第38話
山本が宣言した通り、すぐにトーナメントの1回戦が始まった。
俺たちの対戦は第2試合なので、すぐに参加できるように近くで待つことになっていた。
流石にここでデッキの調整などをするのは愚策なので特に何もせず、第1試合を行っている冴木と絵馬の対戦を眺めていた。
私たちに勝つと息巻いていた二人だったが、引きが悪いのか比較的苦戦しているように見えた。
私たちがみていることは分かっているので手を隠しているという線も考えられるのだが、にしてもここまで苦戦することは無い筈だ。
対戦相手の二人は見る限りカードゲームは完全初心者であり、デッキも完成度が高いとは言いにくいのだ。
今回の試合は勝つには勝つだろうが、大丈夫だろうか。私たちは全プレイヤーの中でも強いぞ。
「あの、ちょっと良いですか?」
なんてことを考えていると、1回戦の対戦相手の玲子が話しかけてきた。
「どうした?私たちに降伏宣言でもしにきたか?」
丁寧な口調で来たので大体理由は分かっているが、あえて茶化してみることにした。
「違います。勝負は勝負なので勝たせてもらいますよ。それじゃなくて、オープニングのあれですよ。これまで関わったこともないのに突然標的にしてすみませんでした」
「配信を盛り上げないといけないんだから当然の行動だ。気にしないでくれ」
最初から配信を盛り上げるためにネタで勝負を仕掛けてきたことは分かっていたのだが、まさか謝罪しにくるとは思わなかった。丁寧な人だな。素晴らしい。
「ありがとうございます。では遠慮なくいかせてもらいますね」
私が先ほどの行動を許すと、何故か急に悪い笑みを浮かべてそんなことを言ってきた。
「別に構わないが……」
意図は分からないが、こんな丁寧な人の事だ。ある程度加減はしてくるだろう。
玲子は軽く頭を下げた後、海斗の元へ戻っていた。
「結構配信でアウトなこと言いまくってるけど裏では凄く真面目で礼儀正しい人だって噂は本当なんだね」
玲子が戻っていったあと、サキは玲子をみてそんなことを言っていた。
「最後の悪い笑みは気になるけどな」
「そんな顔してた?」
「ああ。それこそ誰かの重大なスキャンダルを掴んだ時の記者みたいな顔をしてたぞ」
「そこまで?ってかそんな記者の顔見たことあるんだ」
「まあな。社会に出たら案外見れるものだぞ」
「社会怖くない?」
「怖いかもな。記者ってのはどこに潜んでいるのか分からないからな。あれは忍者と同じだ」
「うん、私社会に出るの辞めて配信者として生きていくよ」
「それが良い」
配信者として生きる方が記者に見られる頻度は高くなってしまうのだが、私としては配信者として生き続けてほしいので特に何も言わないことにした。
その代わりに何かあったら全力で守ろう。
『絵馬選手のキャディの巨人による直接攻撃が決まった!!!!冴馬チームの勝利だ!!!!』
今後もサキが配信を続けてくれるように誘導が完了したところで、第1試合が終わったらしい。どうやら絵馬たちの勝利で終わったようだ。
その後二チームに軽いインタビューが行われ、私たちの番となった。
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