第45話

「分かった……っておいっ……」


 ささっと日焼け止めを塗ってくれると思っていたのだが、次葉は手のひらを一切使わず指の先だけで塗りだした。


「何?ちゃんとしていると思うけど……」


「っどこがだよ……」


 私が指摘してもなお指の先だけを使い続ける。どうやら私をくすぐって楽しむことが目的らしい。


 別にくすぐりに弱いというわけではないが、そこまでちゃんとやられるとくすぐったいに決まっているだろ……


「いやあ愉快愉快」


「っ次葉がそう来るのなら私も……」


「おっとそうはさせないからね。いくら力の差があるって言ってもこの状態から振りほどかれるほどじゃないからね?」


 次葉は力づくで脱出しようとした私の体を全身で抑え込んできた。


 どこかでそういう技術を習得してきたのか、どう力を入れても振りほどけそうにない。


 それに次葉の素肌が私の肌と密着しているせいで力が入らない……


「公共の場でこういうのは止めてくれないか……?」


「私は別に気にしないんだけど。じゃあ逃げないって約束してくれる?」


「……ああ」


 どうやら次葉は私を絶対に離す気は無いらしい。


 仕方なく私はくすぐりを耐えることを選択することになった。


「くっ……」


「気持ちいいかい?」


「ん……んなわけないだろ……」


「笑みを浮かべているのに気持ち良くないって……」


「くすぐられてるから笑ってるだけだ……」


 笑顔だから気持ちいいってわけじゃないだろ……


「え?そうなんだ。ならもっと頑張らないとねえ」


 そう言うと次葉の手つきが変わり、よりくすぐりに特化した形に変わってしまった。




「はい、これで終わりだよ。どこに行っても日焼けしない体になったよ」


 本気のくすぐりになってからはただただ苦しかったという記憶以外残っていない。何か重要な事を言われて何か答えた気もするが、それも全く覚えていない。


「もうやめてくれよ……」


「大丈夫。もう必要ないから」


「そういう意味じゃ無くてな……」


 もう今日は日焼け止めを塗るなって言ったわけじゃないのは分かっているだろうが……


「で、イチャイチャは終わりましたか?」


 そんな俺たちに文句を言いたげな表情で聞いてきたのはサキ。どうやら俺たちが日焼け止めを塗っているのを待ってくれていたらしい。


「すまない、待たせたな。遊ぼうか」


「それよりも先にやることがあると思います」


「やること?」


「私にも日焼け止めを塗ってください」


「俺がか?」


「勿論。他に誰が塗るって言うんですか」


「次葉に塗ってもらえば良いだろ。同性なんだし」


 そんな付き合ってもない男に日焼け止めを塗らせるものじゃないだろ。同性同士で健全にやってくれ。


「さっきまで優斗さんがされていたことを見た上で次葉さんにお願いしたいと思いますか?」


「……分かった。俺がやろう」


 確かにあれを見たら次葉は危険だよな。多分サキにはしないだろうが。


「私にもお願いして良いですか?」


「冴木は自分でやれ」


 男だろうが。そういうのは一人でやれ。


「残念」


 何故男に日焼け止めを塗ってもらえなかったからってそんな残念そうな顔をするんだ。



 というわけでサキにも日焼け止めを塗り終わり、ようやく海で遊ぶための準備が整った。


「じゃああれをやろうか」


 次葉が真っ先に提案してきたのは目立たない場所で何故か無人で放置されているバナナボートが括りつけられたジェットスキー。


「あれ?」


「うん。丁度いい所に特殊小型船舶操縦士免許とレンタル出来るジェットスキーが置いてあったからね」


 そう言って大量の日焼け止めが入っていたカバンから免許を取り出してきた。


「全然丁度いい所にはないですよ……」

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