2月8日三題小噺【ミステリー?】

お題:【西】 【PSP】 【鑑賞用の廃人】

ジャンル:ミステリー?


玄関の前に、一通の手紙が落ちていた。それを広げると以下のような文面が記載されていた。

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|         予告状          |             

|    次の新月の暗がりの中から      |

|  PSP(発砲スチレンシート)の鑑賞用の廃人  |

|       を奪いに参上する       |

|         狂人怪盗         |

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手の込んだ予告状を送り付けてきた狂人怪盗こと、怪盗ちゃんに私は怒り心頭だった。

私こと助手一号は、自身の身に宿したパワフルでスピーディーな怪力をもってこの予告状を瞬時に粉砕してやりたかった。しかし、狂人探偵こと探偵ちゃんがそれを許さなかった。

「落ち着け、助手一号。それは、唯一の怪盗ちゃんの手がかりだ。そんなぞんざいな扱いをするんじゃない」

「モノに当たるなって言いたいんでしょ探偵ちゃん!でも、山田くんを爆散させた怪盗ちゃんを私は許せない、腸が煮え返る気持ちなんだよ!」

「気持ちは分かる。1月28日のことは私もよく覚えているよ」と言って私の肩を叩く探偵ちゃん。「でもまあ、予告状が怪盗ちゃんにとって命取りになる」

ピューと玄関の前で、探偵ちゃんは指笛を鳴らす。

すると、どこからともない一匹の柴犬が現れた。

「よしよく来たな。助手零号」と言う探偵ちゃん。

「助手零号って、なに探偵ちゃん⁉」驚く私。そんな私をよそに助手零号は、予告状の匂いを嗅いで西の方角に走りだした。

助手零号を追って走る、探偵ちゃんと私。

「助手零号は、助手一号の先輩だ。とても優秀な探偵犬たんていけんだから敬意をもって接するように」

と、探偵ちゃんは言う。

そうこうしているうち、私たちは白い像の立つ広場にやって来た。像の下の台座には、タイトルが刻まれたプレートが埋め込まれている。

「PSP《発砲スチレンシート》の鑑賞用の廃人。これが、怪盗ちゃんが奪おうとしているもの。なんて、だらしない女の人の像なの……」と、私が言う。

「ワン!ワンワン!」と助手零号が吠える。

「そう、分かったわ。助手一号、この像をパワフルでスピーディーな怪力をもって粉砕しなさい」

「何を言っているの、探偵ちゃん⁉」

「いいから、速く!」

「でも、それじゃ私が破壊したことに!そんなことできません!」

私がそう言い放つと、助手零号が像に向かって体当たりをする。

すると、像の表面が砕けて落ちた。それはPSPを素材にしているのではなく、石膏だった。

「山田くんのかたきを取れ、助手一号!」と探偵ちゃんが私に呼びかける。

石膏は一つのひび割れからどんどんと脆く崩れ落ちた。そして石膏の内に潜んだ人物が声を出す。

「ㇸへ、まさかこの変装がバレルとはなあ!良く気付いたな、探偵ちゃ———!?」

私は、パワフルでスピーディーな怪力をもって石膏の塊とその中に潜んだ怪盗ちゃんを吹き飛ばした。

「ㇸへ、また奪いに来るぜ!アデュ——‼」と、吹き飛ばされ空の塵となった怪盗ちゃんの声が薄っすら聞こえるのだった。

私の目のまえには、像を失った台座が虚しくたたずんでいた。

「ワンワンワン!」と助手零号が「ここ掘れ!」と言わんばかりに台座のすぐ近くの芝生を掘っている。

私がパワフルでスピーディーに掘り返すと土に汚れたPSPの像の一部が見つかった。

それから、私たちは、PSPの像の一部を回収した。

回収したものは、探偵ちゃんの狂人的な推理によって元の形に戻った。

しかし、白く美しい元のPSPの鑑賞用の廃人像はもうそこにはない。

でも、巧妙に隠された像の一部を回収して、像を復元したことは、私にとって、怪盗ちゃんに一矢報いっしむくいることだった。

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