1月28日三題小噺【ミステリー?】

 お題:【未来】 【メトロノーム】 【壊れた山田くん】

 ジャンル:ミステリー?


 誰がこんな未来を予想できただろうか。

 私こと助手一号と狂人探偵こと探偵ちゃんの眼前にいた山田くんが爆散することを。


 それは、重々しい曇り空が広がる日の事だった。

 私と探偵ちゃんは、メトロノーム作りが盛んな街の商店街で連続メトロノーム破壊事件に遭遇した。


「この壊れたメトロノーム。壊した犯人は山田くん、君だね‼」

 乱れたツインテールの探偵ちゃんが、目の前で呆然と立ち尽くす山田くんを指差し断言する。

 それを聞いて、メトロノーム専門店の初老女性店主がうなだれる様にその場にしゃがみ込み言う。

「そんな、山田くんが犯人だなんて⁉だって、山田くんはこの街のメトロノームを愛していたのよ!なのに、いったいどうして!」

「ねぇ、探偵ちゃん。どうして山田くんが犯人だって言えるの?確かに山田くんにはアリバイがこれといってないけど、山田くんがメトロノームを壊す動機はいったいなんだったの?あんなに、私たちにメトロノームの魅力を語り聞かせてくれた山田くんが一体どうして⁉」

 と、私は探偵ちゃんのツインテールを引っ張りながら問い詰める。

「痛いからはなせ~ ツインテールは叡智の集合体~それを牛の乳房の様に引っ張るな~」

 と、ふにゃふにゃな感じで体をゆらゆら揺らす探偵ちゃん。

 そんな探偵ちゃんと私をあざ笑うようなきざったらしい声が聞こえる。

「ㇸへ、そんなこと決まっているだろ。山田は、恨んでいたのさ!この街のメトロノームを!」

「お前は…………怪盗ちゃん」と探偵ちゃんが頭上を見て叫んだ。

 探偵ちゃんが見上げる視線の先には、マスカレード衣装に身を包んだ仮面の人物が3階建ての店の屋上からこちらを見ている。

「探偵ちゃん、怪盗ちゃんってつまり、新キャラってこと?」と、私が首をかしげて言うと怪盗ちゃんは「果たしてそうかなあ」と不敵な笑みを浮かべる。

「貴女の暗躍なんて、始めからわかっていたわよ。怪盗ちゃん……」と、探偵ちゃんがいつになく慎重な声で言う。

「それじゃ、もしかして今回の山田くんのことも⁉」

「その通りよ、助手1号……真犯人は怪盗ちゃん貴女だ!」

「ㇸへ、カンの良いお嬢ちゃんたちだぜ、まったく」

「カンじゃない、推理だ。怪盗ちゃん。貴女は致命的なミスを犯した。それは山田くんに施した改造手術の痕跡を残したことだ!」

 と、探偵ちゃんは突っ立っている山田くんの胸ぐらを掴み勢いよく引っ張る。するとTシャツは簡単に剥がれ、上半身裸になる山田くん。

「流石、狂人探偵さん!なんて怪力!」と店主。「探偵ちゃんにこんな能力があったなんて!伊達にタダ飯食って肥えているわけじゃないのね」と私。

「これを見なさい、これは舞台衣装の早着替えようのTシャツよ!すぐ脱げるようマジックテープが張ってある。あと注目するのは、山田くんの胸よ!」

 山田くんの胸には、怪盗ちゃんが付けているマスクと同じマスクのあざが。

「ㇸへ、流石はオレのライバルだな。探偵ちゃん。ばれてしまっては、しょうがない!メトロノームと共に吹き飛ぶがいい!」と、怪盗ちゃんはふところから赤いボタンの付いた太いシャーペンのようなものを取り出す。

 そして「死ぬほど痛いぞ!」と、にんまりとした表情で、掴んだシャーペンの赤いボタンを親指で押し込む。

 すると、山田くんは目と口、耳、鼻、全身の毛穴から眩しい光を放ち始める。

 たまらず腕を目の前に出す私。

「いったい、何をやった怪盗ちゃん‼」と、私が怪盗ちゃんの方を見た時、怪盗ちゃんの姿は消えていた。

「自爆シークエンスを開始します10、9、8…」

 と、棒読みで言う山田くん。その体は不穏な機械音と共に激しく震えた。

「狂人探偵さんどうかお助けを!」と、店主が探偵ちゃんのツインテールを引っ張りながら言う。

「うぁうぁ、こういうのは~ じょっ、助手1号~任せた~」

「ごめん、山田くん!」

 私は、とっさに硬直する自爆寸前の壊れた山田くんの体を掴み、天高く投げ飛ばした。

 その時、かすれる声を私は聞いた。

「あり…がと……う」


 空に舞い上がった山田くんは、爆散した。

 爆風で商店街のガラスは全て破損した。しかし、メトロノームは一つも破損することはなかった。


「探偵ちゃん、怪盗ちゃんは何がしたかったの」

「盗みたかったのよ。この商店街にある全てのメトロノームを人々から」

「盗むってこれは破壊じゃ」

「そうそれが、狂人怪盗、怪盗ちゃんの本懐。盗むのは、盗み出すモノが欲しいからじゃない。盗まれた人が悲嘆にくれるのを眺めて楽しむためだから」

 と言って、その場を後にする探偵ちゃん。

 ポツポツと地面が濡れはじめ、その勢いはあっという間に強くなる。

 その場にひとり立ち尽くす私。上を向き降りしきる雨粒を睨み、大きく口を開けた。

「クズが———‼」


 行き場のない荒げた声が、雨音で虚しく消えていく。

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