2月1日三題小噺【日常系】
お題:【山】 【ことわざ】 【最後の山田くん】
ジャンル:日常系
最後の山田くん伝説は、村の子どもたちの間で昔から語り継がれていた。
何故、子どもたちの間で語り継がれていたかというと、その伝説に伝言ゲームの要素があったからだ。
この伝説を
「で、坊ちゃまはその伝説を村の子から小一時間、聞いてきたと」
馬鹿メイドは、そう言いつつ麦茶を2つのガラスコップに入れる。不思議とガラスコップに入った麦茶は、夕暮れの光で琥珀色に輝き特別な飲み物のようだった。
ダイニングキッチンのソファーにもたれかかる僕の目の前のテーブルにコップに入った麦茶を1つ置く馬鹿メイド。
そして黙って僕の隣に座ってもう一つのコップの麦茶をすすり飲む。
断りもなく、ご主人様である僕の隣に座る馬鹿メイドの態度に普段なら怒るところだが、今日はもうそんな些細な事どうでもよくなっていた。
口から出るのは怒りではなく愚痴だった。
「小一時間×3だ。なんでも、僕の年の子どもが村にいないらしい。はぁー、だからって三度もこんな話を聞かなきゃいけないなんて。やっぱり、家で勉強していればよかった」とため息交じりに言う僕。
「あら、そうだったのですか?お誘いを受けた時は、喜んですっ飛んでいったのに」と目を少し見開き、不思議そうな顔をして言う馬鹿メイド。
「違う!あれは、そのなんだ、誘ってもらって嬉しかったとかじゃなくて。断って次の日来られても、勉強の邪魔だからさっさと相手の要件を済ませてやっただけだ!」
と言ったあと僕の喉は妙に乾き、目の前の麦茶を一気に飲み干す。ただの麦茶だった。
「では、来年の夏は坊ちゃまが、山田くん伝説を一個年下の子どもたちに伝えるのですか?」
「……するしか、ないだろう」と神妙に答える僕。すると、隣から苦しそうな音が聞こえる。
ゴホ!ゴホ!ゴホ‼
「おい、大丈夫か馬鹿メイド!」と僕は慌てて馬鹿メイドの背をさする。
「すっ、すいません。ゴホっ、あまりにも意外なことを
と、涙目でむせる馬鹿メイドに僕は少しムカつく。
「あの変なことわざみたいな最後の山田くん伝説を聞けば、誰だってそう思う。しかも僕は、それを三度も聞かされた。三人とも一言一句、同じだった。それくらい大切なモノなんだ。ちゃんと僕の下の子にも伝えなくちゃいけない」
「そう言って、坊ちゃま、最後の山田くんにお願いを叶えて貰いたいだけなのでは」
「うるさい」
「一体、どんなお願いなのですか?」
「言うか! ってか、なんで近づいてくる!その指の動き気持ち悪いんだよ‼」
「教えていただけないのなら……」
「やめろ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕の断末魔が別荘に響いた。
馬鹿メイドの苛烈な指圧攻撃が僕の背を襲った。
僕は、顔を歪ませ半泣き状態で苦痛に耐え、決して口を割ることはなかった。
翌朝。僕は、妙に肩が軽くなっていることに驚くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます