聖女の付き人 2
***
ファリーナの一歩後ろを歩きながら、それとなくガスールは周囲を見渡した。
再会したあの日の、襲撃についての情報は、まだ集めることが出来ていない。
「……あら、パートナーがいないからって、こんなに小さな子を連れてくるなんて」
その時、明らかに嘲るような声がかけられる。
目の前にいるのは、ラントン伯爵令嬢。
たしか、ファリーナと同じ、希少な光魔法を持ち、聖女候補として名を連ねていた。
騎士団長をしていた当時の記憶をたぐり寄せ、幼い頃の面影と現在のラントン伯爵家令嬢を重ね合わせる。
「……お久し振りです。ラントン伯爵令嬢」
気にするそぶりなど全く見せずに微笑んだファリーナは、聖女としての礼をした。
基本的に聖女は、王族であっても膝をつくことがない。
また今現在、レイブラント辺境伯領は、隣国に占領されているが、血筋を重要視する王国では、家格が上のファリーナに、無礼な言葉を投げかけることは、常識として許されない。
「ふん、隣国の手に落ちた恥ずべき家出身のくせに」
バシャリとファリーナのドレスに赤ワインがかけられる。
会場の注目が、否が応でも集まる。
「……うーん」
「悪かったわね。こんな場面を見せるなんて」
汚されたドレスなど気にもせず、ガスールを気遣うファリーナ。
「お嬢様、家格が下の人間に甘く見られてはいけません。ましてやあなた様は聖女。このような横暴は、神への冒涜であると、分からせて差し上げるべきです」
「ガスール?」
「それに、お嬢様の大切なレイブラント辺境伯家への、冒涜を見過ごすわけにもいきません」
そうだ、神への冒涜というのなら、聖騎士たちが使うあの方法がいいだろう。
残念ながら、光魔法だけは素質がないようだが、ガスールは、そのほかの全属性が使える。
「一つ、聖女は神への冒涜への裁きを独断で行う権限をもつ」
「ちょ、ガスール!?」
ガスールが上げた手のひらには、凍りの粒が集まる。炎と組み合わせることで光り輝いて。
「神を冒涜する痴れ者を拘束せよ」
途端に、ラントン伯爵令嬢の周囲には氷の檻が張り巡らされる。
「っ、もう!」
ファリーナが、小さくつぶやいた瞬間、その檻はあの日のダイアモンドダストのように七色に輝いた。
ファリーナが使った光魔法のせいで、素人には、聖騎士が使う拘束魔法と見分けがつかないだろう。
ご丁寧にガスールは、聖騎士が使う呪文を唱えたあと、無詠唱での発動したのだからなおさらだ。
もちろん、誰の目にもどちらが強者なのかは、明らかだった。
「なかなか面白かったが、それくらいにして、考えなしの愚かな小娘を許してやるように」
その時、壇上から声がかかる。
ガスールは、この声の主を知っている。
そもそも、彼が命を失うことなく、あの場所に立つことに、傭兵だった頃のガスールが、一役買っているのだから。
「は、陛下の仰せのままに」
ガスールは、速やかに跪くと、魔力による拘束を解いた。
「まあ、小娘相手に年甲斐もなく、怒りを向けてしまったな」
もはや癖になってしまった仕草と、目の前で繰り広げられた子どもがもつはずのない魔力の緻密な操作。
その姿に、ある男を重ねて、壇上から国王は、少年を見つめていた。
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