2月7日三題小噺【純愛モノ】

 お題:【赤色】 【雑草】 【壊れたヒロイン】

 ジャンル:純愛モノ


 世界は、自分を中心に回っている。誰しもが一度は思ったことがあるのではないか。

 全ての不幸は自分から始まる、全ての責任は自分にある、全ての人物は自分のために存在している、などなど……。

 例を上げればきりがない。誰しもが心のどこかで想い生きていると私は思う。

 でも……。

 私という存在を知った人は、誰しもがこう思った。

 私こと中新野ちゅうしんのセカイを中心に世界は回っていると。

 物心つく頃には、私もそのことを理解していた。

 私が願えば、全ての物事が結果的に願い通りになった。

 ある人は、私にはとんでもない引き寄せるパワーがあると言った。だから私の周りには様々な人間が引き寄せられる。雑草の如くどこからともなく引き寄せられた人間から、良い影響をもらうこともあれば、悪い影響を受けることもある。

 その言葉を聞いたのは、幼少期のころだった。

 以来、私は他人とは一定の距離を取るよう意識し始めた。

 そんな生活を10年続けて私は高校生になった。

 高校の入学初日の校門前。私の周りにはいつもの如く生徒が多く集まって来た。

 その中に、ひと際熱い視線を送って来る気配を感じる。その視線の方を見ると、生徒に交じって白の包帯を全身に巻いたミイラがじっと私を見つめている。

「ひいい!ミイラ‼」と私が、驚くと生徒ひとりが「セカイさんこの子は、ミイラじゃなくて、真末雷実まみらいみちゃんだよ」と紹介してくれた。


 その後、私の高校生活の全てに雷実はいた。

 それは、人が勝手に引き寄せられることが日常の私にとって極めて特殊なことだった。なぜなら大概引き寄せられても、1週間に3回くらいなのだ。

 なのに、雷実は毎回私の近くにいた。私がお昼を食べるときも、トイレに行くときも、図書室で勉強するときも、部活動でも、選択授業の時別の授業をとっていても……。

 いつしか私は、雷実に対して興味が湧き少し会話をしたいと思うようになった。

 しかし、私は幼少期の頃に意識した、“他人とは一定の距離を取ること”を破るのをためらい、結局、一言も話すこともなく1年が過ぎた。

 春休み開け。再び見る校舎の桜。

 いつものように生徒たちが私の周りに集まって来る。

 しかし、何かがいつもと違った。

 あの熱い視線を感じないのだ。私の中に今まで感じたことのない感情が湧きあがる。

 正体は分からないが、私の心の中は暴風雨が吹き荒れるほど乱れて、いまにも雷実の居場所を周りの生徒に聞きたいくらいだった。

 しかしそれでは、“他人とは一定の距離を取ること”を破ることになると考え、何も言わずクラス分けされた新しい教室に向かう。

 その後も、私の頭の中は、雷実のことで一杯だった。もしかして、転校したのではないか?それとも事故にあったのか?はたまた誘拐にでもあったのでは?

 私がそんな妄想をしていると、教室の外の廊下から噂声が。

「雷実ちゃん今日学校休んだらしいよ」「えっ、もしかしてミイラと間違われて博物館に連れていかれたとか?」

 私は心の中で叫んだ。

「そんなことあるか‼」

 私は、反省した。私が、思ったことは全て叶えられてしまう。なので、どんな些細な不幸も想像したら叶えられてしまう。

 そう再確認した時、私は眉を上げ、口を大きく開けた。


 コンコンと、軽くドアをノックする音。

「お邪魔します…」と、私はカーテンの閉め切られた薄暗い部屋に入る。

 部屋の中は、白を基調とした家具が置かれていて、清潔感と柔らかい印象を受ける。

「うん、……ママ?」と、聞いたことのない声が聞こえた。

 それは、私の目の前のベッドからだった。ベッドの上で厚手の掛け布団にくるまったミノムシが続けて言う。

「ごはんは、後で食べるからその辺に置いておいて…」

「その辺と言うと、机の上でよろしいですか」と私は言う。

「うん…、お願い……」と、寝言のような返事が返って来る。

 私は、雑に巻かれた包帯が置いてある机にサンドイッチの乗ったトーレーを置く。

「今日の学校のプリントも机の上に置いておきますから。明日は学校に来てくださいよ。雷実さん」と言って私は、薄暗い部屋を後にしようとする。

 その時、バサッ‼と厚手の掛け布団が跳ね上がった。

 ドアが閉まる細い隙間から、私は彼女の姿を初めて見た。

 包帯で分からなかった、私より少し大きな胸。お母さんに似て、小さな端正な顔立ち。アホ毛の生えたボサボサのショートボブヘア。

 特に印象的なのは、いつもと違う困惑した眼差しと赤色に染まった可愛らしい頬。

 私は、静かに扉を閉めた。

 扉を隔てた部屋の中からは悶絶の声が聞こえてきた。

「ごめんなさいね。うちの子、極度の恥ずかしがり屋なのよ。まったく、包帯がうまく巻けないから休むなんて。何を考えているんだか。明日は、引きづってでも学校に連れて行くから。ホントに今日は、うちの子のために時間を取らせちゃって、ごめんなさいね」と、雷実さんのお母さんが言う。

「いえ。そんな。むしろ来て良かったです。雷実さんと少しお話ができましたから」と、頬を緩める私。

 部屋からは、大きなうなり声が聞こえた。

 このとき頭の中に、言葉が浮かんだ。

“壊れたヒロイン”

 それは、私にとって、彼女にふさわしい愛称となるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る