第1話 転生②

「えっと…何だかよく分からないんだけど?」

「ああ…すいやせん!」

 俺が困惑している様子を見て、マグナは落ち着きを取り戻す。

「いや、いいんだ。マグナは色々しってるんだよな?」

「ええ!そりゃあもちろん!」

 自信満々に答えるマグナ。この様子だと本当に色々知っているみたいだな。

「じゃあ悪いんだが、色々教えてくれないか?」

「ええもちろん!順をおって説明しますぜ!」

 マグナは元気いっぱいの返事と満面の笑みでそう答える。この熊はいい奴だな。

「ではまず、この世界についてお話しやすね!アッシたちが生きるこの世界の名前はグランディアと言いまして、様々な国家と人種がありやす。大きな国で言うと、北のタニス帝国、西のバルガス連合国、南のロベルカ魔術都市、そして、東のノア王国がありますぜ!」

 なるほど…この世界はその四つの国が力を持っているというわけか。なかなか興味深いな。

「この世界は人間と亜人という種族があり、人間はこの世界では最も多く、亜人はエルフやドワーフ、竜人や獣人、魔族、天使、そして悪魔など、人間との混血もあわせて亜人と呼ばれ、人間よりも数は少ないです」

 亜人か…やっぱり異世界にはいるんだな。どんな姿なんだろうか?物語などでよく聞く姿をしているのか?それとも違う?期待に胸を膨らませながら、俺はマグナに続きを促す。

「タニス帝国は人間の皇帝が治め、人の割合も人間が多く、西のバルガス連合国は様々な小さな国の連合国家なので、統治する王は一人ではありやせん。南のロベルカ魔術都市は人魚の女王が治めており、その名が示すように魔術の研究が盛んです。東のノア王国は…あまり知りやせんが、確か人間の王が国を治めていると聞いたことがありますぜ!」

 マグナは本当に色々なことを知っており、実に勉強になる。命を助けてもらい、この世界のことも事細かに教えてくれるので、本当に感謝してもしきれないぐらいだ。

「とまぁこの世界のことはこれぐらい知っていればいいと思いやす。次は…」

 マグナがそう言いかけた時、俺のお腹が盛大に鳴る。

 このタイミングで鳴るとは…ちょっと恥ずかしい。

「ははっアニキはお腹が空いてるんすね!起きたら何か食べるかなと思って、作った物があるんすよ!ちょっと待ってて下せーね!」

 マグナはそう言うと、洞窟の奥までパタパタと飛んで行く。しばらく待っているとマグナは茶色い土鍋のようなものを持って帰って来た。

 そんな……まさか…この匂いは…

「はいっお待たせしました!アニキは体中がボロボロだったので、消化に良いものをと思って…」

 マグナは土鍋の蓋を開ける。

 間違いない…この匂い…そしてこの色…まさか、この世界でもあっただなんて………

「お粥にしてみやしたぜ!」

「おぉ………まさか、この世界にお米があるなんてな………」

 俺は感動のあまり無意識のうちに声が出てしまう。この世界に転生したのだと分かった時から、向こうの世界の食べ物は食べられないのかと考えていたが、まさか存在していて、しかも米だとはな…

「ささっアッシが手伝うんで、熱いうちに食べてくだせぇ!」

 俺はお言葉に甘えてマグナに食べさせてもらうことにした。若干気恥ずかしさがあったものの、マグナの好意に甘えさせてもらった。

 口の中に広がる優しい味は、俺の心とお腹を満たしてくれた。

「さてと、さっきの話の続きをしましょうかね」

 土鍋を片付けたマグナは再び俺の前へと飛んでくる。

「えっと、確かこの世界の説明をしていたよな?」

「ええ、大雑把にですがね。次はアニキを鑑定鏡で見た結果、分かったことをお伝えしようと思っていやした」

 確かマグナは鑑定鏡で俺を見た時に、色々と気になることを言っていた。

「じゃあ、分かったことを教えてほしい」

「もちろん!アニキの頼みは断れねぇですから!」

 何故ここまで信頼されているのかよく分からないが、この人懐っこい熊はとてもいい笑顔で返事を返してくれる。

「まず、この鑑定鏡から説明をしやすね」

 そう言いながら、マグナは近くにあった鑑定鏡を手に取る。

「この鑑定鏡で人を見ると、名前、種族、加護、スキルなど、様々な情報を閲覧することが出来やす」

 なるほど…あっちの世界の漫画やアニメで出てくる様な情報を見るための道具か。

「そして、これでアニキを見ると、種族と加護以外何も情報がありやせんでした」

 マグナは鑑定鏡を右目に当て、再び俺を見る。結果は変わらなかったのか、その表情は少し険しい。

「と言うことは、名前とスキルがないってことか?」

 俺の問いにマグナは首を縦に振る。

「ええ、ですが名前とスキルはどうにでもなりやす。名前がない場合、自分でつければそれがこの世界での名前となり、スキルは初めから持っている人の方が少なく、後から習得している人の方が多いですぜ!」

 ふむふむ。なるほど…名前は後でかっこいいのを付けるとするか。スキルも後で習得方法を聞くとしよう。

 何だかこういうの、凄いワクワクしてしまうな。子供に転生したことで、精神年齢もそっちに引っ張られているのかも知れないな。

「ん?ていうか俺、加護を持っているのか?」

「ええ!ありますぜ!アニキが持っている加護は、女神アルカナの加護と言うものです」

 女神の加護!?そんなものを俺はいつの間にか持っていたのか。

「ちなみに、その加護は何か効果とかあるのか?」

 マグナはそんな俺の問いに対して、しばらく考え込んだ後、こう言った。

「いや~恐らくはない…とは言い切れないですがね、アッシもそんなには知らないんです。ただ…アルカナの加護を持つものは共通しているものがあります」

「共通?」

「そうですぜ!この加護を持つものは、異世界からやって来たものだと言われています」

 なるほど…だからマグナは俺が異世界からやって来たと分かったのか。

「と言うことは、俺の他にも異世界人がいるってことなのか?」

 俺の他にもいるとしたらどんな人なんだろうか?俺みたいに急に森の中にいたとかだったら……その人とは友達になれそうな気がするな。

「そうですね…いるというより、正確にはいたというのが正しいですがね」

「いた?つまり、もういないのか?」

「ええ…アッシが知っている限りでは二人いましたぜ」

 二人か…俺を合わせて三人…もしかしたらマグナが知らないだけでもう少しはいるかもしれないが、思っていた以上に少ないな。

「えっとですね、四千年前に起きた、天界と魔界による大戦争を治めた人間が、アルカナの加護を持っていたと言われており、千年前の全大陸戦争のときに召喚されたのが、二人目のアルカナの加護を持つものでした。」

「待て待て待て!そうなると、同じ加護を持つ俺も何かに巻き込まれそうじゃないか?」

 話を聞く限り、アルカナの加護を持つものは、大きな争いに巻き込まれている。

 つまり、同じ加護を持っている俺も、何かの争いを止めるために召喚された可能性が高いと言うことだ。

 一般的な家庭に生まれ、平々凡々とした俺が、争いのない平和な世界でただの社畜だった俺が、そんな大それた使命を全うできるとは思えない。

「確かに、アルカナの加護を持つ者は、大いなる使命を背負っていやすね。ちなみにですがね、この加護を持つものは、勇者と呼ばれていましたぜ!」

「ゆ…勇者…だと…」

 正直言って、かっこいいとは思うが、命をしてまで欲しい名誉ではない。

「はぁ~…なるほどな、マグナが俺を異世界人と分かった理由がようやく理解できたよ。でも…」

「何か…あるんですかい?」

「最初、俺に会うためにここに来たと言っていただろ?あれは、どういうこと何だ?」

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