五十、私はね、浮瀬くん
結論から言おう。答えなんて見つけられそうにもない。
六月初め、自室でパソコン画面を見つめながら大きな溜息を吐いた。頭を抱えた所で、問題が解決するわけもなく机の上に頭を乗せた。木材で作られた冷たい机に頬をくっつけて窓の外を眺める。今日の夜に花火が上がるというのに、私は何故かこの部屋で項垂れたままである。
長きに渡る喧嘩は終わる事無く周囲は慌て始めた。ただでさえクラスが分かれてしまったのに、話もしないと来たら周囲は慌てるを通り越して恐れ始め普段のメンバーはどうすれば二人が元に戻るのか考えたあげく、今日の開港祭に誘ってきた。けれど私はそれを断り今部屋で小さな文句を呟いている。
開港祭とは、横浜が開港した事を毎年祝うお祭りの事で、各地に屋台が建ち並び夜には花火が上がる。横浜の学校はこの日ばかり休日となる。近隣から観光として訪れる人も多いが、開港祭は六月二日であり、今年は平日なので観光客は少ないだろう。
毎年開港祭は友人と一緒に行っていた。今年もそうだと思ったけれど、仙堂から浮瀬くんを誘ったから早く仲直りしろとメッセージが来た瞬間、今日は予定があると嘘をついた。予定なんて急ぎの物は何も無いのに、ただ彼に会いたくなかった。
こんなにも長い時間喧嘩したのは初めてだから、一周回って怒りとかマイナスのイメージを抱く前に、もうどんな顔をして話せばいいのか分からなくなってしまったのだ。私はこの前までどうやって彼と話していたのか。どんな距離感だったのか。分からなくなっている。
本当はずっと、声が聴きたくて堪らないのに手を取れなくなったのは、分からなくなった事も勿論、問題が低迷しているからだと思う。
都立図書館に行ってからメモをした藤原家の人間を片っ端から調べている。インターネット、本、歴史書、ありとあらゆるものを使い調べまくっているが何も引っ掛からない。藤原の一番有名人物は道長で、それ以外の人間が出て来ない。
半分以上を調べたが、ここまで何も出て来ないとなると私の着眼は間違えているのではないかと思ってしまう。有り得ない、確証のない伝承は何一つ役に立たなかった。ならば当時、浮瀬くんと私の人生が変わってしまった時間より前のつながりを調べたら、何か分かるかもしれないと思ったのだ。
が、成果は何一つない。
「もう駄目だー」
こんなの何時になっても終わらない。後どれくらい時間があるか分からないのに、足を止めたくはないのに、道の先が何一つ見えない。持っていた灯りすらも切れてしまったようだ。
「後、どのくらい」
何となく、浮瀬くんと再会してからずっと、どのくらい時間があるのかと考えるようになったのは多分、これまでの私が彼と長い時間を共にする事が出来ず死んで来たからだと思う。心の中ですぐに死んでしまうのではないか。また置いてくのではないかと思ってしまっている。
それが、少し怖くて彼に会いたくない理由の一つでもあった。
「あーー!」
壁に貼ったメモも、積み重ねた知識も、全部無駄になっている気がしてならない。底なし沼にいるみたいだ。足がもつれて答えが見つけられない。
早く見つけないと、仲直りなんて出来やしない。
絶対に終わらせると言った手前、答えを見つけられないと顔を合わせられない。ほら、見つけたぞ、どうだって言いながら突きつけてやりたいのに、それが出来ないのが苦しかった。そういう入りにしないと、多分私たちは元に戻れない気がする。
椅子から立ち上がりベッドに倒れ込む。午後二時過ぎの日差しが差し込み、僅かに開いた窓から風が吹く。それが何だか心地よくて、つい目を瞑った。
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