第3話 再戦①
ここは…どこだ?
目が覚めると、俺の目の前には、雲一つない青い空が広がっていた。どうやら、仰向けに寝転がり、空を見上げているようだ。
寝ていた体を起こすと、辺り一面に草原が広がっていることが分かった。
爽やかな風が俺の頬を優しくなで、草たちは風で揺れる。
「どうなってんだ?」
確か俺は…マグナと一緒に戦っていたんじゃ……そういえば、ゴリルサギとかいう魔獣と戦って………それで…………
そこで一つの結論に至る。
もしかして俺、死んじまったのか!?
だとすれば、この状況に説明がつく。今まで俺は森の中で生活していたんだ。それなのに目が覚めると、周りには何もない草原に寝ていた。
「マ…マジかよ…」
転生して、まだ全然時間が経っていないのに、死んじまったのか………
「そういえば、マグナの姿が見えないな。ここにいないってことは、マグナは死んでないってことか?良かった…」
俺は今ここにはいない相棒のことを考える。
気さくで、気遣いが出来て、料理が上手くて、少し天然なところもあって、不器用だけど優しくて…とても頼りになる俺の相棒…
マグナ…無事…だよな……?
◇
アッシたちがゴリルサギに敗北して二日が経った。だけど、アニキはまだ目を覚まさない。
「アニキ…早く起きて下せぇ…ほら、料理が冷めちまいやすよ…」
アニキはいつもアッシの料理を美味しいと言って食べてくれる。でも、今は何も反応をしてくれない。
アッシはアニキの体の包帯を外す。
あれだけボロボロだったアニキの体は、驚くことに、たった二日で治っていた。体の内側までは分かりやせんが、恐らくこの回復力なら、もうほぼ完治していると思う。
なのに、アニキは起きてくれねぇ…
「アニキ……アッシは、どうすれば…」
このままリトラのアニキが目を覚まさなければ、アッシは…
今は、アニキがいつ目を覚ましてもいいように、そばにいるしかなさそうですね。こんな時、何もできない自分が悔しい。
「アニキ、アッシはアニキを…信じていやすから」
マグナは、まだ目覚めぬ少年にそう告げる。
きっと目を覚まして、いつものように笑いかけてくれると、そう信じて。
◇
見渡す限り、地平線の彼方まで続いている草原を、どれだけ歩いただろうか。正直、少し疲れてきた。
「どうなってるんだ?天国ってこんな感じで、何もない所なのか?」
ずっと歩き続ける天国…それって天国なのか?
待てよ…もしかして、前提から間違っているのか?すると、ここは…まさかとは思うが、地獄…とか。
「…ってそんなわけないよな」
はぁ…とため息をついて、俺は周囲を見渡す。すると、さっきまでは見えなかった物が視界に映る。
「何だあれ?」
俺はそれに向かって歩き出す。遠目に見えるそれは、近づくにつれて、段々とその姿を現してくる。
「木…なのか?」
ある程度近づいたところで見えてきたのは、大きな木だった。草原の中にポツンと一本だけ立っており、相変わらず周りにはその木以外何もない。
が、俺はあることに気づいた。
「……人…か?」
木に向かって歩いて行くと、人が木にもたれかかって座っているのが見えた。
何故だか、その人を見ていると、胸が締め付けられるように痛くなる。
やがて木の元へたどり着いた時、その人物が女の子であることが分かった。女の子は十歳ほどで、紅い髪色をしており、木にもたれかかり眠っていた。
そして、その女の子を見た瞬間、俺の頬を熱いものが伝う。俺は、何故か涙を流していた。
「何で…どうしてこんなに苦しいんだ?」
俺は涙を拭い、前を向く。
目の前で眠る女の子に、どこか懐かしさと切なさを感じる。
どこかで会ったことがあるのか?
俺は自分の記憶を振り返るが、思い出せない。
俺は、恐る恐る手を伸ばす。そして、その手が女の子の肩に触れようとした瞬間、その子から、眩しい程の光が放たれる。
「な、何だ!?」
その光は、とても暖かく、俺を優しく包み込んでくれているようだった。
やがて、世界の全てが光に覆われていく中で、女の子の姿が見えた。だが、その姿は遠く、どんどん離れて行っているようだった。
俺は届かないと分かっていたが、右手を伸ばした。
「ま…待ってくれ!俺は…お前を……………………」
そこまで言って、俺の意識は途切れた。
俺は一体…あの子に何て言おうとしたんだ…………
◇
夢…だったのか?いや、それにしてはやけに現実に近かったような……ん!?
「…………何だこれ」
意識がはっきりしてきた時、最初に口から出たのがその言葉だった。
あの不思議な世界で光を浴びて、意識を失い、再び目を覚ますと、何故か全身に葉っぱがびっしりと付着していた。
多分、あのお人好しの熊が薬草を付けてくれたんだろうな。
俺は寝ていた体を起こす。顔全体を覆っている薬草をはがし、軽く体を動かす。
………よし、何も問題はなさそうだな。
「マグナー?いるかー?」
洞窟の奥に向かってそう呼びかける。すると…………
「ア……ニキ………やっと、やっと起きたんですね!」
マグナは洞窟の奥から顔を出し、そして、俺の方へ飛んでくる。
「アッシは信じていやした!アニキは必ず起きるって!」
「心配かけちまったな。ありがとうな、マグナ!」
マグナは、どこかから取り出したハンカチで目元を拭い、鼻をチーンとかみ、こちらに笑顔と涙でくしゃくしゃになった顔を向ける。
「いえいえ、そんな…いいんすよ!」
マグナは嬉しそうに俺の周りをグルグルと飛び回る。
「あれから…ゴリルサギに負けてから、どれくらい経ったんだ?」
ゴリルサギに敗北し、その時に受けたダメージでしばらく眠っていたのは分かる。
マグナは、空中でピタッと動きを止め、俺の方へ向き直る。
「ゴリルサギに負けて、アニキは三日間眠り続けていやした」
「三日もなのか…」
「ええ…体は一日ほどで治っていたのにも関わらず、ですぜ…」
体が治っていても、意識が戻らなかったということは、それほどの攻撃を受けたと言うことか…それとも、俺が眠り続けていたことと、あの夢が何か関係があるのか?
「そうだったのか……マグナ、俺は悔しいよ。あいつと戦って、そして負けて…こんなにも悔しくなるなんてな」
「アニキ……」
一週間で強くなる。そう宣言して、その半ばで、ゴリルサギと出会ってしまった。生きているのが奇跡なんだろうな。
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