1月30日三題小噺【時代小説】

 お題:【鳥】 【死神】 【憂鬱な物語】

 ジャンル:時代小説


殿との‼また、降伏勧告の使者を追い返したのですか、本当にそれでよろしいのですか?」

 と、私は膝をつき本陣で椅子にふんぞりかえる、殿に問う。

「なんだ、そのことか。くどいぞ。何度もいったが、儂はこの四つの国からなる島を統一する。あともう一押しでそれが実現すること、お主でも分かるであろう」

「ですが、殿。降伏勧告の使者は隣の大陸から来たものです。お言葉ですが、大陸の軍隊が横やりを入れてくれば、消耗している我が軍は大陸軍に太刀打ち出来ません」

「だろうな……ふん」と、眉間にしわを寄せ面白くないような表情をする殿。

「……使者が、死神になるか……それとも、儂が死神となるか……」

「それは、どのような意味ですか?」と、条件反射的に聞く私に殿は、重々しく腰を上げて本陣の外に出て言う。

「使者は、儂の野望の死神。そして儂は、お主たちの死神だ」

「殿が私たちの死神ですか…」

 本陣のほど近くには、煙を上げる山城。それを眺めながら、殿は淡々と言った。

「このいくさ。儂の勝利に終わるだろう。残す城は、一つ。

 もしここで、儂が降伏勧告を受ければ、大陸は軍を派遣しこの島を分割統治するであろう。

 であれば、交渉次第で元の国とその半国の領土は儂のものになるかもしれんが、儂の統一の野望は終わる。

 反対に、降伏勧告を無視し続け、この戦が終わって迅速に全軍を持って残った城を攻め込めば、早々に城は陥落するであろう。

 さすれば、儂の野望は叶う。

 だが、その後はお主の言った通りの展開になるだろう。儂の野望が犠牲になるか、お主たちが犠牲になるか……。お主はどちらがいいと思う?」

 固まる私。もちろん、確実に死地とかす戦場は回避したい。しかし、ここまで戦ってこられたのは、殿の野望を支える私やその他の者たちがいてこそ。その中には、野望実現を夢見て散っていた仲間たちが何百といる。その者たちに対する後ろめたさが、決断をにぶらせた。

 どうしたらいいか、考えたすえ。

「私にはどちらを取ってよいか——」「そうかどちらも取るか!よくぞ言った!」

「えっ、ちょっと待ってください殿。私、話している途中ですよ⁉」

「分かっておる、儂とお主の仲ではないか。良し、大陸の使者と共に大陸に渡り同盟を取り付けてこい。さすれば、儂の統一野望は達成し、大陸とも戦わずに済む」

「こっ、降伏勧告してきた相手と、どっ、同盟ですか⁉正気ですか殿⁉同盟とは対等な国同士がやるもので、我々と大陸側では、天と地ほどの差が」

「くっくく、正気か……。儂が正気であった時が一体いつあったであろうか……」

 不敵な笑みを浮かべる殿。その瞳は、年甲斐もなく少年のような精気のみなぎった瞳をしていた。

「儂もこの同盟、不可能に限りなく近いのは分かっている。だが、まだ何もなしていないのに、諦めるのか?儂は、お主をそんな腰抜けだとは思わぬ。なんせ、儂の統一の野望を真っ先に賛成したのは、お主ではないか!」

「いや、それ私の兄の方で。私は最後まで反対していました!何年何度いったら覚えて下さるのですか‼」

 ちなみに兄は、統一の戦の初戦しょせんで流れ矢に当たって倒れた。そして私に殿が野望達成する瞬間を見届けるよう言って死んだ。

 その時から私の憂鬱な物語は始まり、今この時、更なる憂鬱な物語が始まるのだった。


 殿からの特命を受け私は、大陸に渡ることになった。

 鳥なき島の蝙蝠と大陸の獅子の不可能同盟締結に向けて。

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