2月5日三題小噺【大衆小説】
お題:【空】 【十字架】 【消えたトイレ】
ジャンル:大衆小説
空に十字架が浮いている。
気づいたのは、通勤電車に揺られている時の事だった。
十字架のことを、一緒に通勤電車に乗る同僚に訪ねた。同僚は、俺の言葉をよく理解することは出来なかった。
どうやらこの十字架は、俺の視界にしか映らないらしい。
仕事を午前中休んで、眼科に行って少し検査をしたが問題はなかった。
俺の肉体は健康そのもの。
では、なぜ空に十字架なんてもんが浮いているのが見える?
どう思考を巡らせても、答えなんてものは見当もつかなかった。
ただ一つその異変から連鎖的に異変が発生した。
その一つが、職場のトイレが消えたことだ。
オフィスビルの中にあるはずのトイレが、全て壁で埋まっている。
消えたトイレのせいで俺を含めオフィスビルで働いている者は皆、一度ビルから降りて、近くのコンビニか駅のトイレに駆け込んでいる。
まったくもって不便極まる状況になった。
だが、そんなことを想っているのは、俺だけのようだった。
職場の同僚なんかは、別に入社してからいつもの事だろうと言って気にしない。
そんな、話を聞くたびに俺は、自分が別の世界に来てしまったと思った。
そしてそれは、確信に変わっていった。
外回りで乗った電車内の電光掲示板。
そこには、断水情報がながれてくる。俺は驚いた。断水地域は首都圏すべてに発生している。昨日までの俺の人生の中でこんなにも酷い断水状態はなかったはずだ。
なのに、電車内の人間は慌てることもなく平然とした様子だ。
俺は、スマートホンでこの世界の年間雨量を検索した。
すると、もといた世界の半分ほどしか雨が降っていないことを知った。
ネットニュースでは、水道料金が年々値上りをしていると書かれていた。
水がないと言うのはなんて不便なんだ。そうぼやきながら、俺はふと思い出した。
世界の異変に気付く前に俺がやってしまったことを。
俺は急いでアパートに帰って浴室のドアを開ける。
水がドバドバと邪口から出て、浴槽は水で溢れかえっている。
俺は急いで蛇口を締め、水を止めた。
アパートから出ると、空に浮くあの十字架は消えていた。
そして、オフィスビルの中にはトイレがある。
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