2月4日三題小噺【童話】
お題:【夕陽】 【車】 【禁じられた主従関係】
ジャンル:童話
むかし、むかし。
とある大きなビルの中の駐車場に一台の車が止まっています。
その車は、黄色の小型な軽自動車です。正面に着いた丸いライトをつけて、とても可愛らしい見た目をしていました。
ある日、夕陽に照らされた車は驚きました。
車はなんと、黄色いワンピースを着た可愛らしい女の子になってしまったのです。
車は自分が女の子になってしまったことに大変驚きました。
「これでは、ご主人様を乗せて、ご主人様の家に帰ることができません」
慌てる車だった女の子の元に一人のスーツを着た若い女性がやってきます。
女性は驚きます。なんせ自分の車が止まっていた駐車場に車が無いからです。
不安な表情で辺りをきょろきょろする女性。
女の子は女性に一生懸命自分が車であることを伝えます。
しかし、女性は女の子を迷子かと思い女の子と共に警察所に行こうとしました。
警察所に着くと女の子は、迷子として保護されることになり、女性は車の捜索願いを書くことになりました。
女の子は、このまま警察所で保護されても保護者なんていませんから迎えに来る人なんていません。
女の子は、どうやったら女性と一緒にいられるか必死に考えます。
しかし、考えても、考えても、良いアイディアは浮かばずどんどん悲しい気持ちになってきます。とうとう、女性が車の捜索願いを書き上げ警察所を出て行こうとします
「お姉ちゃんおいてかないで~」と女の子は、女性に必死で泣きつきました。
それは、禁じられた主従関係でした。
車である自分がご主人様である女性を困らせるなんて。でもこれは非常事態。
女の子の狂気乱舞の泣きわめきに困り果てる女性と警官。
結局、一旦女性が女の子を預かることになりました。
女の子と女性は、家に帰るために電車を乗ります。
電車の中では、始め女性が女の子を質問攻めにしていました。どこからきたのか?お父さんとお母さんはどんな人か?など、普通の迷子の女の子でしたら簡単に答えられそうな質問を。しかし、女の子は車です。どこからきたのかと、言われても工場から来たと答えて、お父さんは、車の設計図でお母さんは車の部品を組み立てるロボットアームや人たちと答えます。
その都度、女性は不思議そうな表情をして初めは苦笑いをしていましたが、だんだんとその不思議な会話が楽しくなってついついほかに色んな質問をし始めました。女の子も必死で答えている内に女性が楽しそうな表情をするので、ついつい声が弾んでいきます。
楽しい時を過ごす二人は、降りなくてはいけない駅を乗り過ごし遂に終点の山奥の駅までついてしまうのでした。
辺りは暗く、戻ろうにも電車はもう来ません。
しかたなく、無人の駅の中のベンチに座り、夜を明かすことにする女性と女の子。
朝日が昇り始めた頃。女性が、起きると隣で眠っていた女の子がいません。どこかに行ってしまったのか?
心配して辺りを見渡すと、駅の外の道路に女の子が歩いて行きます。
寝ぼけまなこの女の子が、大きくあくびし、それと共に朝日の光を浴びます。
すると女の子は、瞬く間に元の黄色い車に変身するのでした。
女性は、仰天の大きな叫び声を上げます。そして目元を両手で擦りまじまじと車を見るのでした。朝日に照らされた車は、いつもより輝いて生き生きしているようでした。
女性は、人生にはこんな不思議で面白い事が起こるのかと笑いながら車に乗って、家に帰るのでした。
めでたし、めでたし。
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