第46話
「まあ、今回私は運転しないんだけどね。私も楽しみたいから。ということで彼を呼んできたよ」
「初めまして。宮野緑と申します。今回はジェットスキーの運転を務めさせていただきます」
そう言ってやってきたのは執事服姿の40代くらいの男。
「この人は?」
「私がよく呼んでいる家事代行の人だよ」
「家事代行って掃除とか洗濯を代わりにやってくれることで有名なあの家事代行?」
「うん。その家事代行だよ?」
「えっと、その家事代行がジェットスキーの運転をするの?」
「勿論。家事代行だからね」
「え……?」
サキは何を言っているんだとでも言いたげな表情で次葉を見ていた。
「優斗さん、普通ありえないですよね?」
「……ジェットスキーの運転くらいなら普通じゃないか?数日で取れる免許だしな。凄い人だとヘリコプターとか飛行機を運転出来る人とか居るしな。まあ、彼はジェットスキーに加えて小型船舶の運転も出来るから十分凄いが」
「えっと、冴木さん……?」
「うん。何を言っているんだろうねこの人たち」
私が説明をすると、サキと冴木は狂っている人を見るような目で私たちを見てきた。別に家事代行なんだからそれくらい出来てもおかしくないだろ。
「とりあえず遊ぼうよ。折角準備してきたわけだし」
「それもそうだな」
別にどちらの常識が正しいのかを決めに来たわけではない。遊ぶために来たんだからな。
というわけで私たちはバナナボートに乗った。順番は前がサキと冴木後ろが次葉と私だ。
順番に深い意図は特になく、弱い人を前に乗せただけである。
普通に考えたら男の冴木の方が女性の次葉より強い筈なのだが、冴木はただの配信者だからな。そこらの女性よりも貧弱なのだ。
それに次葉は男と比べても強い方だしな。比較する以前の問題である。
その意図を察した冴木は不服そうな表情をしていたが、配信者に信用は無いので無視して前に座らせた。
まあ、いくら振り落とされる可能性があるとは言っても運転手が超高速で走らせるような事をしない限りは耐えられるだろうがな。
「では、始めますね!」
宮野がそう宣言し、バナナボートが始まった。
「わあああああああああ!?!?!?!?!?!?」
「きゃああああああああ!!!!!!!!」
「ははははははははははは!!!!!!!」
「……は?」
前に頼りない二人が居るのは分かっている筈なので、多少は手加減するはずだと思ったが読みが外れた。
宮野は容赦なく全員を振り落とす気だ。
いくら安全に配慮したとしてもこのスピードで走るバナナボートから落ちたら危ない事くらい分かるだろ。
今すぐにでも文句を言いたいところだが、既に動いている状態で宮野に文句を言う事は叶わない。
ならばやることは一つ。
「きゃあああああ!!!!!ひゃっ!!!!!!!」
サキが落下しないように守り切るのみだ。
冴木も守ってやりたいところだが、位置関係的に厳しい。
まあ、冴木なら落ちても生き残ってくれるだろう。
左手でサキを支え、右手で持ち手を掴んだ。
「流石にこれから落ちたら危ないからな。全力で耐えてくれ」
「わ、分かった……」
落ちないようにと力をこめているのか、サキは顔を赤くしながら頷いた。
さて、これでサキは大丈夫だ。冴木は……落ちてしまったか。まあ配信者だし仕方ないな。
「次葉!?」
隣の列を見てみると、冴木だけでなく次葉もいなかったのだ。
落ちた?いや、そんなわけはない。このレベルで振り落とされるほど次葉は弱くない。
「どうかしたかな?私はここだよ?」
探していると背後から声がした。
「どうして後ろに居るんだ」
「優斗君がサキちゃんを守ろうと動いている隙に私は一つ後ろに移動し、機を見て隣に移動したんだ」
「このスピードの中か?」
「この程度大したことは無いよ」
次葉の運動神経と手足の長さがあれば出来ないことも無いだろうが、相当な無茶だろう。何のためにこんなことをしたんだ。
「まあいい、これ以上は危ないから動くなよ」
「分かっているよ。特等席から動くわけないだろう」
次葉はそう言って両手を俺の体に回した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます