第2話 戦い④
「マグナ…あれって、もしかして…」
恐る恐るマグナに問いかける。すると、予想していた答えが返ってくる。
「ええ…ドリルサギの
あれがドリルサギの
心の中で、そんな風にツッコミを入れながらもゴリルサギを観察する。
あれだけ怒りに身を任せながら襲い掛かって来たゴリルサギだったが、今はこちらをじっと見つめたまま身動き一つとらないでいる。恐らく、俺がゴリルサギの初撃を躱したから、警戒をしているんだろう。その動きの節々に、知性のようなものを感じられる。
「アニキ…逃げやしょう…」
マグナは小さな声で呟く。
確かに、ゴリルサギが警戒しているうちに逃げればいい。普通の魔物なら逃げ切ることは可能だと思う。
だが、あいつは恐らく知恵がある。今ここで逃げれば、俺たちの拠点である洞窟へ奇襲を掛けてくる可能性が高いと思う。
「…アニキ?一体何を?」
俺は、ゴリルサギに向けて、一歩足を踏み出していた。
何故かは分からないが、俺の心臓は早鐘を打ち、体は妙に高揚していた。
これは恐らく、恐怖じゃなくて、きっと別の何かだと思う。
「マグナ…少し、離れていてくれ」
マグナは先ほど、魔法を撃って魔力を消費している。戦いに巻き込んでしまう恐れがあるので、少し距離を取ってもらうことにする。
「ぎゅう~」
俺が近づいていくと、ゴリルサギは唸り声を上げながら、拳を構える。まるで格闘家のような立派な構えは、歴戦の猛者を思わせる。
「悪いが、ここでお前を倒させてもらうぞ」
俺はゴリルサギの真正面に立ち、拳を構える。
本来なら、一週間たっぷりと使って強くなってから戦う方が良かったが、ここであったが何とやらだ。
俺とゴリルサギは、しばらく動かず、お互いに様子を見ていた。
そして数秒後、ゴリルサギの咆哮で戦いの火蓋が切られた。
「ぎゅぉぉぉおおおおお!!!!!」
ゴリルサギは、大きな体で突進を繰り出す。デカい図体なのになかなか素早く、俺は避けるので精一杯だった。
「くっ…」
ゴリルサギの突進をギリギリで右に飛んで躱し、すぐに体制を立て直す。
ゴリルサギは、減速出来ないのか、そのまま目前に迫った木にぶつかる…かと思いきや、左手で木を掴み、遠心力を使ってターンし、俺に向かって飛び蹴りを繰り出してきた。
「いっ!?マジかよ!?」
体制を立て直したばかりの俺だったが、ゴリルサギの飛び蹴りを紙一重で避ける。
だが、避けたと思っていたが、右頬が熱いことに気づき、触れてみる。すると、手にべったりと血が付着していた。恐らく、風圧で頬が切れたんだろうな。
「ぎゅう~」
俺に攻撃が当たらず、少し不機嫌そうな声を出すゴリルサギ。
(あんな攻撃を一度でも受けると一発KOだな。でも、避けてばかりじゃ勝てないし…どうするか)
確かに、ゴリルサギの攻撃はとても強力だ。だが、避けられない程じゃない。
問題は、どうやって懐に潜り込むかだ。
そんなことを考えている間に、ゴリルサギは後ろを向いて、ゴソゴソと何かをしていた。
「んん~?はっ!?な、何だよそれっ!?」
ゴリルサギが作業を終えて、こちらを向く。その右手には丸太のようなものを持っており、ブンブンと振っては使い心地を確かめているようだった。
恐らくだが、最初ゴリルサギが現れた時に自分でなぎ倒した木を加工して作ったものだと思う。頭良すぎないか?本当に。
「ぎゅうっ!ぎゅぎゅう!!!」
右手に持った丸太を俺に向けて、何か言っている様子のゴリルサギ。
そして、一気に駆け出し、俺との距離を詰めてきた。
「ありかよそんなの!」
素早い動きにリーチの長い武器。反則だと思う。はっきり言って、ここまで賢いとは思っていなかったので、油断していた。
「ぎゅう!!!」
ゴリルサギが右手に持った丸太を、左から右へ、周りの木々をなぎ倒しながら力任せに振りぬく。
俺は前方へ飛び、地面に倒れこむようにして、身を伏せる。
時間にして一瞬の出来事だが、俺はゴリルサギの動きを完全に見切っていた。
……………………はずだった。
「がはっっっ………!?」
ゴリルサギの動きを読んで、回避することはできた。だが、ゴリルサギの方が一枚上手だった。
肺の中の空気が一瞬にして、外に出ていく感覚。遅れてやって来る腹部の鈍い痛みと共に、何故か俺は宙を舞っていた。
(何が起こったんだ…………)
俺は確かに地面に身を伏せたはずだ。だけど何故か腹部に攻撃を受けた。
受け身を取ることも出来ずに背中から木にぶつかった俺の体は、背の痛みよりも腹部の痛みの方が強く、立ち上がることが出来ずにいた。
ゴリルサギの方へ顔を向けると、さっきまで俺がいた場所に地面から岩のような杭が伸びていた。
「くっそっ………けほっ……」
口元を拭うと、口内を切ったのかべったりと血が付着している。
ゆっくりと立ち上がろうとするが、足が震えて上手く立てずにいた。
「ア…アニキ!!!」
マグナが俺の名を叫んだ直後、ゴリルサギが上空へ飛び上がる。そして、俺の目の前に降りたつ。
「ぎゅう!ぎゅぎゅぎゅう!!!」
「ま…負けて……たまるか!」
俺は最後の力を振り絞って立ち上がり、ゴリルサギ目掛けて渾身の右ストレートを繰り出す。
俺の右ストレートは、ゴリルサギの腹部に当たる。が、ゴリルサギは微動だにせず、俺の攻撃が効いていないことが分かった。
「ぎゅう!!!」
ゴリルサギは丸太を横に置き、左手を前に出し、握った右手を腰に当てる。その構えは、熟練の武道家が正拳突きを放つ前の動作によく似ていた。
そして、シュッという風切り音と共に俺は吹き飛ばされ、いくつもの木々にぶつかり、なぎ倒しながら、大きな岩にぶつかり止まった。
「そ…そんな……アニキ!」
薄れゆく意識の中で、マグナの声が聞こえる。
「アニキ!しっかりして下せぇ!絶対に死んじゃダメですからね!!!」
「マ………マグ…ナ……に…げろ…」
俺はそこで意識を失った。
「出来やせんぜ!そんなこと!アッシは絶対にアニキを置いて、逃げたりしやせん!」
リトラが意識を失った少し後、ズシンと地面が揺れる。マグナが後ろを振り向くと、ゴリルサギがゆっくりとマグナたちの方へと歩いて来ていた。
「やらせねぇ…リトラのアニキはアッシが守る!」
マグナはリトラを庇うように両手を広げて、ゴリルサギと対峙する。
ゴリルサギは、マグナとリトラを交互に見て、暫く動きを止める。
そして、何故か攻撃してこずに、森の中へと帰っていった。
「…………っっはぁぁぁああ………」
マグナは安堵から深く息を吐く。
「はっ…アニキ!」
マグナはすぐにリトラの容態を確認する。どうやら今は気を失っているだけで、ちゃんと息をしている。
「よ…良かった。ひとまず、命の危険はないようですね。早く戻って治療しねーと」
そう言うとマグナは、周囲の警戒をしつつ、リトラを担いで洞窟へと急ぐ。
「アニキは死なせやしやせん…絶対に!」
マグナはそう固く心に誓うのであった。
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