2月2日三題小噺【邪道ファンタジー】

 お題:【前世】 【橋】 【真の子ども時代】

 ジャンル:邪道ファンタジー


「私は、死んだんですね…」

 真っ白な景色が広がる。

 そんな、幻想的な世界に場違いな私がいた。

 私の手足は不自然な角度に曲がり制服はボロボロで赤黒く汚れている。

「冷静ですね。驚きました…」と、透き通った女性の声が頭の中に響く。

「ええ、これでも転生もののライトノベルをたしなんでおりまして」

「下界で流行はやっているサブカルチャーの一つですね。前にも首に縄の後のある小太りの男性がやって来て3時間ほど語られていました…」

 少し疲れた声が頭の中に響き思わず「それはご愁傷様で……」と言う私。

「すいません。来訪者の方に心配されるとは。脱線しましたが、本題にはいらせていただきます」と改まった口調になる声。「これから、あなたは以前とは違う別世界に転生していただきます。その際、前世の善行をポイント化した数値で転生する場所、モノなどを選ぶことが出来ます」

「異世界転生イベントキタ――(゚∀゚)――!!」と、テンションが上がり跳ね回る私。

 ぶらぶらと今にも千切れそうに揺れる手。激痛で悶えるようなグロテスクな状態なのだが、まったく痛みがない。ここが死後の世界なのだと再確認する。

「それでは、こちらがあなたの善行ポイントです。あと転生先のカタログがこちらになります」

 私の視界にゲームのUIのような画面が2つ表示される。

 1つ目は、善行ポイントと書かれた下に数字の羅列があるもの。

 2つ目は、B5サイズほどの大きさのディスプレイ。インターネットの画像検索の様に、さまざまな異世界の風景と、参考程度の文字が下に記載されている。


「あなたの転生したいものを念じて下さい。それに合った転生先をこのカタログが表示してくれます。ですがときたま、表示されても善行ポイントの不足により選択できないものがあります」

 なるほど、たしかに誰しも、ハーレムチート無双とか悪役令嬢とか望んでしまうのが、人のさがでありそのコストは破格なものと設定されていることは想像に難くない。

 実際、“追放系モテモテ最強無双冒険者”と念じてみると、私の17年余りの善行では太陽と地球の距離ほどの善行ポイントの差があった。

 だが、私はそんなものには元来興味はない。このジャンルのライトノベルを読んでいてもそれは傍観者と言う読者として楽しんでいたわけでプレイヤーになりたいわけではない。

 だって、人間関係絶対面倒くさいでしょ。

 私は、意識を集中させて本当になりたいもの思い描く。

 前世で叶わなかった真の子ども時代の夢を叶えるために。


「本当にに転生してよろしいのですか?」

 少し戸惑ったような驚いた確認の声が私の頭に響く。

「はい。意外と思って見るもんですね。本当にあったとは、それに余った善行ポイントでいろいろな能力も手に入れられました。文句無しの転生先です!」

 と、テンション高めの私。

「わかりました。では、これより貴女を転生させます」

「お願いします‼」


 こうして私は、異世界転生した……。


 薄暗く広々とした洞窟内に騒がしい声が響く。

「クリス早くこっちだ!」と、筋肉質な男性冒険者アレフは仲間の面長な整った顔立ちの男性冒険者クリスを呼ぶ。

「待ってくれアレフ!まだエレナが橋の上に!」

「なんだって!」

 豊満な体の女性冒険者エレナは、古びた石造りの橋の上で迫りくる武装した動く骸骨スケルトンたちから足を引きずりながら逃げていた。

 エレナの片足には酷い切り傷があり、そこからは血がダラダラと流れる。額からは冷たい汗が滲み出る。

「くっ、ここまでか……アレフ、クリス…。我先に逃げやがって、ゴーストになって枕元に立ってやるからな‼」と、苦悶の表情で叫ぶエレナ。

 スケルトンたちがエレナの背後を捉え、剣を振り下ろす。

「エレナ‼」とアレフとクリスが叫ぶ。

 その時どこからともなく弾んだ声が洞窟内に響いた。

「ピンチの女性冒険者。そこに奇跡が起こるのだった!」

 橋の上のスケルトンたちの足場が突然崩れ、橋の下に落ちるスケルトンたち。

 間一髪で助かるエレナ。

「一体何が、急に橋が崩れて……えっこんなことって!?」と、驚愕の表情をするエレナの視線の先には、先ほどスケルトンたちと落ちたはずの橋の一部の石がひとり下から上がって来て元に戻って行く。

 そしてあっという間に、橋は元通りの形になった。

「大丈夫ですか。エレナさん。今その傷を治癒しますね!」

 と再び跳ねるような声が聞こえたと思うと橋は緑色に光る。エレナの足の傷口から流れる血が止まった。

「この光、治癒魔術?でもどうして橋から?それになんで私の名前を?」

「えっへん!エレナさん。それは今あなたがいる橋がただの橋ではなく、最強のストロングブリッジだからなのです!」

「ストロングブリッジ!?」


 私の子ども時代の夢は、お父さん見たいな大きな橋を作る仕事に携わること。

 でも、私にはそれとは別に、真の子ども時代の夢があった。

 ライトノベルを読んで知った無機物転生。それを知った時、私は初めてプレイヤーとして生きてみたいと思った。

 そして、私の願いは叶った。


 前世のお父さん。

 私は、今日もストロングブリッジとして冒険者さんたちを助けています。

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