第3話 再戦②

「仕方がないですぜアニキ。あれは、アッシが思うに普通のゴリルサギじゃないですぜ。」

「違うのか?」

「ええ」

 どういうことだ?マグナが言っていたゴリルサギと、俺が戦ったゴリルサギは別物なのか?

「ゴリルサギは、高い知能を持ったドリルサギの特異種シークレット個体なんですが…あいつは、知能が高すぎやす」

「確かに、あいつはただ力まかせに暴れるだけじゃなくて、何か…技?のようなものを使ってたしな」

「ええ…そんなことは、普通の魔獣じゃできやしねぇ。つまり…」

 そこまで言ってマグナは口を閉ざし、顎に手を当て、深く集中するように考え込む。

 俺は、マグナの思考を邪魔しないように待つことにした。

 待つこと数十秒、マグナは険しい表情で語りだす。

「分かりやしたぜアニキ!あいつの…正体が!」

「おぉ…!ぜひ聞かせてくれ!」

 マグナの真剣な表情に、少し緊張してしまう。

 俺はゴクリと生唾を飲み込み、続く言葉を待つ。

 そして…


「あいつは…ここ最近生まれた個体じゃねぇですぜ…」


「な、何だって!?…それって、つまり…どういうことだ!?」

 確か…ドリルサギが群れを作るのは、大移動をする時と、特異種シークレット個体であるゴリルサギが生まれた時に作られる二つのパターンがあった。

 マグナが考えていたのは、俺と出会ってから外に出るまでのおよそ一週間で、ゴリルサギが出現。その後、自らの群れを作った。

 だが、それは間違いだったらしい。

「最近生まれた個体にしては、知能と戦闘技術が卓越し過ぎていやす。恐らくですが、この森に元々存在していたゴリルサギが、何らかの理由でこの近辺に群れごと移動してきた可能性が高いですぜ…」

 つまり、元々いたゴリルサギが自分の群れごとやってきていた…ということか。

「さらに、長く生きた魔獣は知性を持ち始めやす」

「…確かに、マグナも喋ってるしな」

 長く生きた魔獣は知性を持つ。確かにその通りだ。現に今も目の前で小さな熊が喋っている。

「えっ…アッシは……いや…そんなことより、とにかく、知性を持った魔獣は特異種シークレット個体から進化した存在になりやす」

 マグナが言いかけた言葉も気になるが、それよりも進化というのが気になる。

 特異種シークレットのさらに上があるのか…

「その進化した個体は何て呼ばれているんだ?」

「ええ…唯一種ユニーク個体と呼ばれていやす」

 唯一種ユニークか…確かに、魔獣が知性を得て、自分の自我を確立させたのなら、その個体は世界でただ一つの存在になる。

「なるほど…つまり、あいつの正体は長く生きたゴリルサギで、何らかの理由でここに群れを移した、と…そういうことか」

「その通りですぜ!」

 マグナはうんうんと頷きながら、肯定する。

 そして、俺の顔を真っ直ぐに見つめ、告げる。

「だから…アッシは、アニキにあいつと戦って欲しくないんです…」

 マグナは、本当に俺のことをあんじてくれているんだな。

「マグナ…俺は…」

 でも…俺は、ここで逃げたりしたくない。

 あいつに……あのゴリルサギに…勝ちたいんだ…!

「俺は、あいつともう一度戦いたい。もう一度戦って、今度こそは勝ちたいんだ!」

「……アニキ」

 マグナは、今にも泣き出しそうな顔で俺を見ている。

「でも、次も見逃してもらえるとは思いやせん。もし負けたら、アニキは…死んじまうかもしれないんですぜ!」

 マグナの言う通りだ。確かに、今ここに俺が立っているのは、ゴリルサギに見逃されたからだ。はっきり言って、奇跡だろう。次も見逃される保証はない。

 でも、初めてなんだ…こんなにも心が燃え上がっているのは!

 かつてこんなにも気持ちが高ぶったことがあっただろうか?それとも、戦闘民族に転生したからなのか?ゴリルサギが強敵だって知っているのに、命の危険があると分かっているのに、気分が高揚する。

「心配してくれてありがとうな、マグナ!でも、俺はもう負けるつもりはない」

「そんなことを言ったって…相手は知性を持った化け物ですぜ?」

 マグナは俯き、暗い表情を見せる。

「そうだな…でも、俺は一人で戦う訳じゃない…だろ?」

「えっ」

 俺がそう言うと、マグナは驚き、顔を上げる。

「でも、アッシは…戦えやしやせん…魔法だって、一度や二度が限界だ!」

「それでいいんだ。その一度だけでいい…!」

 本来、非戦闘員のマグナにこんなことを頼むのは間違っていると思う。これは俺のわがままだ。それでも…!

「お願いだ、相棒!力を貸してくれ!」

「あ…あい…ぼう……」

 俺がそう言うと、マグナは目を見開き、動きを止める。

 そして…

「分っっっかりやした!!!アニキの相棒であるこのアッシが、アニキと共に戦いやすぜ!」

 と、興奮した様子でこちらに詰め寄って来る。まん丸い目はキラキラと輝き、背中の小さい翼は、パタパタとせわしなく動いている。

「マグナ…ありがとうな」

「いえいえ!いいんすよ!アッシはどこまでも、アニキについて行きやすからね!!!」

「ああ!よろしくな!相棒!」

 俺はマグナに向け、右の拳を突き出す。それに応じるように、マグナも右手を俺の拳へと当てる。

 こうして、俺たちは固い友情を結んだ。

 ゴリルサギ…俺は、絶対にお前に勝つ!!!

 翌日、俺とマグナはゴリルサギに再戦するため森の中へと足を踏み入れたのだが…

「アニキッ!きききき来てますぜ!」

「ああ…分かってるっ…」

 バキッ、メキッ、ボキッと後ろの方から木々をなぎ倒す音が聞こえて来る。それに続いて、激しい足音が地面を揺らしてこちらへと向かって来る。

「ピ…ピェェェェエエエエッッッ!!!」

 俺の頭にしがみつくマグナが大きな声で叫んだ。

 そりゃ叫びたくもなる。なんたって俺たちは今、絶賛ゴリルサギに追いかけられ中なんだから。

「ぎゅうぅぅぅうううう!!!!!」

 俺たちは、森へと入った数分後にドリルサギの群れに遭遇した。…までは良かったのだが、ドリルサギたちは俺たちを見た途端に、大きな声で泣き出した。

 その結果、怒りの形相と共に再びゴリルサギが出現。現在もまだ追いかけられているというわけだ。

「はぁっ…はぁっ……マグナ…まだ着かないのか…?」

 俺は走りながら、マグナに問いかける。

「え…ええ…まだですぜ…」

 俺とマグナは、森の中で戦うのは不利だろうということで、洞窟から少し遠くにある開けた草原地帯へ向かっていた。

 マグナの案内で向かっているが、木々が生い茂り大きな木の根などが邪魔をしていて、その中を全力で駆け抜ける。時には飛び越え、くぐり抜け、木の枝につかまり大ジャンプをしたりする。

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