ったから。だが…………
次の瞬間、腹部に違和感を覚える。恐る恐る下へ目を向けると、そこにあったのは俺の腹を貫く女の子の腕だった。
俺はあまりの激痛に声が出せず、やがて腕がゆっくり引き抜かれると、その場にうずくまってしまう。
「う……く………」
「アハハハハハㇵㇵはははッッっッッっ………えっ………うそ…………そんな…………なんで…………」
女の子は自らの手を見る。そこには、肘の辺りから手の先端に至るまで新鮮な血で覆われていた。
「いや…いや……いやいやいやいやいやいやいやいやあああああぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!」
あの子が泣いてる…………とても悲しそうに…………早く立たないと…でも、力が出ない…………目の前が暗くなってきた…………もう…………
そこで俺の意識は途絶える。その後に何が起こったのか…………今はもう…………分からない。
でも、思い出したことがある。それは……………
「俺はお前を…必ず助ける…」
それが俺の……遠い日の誓いだった。
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