第2話 戦い③

 翌日、早速森へと足を踏み入れたが、一日目とは違い二日目は、初めからドリルサギの群れと出くわす。その数は約二十羽程か。

「やっぱり、この数で群れているということは、ドリルサギの特異種シークレットが出現したみたいですぜ!」

「ああ、昨日よりも少ないけど、この数は厄介だな」

 俺たちは、ドリルサギの群れに見つからないように、近くの茂みへと身を隠した。

 マグナは勇者の仲間だったが、非戦闘員だと言っていた。だから、俺が戦わないと。

「アニキ…あの数はやっぱり無茶ですぜ、ここは一度退却した方がいいと思いやすが…」

 確かにマグナの言う通りだと思う。

 でも、ここで逃げて何になる?

「マグナは、何か出来ることはあるか?」

「アッシですかい?アッシは、土の魔法と、幻惑魔法を少々使えるぐらいですね」

 土の魔法と幻惑魔法か…どんな魔法があるか分からないが、今使うなら幻惑魔法の方がいいか…

「そうか…なら、幻惑魔法って実戦で使えるのか?」

「そうですね…ほんの数秒ほど相手の動きを止めるぐらいですかね」

 ほんの数秒でも、奇襲を仕掛けるには十分過ぎる時間だな。

「よし!分かった!それじゃあ、俺が合図をしたら、ドリルサギの群れに向かって幻惑魔法を打ってくれ!」

「わ…分かりやした!頑張りやす!」

 俺たちは、茂みからドリルサギの様子を伺う。どうやら今は食事をしているようだ。

「マグナ…準備はいいか?」

「ええ、いつでも行けやすぜ!」

 マグナの方へと目をやると、薄紫色のオーラのようなものを纏っていた。

 そういえば、この世界に来てから、初めて魔法を見る。こんな感じなのか。

 っといけない、今はドリルサギの群れに集中しないとな。

「よし…じゃあ…三…ニ…一…今だ!!!」

「いきやす!!!《暗き月影の道化師》《ファントム・クラウン》」

 俺が茂みから飛び出したのと同時に、マグナの魔法が放たれる。

 黒い霧のようなものが、ドリルサギの群れを覆ったかと思いきや、すぐに霧散する。霧に当たったドリルサギたちは、動きを止め、何が起こったか分からない様子で周囲を警戒している。

 そして俺はその隙を見逃さず、一番近くにいたドリルサギを、右足で蹴り上げた。

「はぁぁぁぁああああ!!!」

 俺の全力の蹴りは、見事にドリルサギの体を捉え、その体を吹き飛ばした。

「おお!さすがですアニキ!」

 きゅう〜と鳴きながら、吹き飛んだドリルサギのことを、少しばかり可哀想だと思ったが、これも生きるためなんだ、許して欲しい。

 ………などと考えていた俺は、この時、真に可哀想なのは俺の方だと気づいてなかった。

「ア…アニキ!後ろ!」

「へ?」

 マグナにそう言われ、振り向いた先に、5羽のドリルサギがいた。恐らく、マグナの魔法が解けて、俺の背後に回り込んだんだろう。

 そして気がつけば、全方位をドリルサギたちに囲まれてしまっていた。

「……えっと…マグナ…さっきの魔法をもう一度使ってくれ…」

 俺はとっさにマグナの方へと顔を向けるが、マグナは今にも泣きそうな顔で、俺を見つめていた。

「アニキ…すいやせん…アッシの魔力は、さっきのでもうありやせん…」

「……え…」

 じゃあどうする?考えろ俺!この数を倒す方法を!俺は戦闘民族だ、戦えば戦うほど強くなるという種族だ!ここで逃げていたら、一生強くなれない!

 だが、一対一ならなんとか勝てそうって相手が二十羽ほどいるこの状況…今の俺じゃ、どうすることも出来ない。

「ア…ア…アニキィィィィイイイ!!!」

 この後、マグナの魔力が回復するまで、ドリルサギたちの蹂躙は続いた…………

 三日目、まだ前日の傷が癒えていないが、俺とマグナは再び森の中でドリルサギと相まみえていた。

 二日目と違うところは、昨日よりもドリルサギの数が少なく、十羽にも満たない数であるところだ。

 最早怨敵となった、憎きドリルサギに一矢報いるために、俺とマグナは奇襲を仕掛け、絶賛交戦中というわけだ。

「くそっ!すばしっこいな!」

「アニキ!落ち着いて、敵の動きをよく見て下せぇ!アニキなら出来るはずだ!」

 そう言われても、ドリルサギはとても素早く、うさぎと同じぐらいの大きさのため、奇襲の右足シュート以外は、ほぼ攻撃が当たらない。

 俺の体が子供で、腕や足が短いというのもあるだろうが、それでなくても当たる気がしない。

「はぁっ…はぁっ…」

 俺が息を切らしている反面、ドリルサギたちは、俺を嘲笑うかのように、自分の体をかいたり、横になって寝ていたりと、最早敵とすら思われていないようだった。

「ち…ちくしょう…マグナっ!魔力は回復したか!」

 俺はマグナを見る。が、マグナは首を横に振る。

「すいやせんアニキ!まだ魔法を撃てるほど回復してやせん!」

 マグナは何も悪くない。マグナは元々非戦闘員だ。謝る必要はない。

 俺がもっともっと強くなればいいだけの話だからな!

「うぉぉおおおおおお!!!」

 この日俺は、夕暮れ時までドリルサギの群れと戦っていたが、段々とドリルサギの数が増えていき、拮抗していた勝負が徐々に劣勢となり、またもや蹂躙された。

 ドリルサギ………強すぎじゃないか………?

 変化が起きたのは、四日目のことだった。

 これまでと同じように、ドリルサギの群れを見つけては奇襲をかけていたのだが、最初の右足シュートを受けたドリルサギが、ピクリとも動かなかった。

 それに加え、突然ドリルサギの動きが遅く感じられ、試しにカウンターを合わせてみると、こちらも一撃で倒すことが出来た。

「…どういうことだ?」

 散り散りに逃げ去って行くドリルサギを見ながら、ポツリと呟く。

「アニキは戦闘民族ですからね、この数日で、ドリルサギと戦い続けることで、強くなったんですぜ!」

 確かに、今までとは圧倒的に何かが違う。感覚が研ぎ澄まされ、思うように体が動く。

 これが強くなるってことなのか?ちょっと違和感があるけど、確実に強くなっていってるのか。

「そう言えば、最初にドリルサギにボコボコにやられたとき、全身が傷だらけになったのに、昨日やられた傷はもう治ってるんだけど、回復が早くなってるような?」

「恐らくですが、それは戦闘民族とは関係ありませんぜ!」

「そうなのか?」

 俺がそう問うと、マグナは「ええ」と言いながら、首を縦に振る。

「じゃあ、何でなんだ?」

 回復力が高いことが、戦闘民族ルビア人の特性じゃないとすれば、一体何でなんだ?

「う~ん…残念ながら、それはアッシには分からないです」

「そうなのか…」

 物知りなマグナでも、戦闘民族ルビア人については、詳細を知らないという。

 いずれ大きな街などで、詳しいことを調べてみるとするか。

「それより、これからどうしやす?もう一度、ドリルサギを探してみやすか?」

「そうだな…この感じだと、少し大きな群れと戦ってみても良さそうだな」

「そうですね、アッシも大丈夫だと思いやすぜ!」

 マグナはそう言い、俺の前に拳を突き出してくる。

 そうか…この世界にも、こういうのがあるのか。

 俺はマグナの拳に自分の拳を当てる。言葉に出さなくても、俺たちは心で通じ合っているんだな…相棒!

「次も頼りにしてるぜ!相棒!」

「ア…アニキ…ええ!任せて下せぇ!!!」

 こうして、俺たち二人は熱い友情を結んだ。


 この後、調子に乗ってしまった俺とマグナは、ドリルサギの大群に奇襲を仕掛け、返り討ちにあった。

 勝てると思っていたが、現実はそんなに甘くはなかった。

 五日目、今日も今日とてドリルサギと死闘を繰り広げている時だった…がやって来たのは。

 ドリルサギを倒し過ぎたのか、あるいは縄張りを荒らし過ぎたのか、憤怒の化身ともいえるが、俺を標的に襲い掛かって来たのだ。

「な!?何だこいつは!?」

「あ…あぁ…そんな……こいつは…」

 俺たちの目の前に突如として現れたは、大きな腕を振るい木々をなぎ倒す。

 その姿は、顔は兎で、ドリル型の角が額から三本生えており、さらに驚くべきことに、ゴリラのような体をしていた。

 うさぎは、四本の足で飛んだり跳ねたりするが、こいつは二本の足でしっかりと歩いている。

 そして、マグナが言っていたように、その大きさは普通のドリルサギの十倍はある。

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