2月9日三題小噺【学園モノ】
お題:【紫色】 【蜃気楼】 【残念なメガネ】
ジャンル:学園モノ
「蜃気楼だ!」
と、早朝の昇降口に声が響く。
声の主は、私の隣で下駄箱の中を見る、残念なメガネこと渡辺くんだ。
「いや、蜃気楼の意味わかってないでしょ」
と、呆れた顔でツッコミを入れる私。
この残念なメガネと私は幼馴染であった。
高身長、清潔感のある短い髪、整った顔立ち、切れ長な瞳、そして黒ぶちメガネで、いかにもデキる男に見える渡辺くんだが、スポーツ、勉強が壊滅的にできない。
なので、魅力に全てを振った残念なメガネは、毎年バレンタインの日になると学校の女子からチョコレートを貰うことはなかった。
しかし、それは去年までの話となった。
「蜃気楼だろう!絶対!だって俺の下駄箱の中にチョコレートが入っているんだぞ!」
鼻息を荒くして、興奮する残念なメガネ。
「だから蜃気楼じゃないんだよ。蜃気楼は、遠くのものが光の屈折で普段とは、違う見えかたをするものなんだよ」と、私は語気を強くして言った。
「それなら!」
下駄箱の中にある、透明フイルムにラッピングされた、ハート形のチョコレートを掴む、残念なメガネ。
「本当だ!蜃気楼じゃない!本物だ‼デカイ‼」
叫びながら涙を流す、残念なメガネ。
私は、あきれてツッコミをする気にもなれなかった。
「一体、誰が渡辺くんの下駄箱に、そんなチョコレートを入れたのでしょうか……」と、私の後ろから、少年が意味深な表情で言った。
その少年は、両手にアニメキャラクターが印刷された紙袋を持ち、半そで短パン、低身長、たるんだ贅肉を全身にまとい、濡れたワカメを付けたような髪、見開かれた丸い目と、小さな丸メガネをかけた、極めて魅力の低い見た目をしている。
「おはよう、デキるメガネくん!」と残念なメガネが笑顔で手を振るう。
そう、この少年は見た目の魅力にステータスを振らず、勉強、スポーツにステータスを振った、デキるメガネと学園であだ名をつけられている少年だ。
そして、デキるメガネは残念なメガネと比べて、多くのチョコレートを貰っていた。
紙袋には、貰ったのであろうチョコレートが大量に入っていた。
「ふむ、面白いね、君の貰ったチョコレートは」と、興味ぶかくチョコレートを眺めるデキるメガネ。
「この紫色の斑点、これは何かの化学物質じゃないのか?」
「なんだって!それじゃこのチョコレートは、とっても美味しいチョコレートじゃないか!」
残念なメガネは、ラッピングをビリビリと破り取ってチョコレートにかじりつく。
「いやそこは、危険な毒が入っているかもしれないと、疑うところだろう…」と、唖然とした表情で言うデキるメガネ。
「ふふ、一般人の考えていることが通じないのが、あの残念なメガネのすごいところなのよ」
と、私は腰に腕を当てて言った。
「そうか、これは君の仕業だったんだね。
「ええ、そうよ。でもこの紫の斑点はデキるメガネくんが思っているような、危ないものじゃないわ」と、残念なメガネを指差す私。
「うおおおおお!なんだか力が湧いてくる‼‼‼‼‼」と、ハイテンションになる残念なメガネ。そして、おもむろにスクールバックから小型のゲーム機を取り出す。
「小賢しいメガネ!素材集めやろうぜ!今なら俺どんなクエストにも最短でクリアできる気がしてきた!」
「よし!じゃあ今日は、授業をサボってゲームで遊ぶか残念なメガネ!」と、私は残念なメガネと共に学園を後にする。
「クソ!またしても、小賢しいメガネさんの小賢しい策略の被害に、残念なメガネくんを合わせてしまった。僕は、友達失格だ」と、苦虫をかみつぶしたような顔で膝をつくデキるメガネ。
デキるメガネは、残念なメガネを小賢しいメガネの魔の手から救い出すことが出来るのか⁉
【次回】勝利、デキるメガネ! 終わらぬ、小賢しいメガネの暗躍……。
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