第2話 戦い③
◇
翌日、早速森へと足を踏み入れたが、一日目とは違い二日目は、初めからドリルサギの群れと出くわす。その数は約二十羽程か。
「やっぱり、この数で群れているということは、ドリルサギの
「ああ、昨日よりも少ないけど、この数は厄介だな」
俺たちは、ドリルサギの群れに見つからないように、近くの茂みへと身を隠した。
マグナは勇者の仲間だったが、非戦闘員だと言っていた。だから、俺が戦わないと。
「アニキ…あの数はやっぱり無茶ですぜ、ここは一度退却した方がいいと思いやすが…」
確かにマグナの言う通りだと思う。
でも、ここで逃げて何になる?
「マグナは、何か出来ることはあるか?」
「アッシですかい?アッシは、土の魔法と、幻惑魔法を少々使えるぐらいですね」
土の魔法と幻惑魔法か…どんな魔法があるか分からないが、今使うなら幻惑魔法の方がいいか…
「そうか…なら、幻惑魔法って実戦で使えるのか?」
「そうですね…ほんの数秒ほど相手の動きを止めるぐらいですかね」
ほんの数秒でも、奇襲を仕掛けるには十分過ぎる時間だな。
「よし!分かった!それじゃあ、俺が合図をしたら、ドリルサギの群れに向かって幻惑魔法を打ってくれ!」
「わ…分かりやした!頑張りやす!」
俺たちは、茂みからドリルサギの様子を伺う。どうやら今は食事をしているようだ。
「マグナ…準備はいいか?」
「ええ、いつでも行けやすぜ!」
マグナの方へと目をやると、薄紫色のオーラのようなものを纏っていた。
そういえば、この世界に来てから、初めて魔法を見る。こんな感じなのか。
っといけない、今はドリルサギの群れに集中しないとな。
「よし…じゃあ…三…ニ…一…今だ!!!」
「いきやす!!!《暗き月影の道化師》《ファントム・クラウン》」
俺が茂みから飛び出したのと同時に、マグナの魔法が放たれる。
黒い霧のようなものが、ドリルサギの群れを覆ったかと思いきや、すぐに霧散する。霧に当たったドリルサギたちは、動きを止め、何が起こったか分からない様子で周囲を警戒している。
そして俺はその隙を見逃さず、一番近くにいたドリルサギを、右足で蹴り上げた。
「はぁぁぁぁああああ!!!」
俺の全力の蹴りは、見事にドリルサギの体を捉え、その体を吹き飛ばした。
「おお!さすがですアニキ!」
きゅう〜と鳴きながら、吹き飛んだドリルサギのことを、少しばかり可哀想だと思ったが、これも生きるためなんだ、許して欲しい。
………などと考えていた俺は、この時、真に可哀想なのは俺の方だと気づいてなかった。
「ア…アニキ!後ろ!」
「へ?」
マグナにそう言われ、振り向いた先に、5羽のドリルサギがいた。恐らく、マグナの魔法が解けて、俺の背後に回り込んだんだろう。
そして気がつけば、全方位をドリルサギたちに囲まれてしまっていた。
「……えっと…マグナ…さっきの魔法をもう一度使ってくれ…」
俺はとっさにマグナの方へと顔を向けるが、マグナは今にも泣きそうな顔で、俺を見つめていた。
「アニキ…すいやせん…アッシの魔力は、さっきのでもうありやせん…」
「……え…」
じゃあどうする?考えろ俺!この数を倒す方法を!俺は戦闘民族だ、戦えば戦うほど強くなるという種族だ!ここで逃げていたら、一生強くなれない!
だが、一対一ならなんとか勝てそうって相手が二十羽ほどいるこの状況…今の俺じゃ、どうすることも出来ない。
「ア…ア…アニキィィィィイイイ!!!」
この後、マグナの魔力が回復するまで、ドリルサギたちの蹂躙は続いた…………
◇
三日目、まだ前日の傷が癒えていないが、俺とマグナは再び森の中でドリルサギと相まみえていた。
二日目と違うところは、昨日よりもドリルサギの数が少なく、十羽にも満たない数であるところだ。
最早怨敵となった、憎きドリルサギに一矢報いるために、俺とマグナは奇襲を仕掛け、絶賛交戦中というわけだ。
「くそっ!すばしっこいな!」
「アニキ!落ち着いて、敵の動きをよく見て下せぇ!アニキなら出来るはずだ!」
そう言われても、ドリルサギはとても素早く、うさぎと同じぐらいの大きさのため、奇襲の右足シュート以外は、ほぼ攻撃が当たらない。
俺の体が子供で、腕や足が短いというのもあるだろうが、それでなくても当たる気がしない。
「はぁっ…はぁっ…」
俺が息を切らしている反面、ドリルサギたちは、俺を嘲笑うかのように、自分の体をかいたり、横になって寝ていたりと、最早敵とすら思われていないようだった。
「ち…ちくしょう…マグナっ!魔力は回復したか!」
俺はマグナを見る。が、マグナは首を横に振る。
「すいやせんアニキ!まだ魔法を撃てるほど回復してやせん!」
マグナは何も悪くない。マグナは元々非戦闘員だ。謝る必要はない。
俺がもっともっと強くなればいいだけの話だからな!
「うぉぉおおおおおお!!!」
この日俺は、夕暮れ時までドリルサギの群れと戦っていたが、段々とドリルサギの数が増えていき、拮抗していた勝負が徐々に劣勢となり、またもや蹂躙された。
ドリルサギ………強すぎじゃないか………?
◇
変化が起きたのは、四日目のことだった。
これまでと同じように、ドリルサギの群れを見つけては奇襲をかけていたのだが、最初の右足シュートを受けたドリルサギが、ピクリとも動かなかった。
それに加え、突然ドリルサギの動きが遅く感じられ、試しにカウンターを合わせてみると、こちらも一撃で倒すことが出来た。
「…どういうことだ?」
散り散りに逃げ去って行くドリルサギを見ながら、ポツリと呟く。
「アニキは戦闘民族ですからね、この数日で、ドリルサギと戦い続けることで、強くなったんですぜ!」
確かに、今までとは圧倒的に何かが違う。感覚が研ぎ澄まされ、思うように体が動く。
これが強くなるってことなのか?ちょっと違和感があるけど、確実に強くなっていってるのか。
「そう言えば、最初にドリルサギにボコボコにやられたとき、全身が傷だらけになったのに、昨日やられた傷はもう治ってるんだけど、回復が早くなってるような?」
「恐らくですが、それは戦闘民族とは関係ありませんぜ!」
「そうなのか?」
俺がそう問うと、マグナは「ええ」と言いながら、首を縦に振る。
「じゃあ、何でなんだ?」
回復力が高いことが、戦闘民族ルビア人の特性じゃないとすれば、一体何でなんだ?
「う~ん…残念ながら、それはアッシには分からないです」
「そうなのか…」
物知りなマグナでも、戦闘民族ルビア人については、詳細を知らないという。
いずれ大きな街などで、詳しいことを調べてみるとするか。
「それより、これからどうしやす?もう一度、ドリルサギを探してみやすか?」
「そうだな…この感じだと、少し大きな群れと戦ってみても良さそうだな」
「そうですね、アッシも大丈夫だと思いやすぜ!」
マグナはそう言い、俺の前に拳を突き出してくる。
そうか…この世界にも、こういうのがあるのか。
俺はマグナの拳に自分の拳を当てる。言葉に出さなくても、俺たちは心で通じ合っているんだな…相棒!
「次も頼りにしてるぜ!相棒!」
「ア…アニキ…ええ!任せて下せぇ!!!」
こうして、俺たち二人は熱い友情を結んだ。
この後、調子に乗ってしまった俺とマグナは、ドリルサギの大群に奇襲を仕掛け、返り討ちにあった。
勝てると思っていたが、現実はそんなに甘くはなかった。
◇
五日目、今日も今日とてドリルサギと死闘を繰り広げている時だった…それがやって来たのは。
ドリルサギを倒し過ぎたのか、あるいは縄張りを荒らし過ぎたのか、憤怒の化身ともいえるそれが、俺を標的に襲い掛かって来たのだ。
「な!?何だこいつは!?」
「あ…あぁ…そんな……こいつは…」
俺たちの目の前に突如として現れたそれは、大きな腕を振るい木々をなぎ倒す。
その姿は、顔は兎で、ドリル型の角が額から三本生えており、さらに驚くべきことに、ゴリラのような体をしていた。
うさぎは、四本の足で飛んだり跳ねたりするが、こいつは二本の足でしっかりと歩いている。
そして、マグナが言っていたように、その大きさは普通のドリルサギの十倍はある。
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