第4話 決着
深紅のオーラを身に
だが、目で追えない速さではない。
「これなら………」
俺は一度距離を取るために、その場から離れようとするが………
一瞬………ほんの
「……がはっ………」
気が付くと、俺は空高く吹き飛んでいた。そして、遅れてやって来る体の痛み。特に腹部に強く痛みを感じることから、恐らく腹部への攻撃。
吹き飛ばされる直前、視界の端に
フェイントを入れる魔獣って…………知性があるどころの話じゃないぞ………
「く…負けるかっ!」
俺は上空で姿勢を整え、地面の方へ向く。だが、それと同時に俺の横をゴリルサギが高速で通過。そして………
「な、なに!?」
「ぎゅごう!!!」
ゴリルサギは空中で向きを変え、オーバーヘッドキックで俺を地面に叩きつける。
「ぐ………っかはっっっ…………!」
ゴリルサギの攻撃をギリギリ両手で防げたが、地面に叩きつけられた衝撃で肺の中の空気がゴッソリ持っていかれ、口の中を切ったのか血が溢れ出て来た。
しかし、ゴリルサギは容赦なく追撃を繰り出して来る。
驚くことにゴリルサギは空中で空気を蹴り、勢いを付けて急降下、そのままの勢いで、俺へ目掛けて突っ込んで来る。
あれを食らえば、俺はもう立てない自信があるぞ………
「動け…動け動け動けっっっ!!!」
俺は歯を食いしばり、大きく横へと飛ぶ。その刹那、ゴリルサギが地面を打ち抜く。俺が先ほどまでいた場所は大きなクレーターが出来、地面には大きな亀裂が走る。
俺はその衝撃で吹き飛び、ゴロゴロとマグナのいる場所まで転がってきていた。
「はぁっ…はぁっ…」
「ア…アニキ、大丈夫ですか?」
マグナが心配そうに俺の顔を覗き込む。俺は仰向けに寝転びながら、マグナを真っ直ぐに見る。
「………マグナ」
「…アニキ?」
今の現状では、俺はあのゴリルサギに負ける。どう頑張っても、どれだけあがいても、勝つのは難しい。だけど………………
「マグナ…俺に命を預けてくれないか………?」
この戦いは、俺一人じゃ勝てない。でも、二人でなら話は別だ。勝機は十分にある!
だが、それは同時にマグナを危険にさらすことになる。はっきり言って、それだけは避けたかった。
マグナは俺の言葉を聞いた後に、俺に笑いかけて答える。
「アニキ、アッシは…アニキの相棒ですぜ!アッシたちは一心同体で、運命共同体なんですぜ!」
「マグナ…いいのか?」
「ええ!当たり前だ!それに、戦う前にアニキが言ってたじゃないすか…力を貸してくれって……一人でじゃない…二人であいつに勝ちやしょうぜ!」
マグナは俺に微笑み、手を差し伸べる。
俺はその手を掴み、マグナに引っ張られ、起き上がる。
体中全身が悲鳴を上げているが、幸いなことに骨は折れていないのか、まだ動く。
………めちゃくちゃ痛いのを我慢すればだが………
「それで、どうするんですか?」
マグナは、遠目にいるゴリルサギの方を見つつ、俺に問いかける。
ゴリルサギは動かずに、ただ俺たちの方を見て止まっている。
「それはな……あれしかない」
「あれって…昨日言ってた………あれですかい?」
「そうだ……『Z作戦』………あれしかない!」
俺たちは無策でゴリルサギに戦いを挑みに来たわけじゃない。昨日の夜、寝る前にマグナと作戦を考えていたんだ。そこで思いついたのが一つだけだった。その要となる頭文字を取って、Z作戦というわけだ。う~ん、かっこいい。
「作戦名はあれですが………やってみやしょう!」
ん…?マグナ?あれって何だ?かっこいい………よな?昨日いい作戦って言って…………そういえば作戦名を聞いた時のマグナの顔は微妙だったような……見間違いだと思ってたけど、やっぱりあれはそういう顔か!
おっといけねぇ……今はこっちに集中しないとな…………
「よし!じゃあ作戦通り、俺があいつを引き付ける。マグナは魔法が届く距離に移動して、俺の合図で魔法を放ってくれ!」
「ええ!分かりやした!アッシに任せてくだせぇ!」
俺とマグナは互いに頷き、それぞれの役割を全うするため、移動を開始する。
「ぎゅるるぅ…」
動き出した俺たちに気づいたゴリルサギは、俺とマグナを見比べた後、標的を俺に絞る。
そうだ…俺を見ろ!
この作戦はマグナの魔法にかかっている。まぁ…結果的に最後は俺がやるから、俺も被弾しちゃいけないんだけどな。
そんなことを考えていると、ゴリルサギが俺の方へと突進してくる。
何だ?あいつ、何か焦ってる?
今までのゴリルサギなら、俺とマグナが同時に動き出したら警戒しそうなのに、まるで勝負を焦っているかのような動きをしている。
「ぎゅう!」
ゴリルサギは突進に加え、右ストレートを繰り出してくる。
「うおっと……何だ?何か違和感が…………」
俺は違和感を覚える。
ゴリルサギの攻撃…それは、第二ラウンドの始めよりも確実に遅い気がした。
「ぎゅ…ぎゅぎゅうぅぅ……」
そして、ゴリルサギの体から出ていた深紅のオーラが段々と無くなっていき、やがて普通のゴリルサギに戻る。
「なるほどな、時間制限付きだったのか」
だからこそ、ゴリルサギは焦っていたのか。早く決着を付けるため、俺を倒すために。
「ぎゅ!」
だが、ゴリルサギは攻撃の手を休めない。右足で回し蹴りを繰り出し、俺が上に飛ぶことを先読みし、左ストレートを繰り出す。
シュッという空気を切り裂く音がするほど速い左ストだったが、あのオーラを纏っていた時ほどじゃない。
「はぁっっ」
空中で身動きが取れない俺は、左ストを両腕を交差させて受け止める。両腕にビリビリとした鈍い痛みが走るが、歯を食いしばり耐える。
ガードした影響で後方へと吹き飛ばされるが、空中で回転し、地面に着地。初めてやってみたが、思い通りに体が動いてくれる。
これもマグナが言っていた戦闘民族の能力なんだろう。
「アニキ!いつでもいけやす!」
いつの間にか、マグナの準備も完了していた。
ゴリルサギは一瞬マグナの方を向いたが、すぐに俺へと向き直る。
来たっ!今しかねぇ!!好機!!!
俺は大きく息を吸う。そして……………………
「マグナァァァァァアアアアアアア!!!!!!!」
ありったけの声を出して、マグナの名を叫び、ゴリルサギの元へと駆け出していく。
「頼みましたぜ!リトラのアニキ!
マグナがゴリルサギに向け放った魔法は見事に命中し、ゴリルサギの視界を奪う。
「ぎゅっ!?」
「アニキ!今だ!」
ゴリルサギは何が起こったか分からずに困惑している様子だった。
「決めてやる!」
この瞬間、この一瞬だけに、今の俺の全てを賭ける!
「はぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!」
俺はゴリルサギの懐へと潜り込み、勢いよく真上へと飛び上がる。
狙うは一つ!ゴリルサギの……顎だ!!!
「うぉぉおおおお!!!」
Z作戦………………この作戦の要の技………………それこそが
「頭突きだぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」
俺の頭とゴリルサギの顎が勢いよくぶつかり、大きな鈍い音が辺りに響く。
「いっっっっってぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!」
「ぎゅっ………ぎゅうぅぅ………………」
ズシンとゴリルサギの倒れる音と共に、俺も地面へと落ちていく。
俺は地面に落ちた後、地面をゴロゴロと転がり、ぶつかった場所を触る。
すると、ぬるっとした感触と生暖かい物に触っている感覚がして、手を見てみる。
「…あ…………これやばいやつだ………………」
ドクッドクッと頭から血が溢れ出し、止まらない。
「アニキ!大丈夫ですか!すぐに治療しやす!」
「あぁ……ありがとうな…………」
マグナがどこかから薬草を取り出し、頭にペタペタと貼り付けていく。もはや恒例行事になりつつあるな………………てか、治療ってそれであってるのか………………
なんてことを考えつつ、ゴリルサギの方へと視線を向ける。流石にもう起き上がってこないよな?俺としても、かなり良い一撃が入ったと思うんだけど……大丈夫…だよな?
すぐそばにいるゴリルサギは完全に伸びきっており、ピクリとも動かない。
「勝った………………のか?」
俺は治療をしてくれているマグナにそう問いかける。
「ええ!アッシらの勝ちですぜ!」
そうか……勝ったんだな…………俺たち、生きているんだ………
「よっしゃー!俺たちの勝ちだー!!!」
俺は嬉しくて叫ぶ。大きな声をだすと全身が悲鳴を上げ、頭の傷口からは血が噴き出すが、つい興奮してしまう。
「ああっ!駄目ですぜアニキ!大きな声を出しちゃ」
確かにそうだな…ちょっと反省。
でも、俺は確実に強くなっていると分かり、頬が緩む。
あの強敵のゴリルサギを倒せたんだ…この世界で生きていく自信がついた。
この時……俺たちは勝利の余韻に浸っていた………
そして気づけなかった……ゆっくりと起き上がっていくゴリルサギに…………
気づいた時にはもう完全にゴリルサギは起き上がり、俺たちを見下ろしていた。
そして…………………………………………………
「いやーまさか負けるとは……
「「!?!?!?」」
………………………………いや、
しかも関西弁訛りのダンディボイス………………………………え……………………
何だこれ………………………………どういう状況……………………………?
あまりの展開についていけない俺とマグナは固まり、しばらく動けないでいたのであった。
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