第51話

「なるほど、これが花火なんだ。皆が好きなのも理解できるね」


「そうだな」


 人生で初めて花火をした次葉だが、楽しんでくれているようで何よりだ。


「でも、どうして皆夏にしかやらないんだろうね。別に他の季節にしても良いと思うんだけど」


「夏に花火をやるのは日本独自の風習らしいよ。鎮魂の意味があるんだって」


「そうなんだ」


「うん。お墓参りの時にお墓で花火をする風習がある場所もあるくらいだしね」


「お墓でやるんだ。面白い構図だね」


 次葉の何気ない疑問に答えてくれたのはサキ。地方の独特な文化まで知っているのは流石天才配信者だ。


 確かお墓参りで花火をするのは長崎県だったか。テレビか何かで見たような記憶がある。



「優斗君」


「おい、何するんだ」


 仲良く談笑している次葉とサキを見ていると、冴木が私の足元にめがけて火が付いた花火を向けてきた。


「大丈夫大丈夫。一瞬だけだったら特に何もないから」


「そういう問題じゃないだろ」


 化学の実験とかでやるのは分かるが、普通に遊んでいる時にやるものではない。


「まあまあ。でもそうしなきゃ反応してくれなさそうだったし」


「普通に反応はするだろ」


「どうだろうね」


「で、何か重要な話でもあるのか?」


 わざわざ次葉とサキが仲良く話しているタイミングで私に話しかけてきたってことはそういうことだろう。


「うん、だから少し離れようか」


 冴木に連れられ、次葉とサキに話し声が聞こえない位置に移動した。



「で、どっちの彼氏になるつもりだい?」


「は?」


 前言撤回。本当にどうでも良いしょうもない話だった。


「いや、ここ最近はずっとサキさんとコラボし続けている上に配信内外に関わらず誉め続けているでしょ?まさかガチ恋になったんじゃないかなって思って」


 ガチ恋ってのは有名人に本気の恋愛感情を抱くことだったか。


「どうしてそうなる」


「今の行動ってガチ恋勢以外の何者でもないと思うけど。世間ではそれ以上にサキさんを振り回しまくっているせいであまりそう感じられてはいないっぽいけどね」


「別にそういうのではない。素晴らしい配信者としてただただ尊敬しているから大成してほしいと願い続けているだけだ」


 ただただサキには本来あるべき立ち位置に居てもらいたいだけだ。


「そうなんだ」


「それは分かった。しかし次葉が出てくるのはどういう意味だ?」


「だって友人とか幼馴染では片付けられない程に距離が近いし。次葉さんとの関係については恋人よりも上の何かって感じまであるよ。本当に付き合っていないの?」


「別に付き合ってはいないな」


「二人の関係が全く分からないよ。ちなみに次葉さんの事はどう思っているの?」


「どう思っているのって言われてもな。大事な幼馴染だ」


「ちゃんと大事なんだね」


「当然だろ」


 次葉が大事じゃないわけないだろ。


「じゃあ責任持たないと」


「責任?」


「そりゃあ分かるよね?」


「分かるよねって言われてもどういうことだ?」


 私が冴木にそう質問すると、呆れた様子でため息をついていた。


「告白以外に何があるのさ」


「は?」


「ここまでやって付き合わないのは大問題だよ。知らないけど次葉さんに彼氏が居たことは無いんでしょ?」


「そうだな」


「あれだけ美人で性格も良くてお金を沢山持っている女性がモテないなんてありえないからね。つまり数多くの告白を断ってきているんだよ。優斗君の為に」


「単にイラストレーターの活動に専念したいから付き合っていないだけだろう」


「そういう考えもあるかもしれないね。次葉さんは多くの人が知っている超人気イラストレーターだからね。でも、それなら優斗君を有名配信者にする必要は無いし、資料収集が目的でもないのに海に遊びに来てくれることも無い筈だよ」


「そうか?」


「そうだよ」


 確かにあれだけ忙しいのに私の為に時間を割いて色々行動してくれているな。イラストレーターに集中したいなら私を放置して家で延々と絵を描いているかもしれない。


「ってことで告白しなよ。今日の夜とか滅茶苦茶都合が良いタイミングじゃない?海が見える場所での告白なんて最高のシチュエーションだと思うよ」


「そう、かもしれないな」

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