第50話

 飛んでくるであろう暴力に備えていると、


「お願いします!俺たちにビーチバレーを教えてください!!!」


 と土下座された。


「……は?」


 何故そうなる。今回のビーチバレーの目的は次葉とサキを取り合うだけだろうが。


「俺たち、実は————」



 話を聞いたところによると、金髪と黒髪、もとい高橋と白石はビーチバレーのアマチュア選手らしい。


 大会では準決勝に上がるなどプロ顔負けの実力を誇るものの、中々優勝まではいかず困っているらしい。



「まず一言言わせてもらおう。そんな実力の持ち主が一般人にビーチバレーの勝負を持ち込むな」


 プロが素人に意気揚々と勝負を挑むな。もう少し勝ち目がある科目を選んでくれ。


「そ、それは……」


 私がそう指摘すると黒髪は不自然なまでに言葉に困っていた。


 というわけで次葉の方を見てみると、やれやれと肩をすくめていた。


「……なるほどな。そこら辺はもういい。大体わかった。とりあえず指導をしよう。ただ、私はビーチバレーにそこまで詳しいわけじゃないからそのあたりは勘弁してくれ」


「「ありがとうございます!!!!」」


「悪いな、サキ、冴木。旅行中なのに」


「私は大丈夫だよ。時間ならいくらでもあるし」


「サキさんの言う通りだね。それに、これはこれで面白そうだし」


「そうか、助かる」


 旅行中に急に現れた男二人にビーチバレーの指導をするという珍事も二人は快く受け入れてくれたため、指導に入ろうか。


「……私には聞かないんだね?」


「元凶が何を言っているんだ」


 私にも聞くべきだと文句を言っている次葉だが、そもそもこの高橋と白石を連れてきたのは次葉である。


「元凶?私は被害者だよ?」


「どこがだよ。私たちが居ない隙に次葉とサキをナンパするプロ並みの実力を持ったビーチバレー選手が都合よく現れるわけないだろ」


 どのスポーツでも一定以上の実力を持っている人間は、評判の事を考えて表では品行方正な行動をするものである。


 こんな誰もが見ている場でナンパをするわけないだろ。


「それほど私たちが素晴らしい女性だったってことだよ」


「だったとしてもだ。それに負けてからの高橋と白石の反応を見ていれば分かる。これを指示していたのは誰かくらいな」


「流石は優斗だね。好きに指導すると良いよ」


「そうだな。じゃあ始めるぞ」


 最初から私にこの二人の指導をやらせるつもりだったように思えるが、一旦気にしないことにした。




「というわけで指導は以上だ。二人の力になれたなら幸いだ」


「ありがとう、ございます……」


「多分力にはなっていると思います……」


 指導を終え、高橋と白石は疲労で砂浜に倒れこんでいた。


「二人はそのまま帰れるか?」


「大丈夫です。俺たち家近いんで」


「そうか、なら気を付けて帰ってくれ」


「「はい」」


「じゃあ今後も頑張ってくれ」


「「ありがとうございました!!」」



 私は二人に別れを告げ、何故か遊びにも行かず練習を眺めていた3人の元へ向かった。


「別にずっと練習を見ている必要などなかっただろうに。海で遊ぶなり店を回るなり色々あっただろ」


 いくら私の指導に興味があったといってもそれは物珍しさから来るものであって、長時間見れるようなものじゃないだろう。


「そりゃあ面白かったから以外の何でもないけど。だよね、次葉さん、サキさん?」


「そうだね。正直さっきの試合よりも見てて面白かった」


「私は優斗君を見続けていたら時間が過ぎていただけだけど、面白かったと思うよ」


「……そうか」


 今回の私の指導は強くなるための効率だけを意識したものだった気がするんだがな。まあ良いか。



「さて、時間も時間だがこれからどうする?」


 時計を見たらもう18時だった。夏だからそこまで暗くは無いが、これ以上海で遊ぶ時間でも無い。


「花火があるからこれで遊ばないかい?」


 というわけで帰るつもりで聞いたのだが、次葉が何故か大量の花火を用意していた。


「そんなにあるんだ……」


 冴木はファミリー用の大容量花火を4袋用意していた次葉に対して若干引いていた。それもそうだ。このタイプの花火は2人で1袋でも若干多いくらいなのだから。


「楽しみな時間は多い方が良いからね。早く遊ぼう」


 ただそれも仕方ない。次葉は花火で遊んだ経験が人生で一度も無いからな。


 別に家族から花火で遊ぶことを止められていたわけではなく、単に機会が無かっただけである。近くに海も花火をしていい公園も無かったからな。


 ただ、今の次葉の様子を見る限り花火はずっとしてみたかったらしい。いつになくテンションが高い。


「そうだな」


 というわけで二人には悪いが、この大容量花火を全部使い切るまで付き合ってもらおうか。

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