2月6日三題小噺【ホラー】
お題:【台風】 【箱】 【最高の魔法】
ジャンル:ホラー
それは、巨大台風の如く全ての人々に襲い掛かった。
黄昏時のいつもと変わらない、人々が行きかうスクランブル交差点。
ビル群の中にぽっかりと空いた交差する道の真ん中に一人のスーツ姿の中年男性が立っていた。
丸眼鏡に、薄っすらと生えた頭皮の毛。遠目でも分かるぽっちゃりとした体格で腹が出ている。
見た感じ、帰宅途中のサラリーマンにしか見えない中年男性の手には、可愛らしいピンクのステッキが。
ステッキの端にはブリリアントカットのハートの形のルビーが取り付けられている。
存在感のあるそのステッキを持った中年男性を、不思議そうに見て通り過ぎていく人々。ある若い女はその妙な姿を携帯のカメラで撮影し、ある若い男が声を掛けようと中年男性の肩を叩く。
突然、中年男性は叫んだ。
「触らないで痴漢‼」
中年男性はそう騒ぎ出すと手に持ったステッキで若い男の顔面を抉った。
ハートのルビーに赤黒の液体がつく。ブリリアントカットの輝きはそこにはなかった。
その代わり、輝いたものがあった。中年男性の瞳だ。
にんまりとした不気味な笑みを浮かべながら「痴漢撃退!痴漢撃退!痴漢撃退!痴漢撃退!」と無慈悲なまでに殴り続ける。
若い男は、不意打ちを食らい、為すすべなく殴られ続けた。
常軌を逸した中年男性の行動に、固まる通行人たち。
スクランブル交差点の時が止まる。
だが、唯一その空間の中で動き続ける中年男性が、裏声で叫ぶ。
「フィニッシュ!悪い子はお仕置き!」
ルビーの形状が、変わり鋭く尖った
血の噴水が上がる。
トンと携帯がアスファルトの上に落ちた。
「イヤヤヤヤヤヤ‼」と若い女が叫んだ。
スクランブル交差点の時が動き出したのだ。
人々は、我先にと中年男性から一斉に離れて行く。
「あれあれ、まだ何もしてないのに。どうしてみんな離れて行くの?」と、口を半開きにして人差し指を下唇に当てる中年男性。「しょうがない。とっておきの最高の魔法でみんなを呼び戻すしかないよね」
中年男性は、体の前でステッキをくるくると回転させる。回転は次第に速くなりそれは魔方陣のような模様を浮かび上がらせた。
「箱さんお願い、皆を私の前に連れて来て!」
中年男性が言うと、魔方陣から黒い箱が無数に出現した。箱は宙に浮き素早い動きで人々に体当たりしていく。
箱に当たった人々は、箱に体を吸収され、結果、黒い箱の上に頭が突き出た姿になってしまった。
黒い箱に捕まった人々は、中年男性の前に集められた。
中年男性は、黒い箱の中心で軽快なダンスを始める。
そのダンスは、全ての人類があのスクランブル交差点で目撃することとなった。
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