第47話
「次葉、何故私に捕まる」
「優斗に捕まるのが一番安全だからさ」
「どこがだよ。片手な上に今にも落ちそうなサキを支えているんだぞ。誰がどう見ても捕まるには不安定な相手だろ」
「でも落ちないでしょう?」
「そうだが」
そんな色々と不安要素を抱えている私だが、落ちるという未来はあり得ない。
私は天才だからな。バナナボートにおいても敗北はありえない。
……バナナボートが限界を迎えなければ。
「これは大丈夫なのか?」
「どういうこと?」
「多分これ時速50㎞近くあるぞ」
「それがどうかしたの?」
「確かバナナボートは40㎞を超えないようにみたいな注意書きがあった気がするんだが」
「え?」
「安全性を考慮してある程度までなら注意書き以上のスピードを出しても耐えられるように作られてあるだろうが、それはあくまで正しい乗り方をしている場合だ。サキが落ちないように支えている現状、私の持ち手部分がどれほど持つかが分からない」
私たち3人は成人の中でも比較的軽い方ではあるが、それでも3人合わせて120㎏はあるだろう。
速度だけなら耐えきれただろうが、この体重を全て支え切るのは難しい。だから次葉、自分の身は自分で守ってくれ。
「分かったよ」
「頼む」
事情を理解した次葉は俺の体から片手を放してくれた。
恐らく私と同じ状態だろう。目的は逆だが。
これで少しだけ耐えられる時間が増えたが、宮野が速度を抑えない事には意味がない。
早く気づいてくれ、宮野……
私の願いが届くわけもなく、なおも50㎞前後を維持し続けるバナナボート。
「なっ!!」
そんな中、私の手元付近からビリッという不穏な音が聞こえてきた。どうやらバナナボートの限界が訪れたようだ。
私単体だったら移動して安全な物を掴みなおせばよい話だが、先ほどから恐怖で声を一切発せていないサキには無理だろう。
体が動かないのもあるだろうが、そもそも筋力不足だ。
そのためサキを動かずに守る方法が必要なのだが、特に案が思いつかない。サキの真後ろ以外に最適な場所が存在しないのだ。
「やはり、落ちるしかないのか……?」
このスピードで走るバナナボートからの落水は結構なリスクがある。
冴木が落ちた時はまだ35㎞前後だったのでそこまで危険では無かったが、50㎞オーバーとなると結構怪しい。大惨事は免れたとしても、打撲等の軽い怪我はしてしまう可能性が高い。
まあ、サキが怪我しなければ良いか。
「サキ、すまないが一緒に落水するぞ。覚悟は良いか?」
「え!?!?」
「ちょっと待って!?!?!?!?」
「すまない、サキ。私の支えが壊れた。安全に対処するにはこれ以外方法はない」
「えあ、はい。わ、わかりました……」
急な落水宣言だったが、サキは顔を真っ赤にしたままあっさりと受け入れてくれた。
どうやらサキは私に支えられている間も落ちまいと全力で抵抗してくれていたんだな。
「ちょっと!!!優斗君!?!?!?」
「次葉?持ち手が壊れてこれ以上耐えられないからサキに落ちるんだ。分かってくれ」
「優斗君!?!?」
「行くぞ、せーのっ!!!!!」
私とサキは一緒に海へと着水した。サキを守るために背中から入ることとなったが、上手くいったみたいだ。
「大丈夫か?」
「うん、どうにか」
「二人して急に飛び込むなんてなにやってるのさ」
サキが無事であることを確認し、安心していると少し先で停止したバナナボートから次葉が声を掛けてきた。
「さっき言っただろう、落下させられるより自分で落ちた方が安全だから降りたと」
「別にそんなことしなくてもあの速度だったら安全だよ……」
「思いっきりバナナボートの制限速度を超えていたが?」
時速50kmは流石に危険だと思うが。
「ちゃんと検証をして安全だと確認したうえであの速度を出しているに決まっているでしょ。私と宮野だよ?」
「……言われてみれば」
あの時は咄嗟だったから気づかなかったが、よく考えると次葉と宮野が人の生死にかかわるところで無責任な行動をするわけが無かった。
「まあ、一切説明していなかった私が悪いね。説明していれば持ち手が壊れるような無茶な使い方をすることも無かっただろうし」
「それはどうだろうか」
なんだかんだでサキが落ちそうになった瞬間に助け舟を出してしまいそうな気はしないでもない。
「とりあえず陸に戻りません?」
「そうだな」
少々前に落とされていた冴木を救出後、全員で陸に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます