第5話 助け

「なるほど……」


事情を聞き、王太子であるエリックは口元に手を当てる。


護衛騎士になったのは最近だが、実直で真面目なティタンに信頼をおいているのだ。


助けにはなってあげたい。


しかし、呪術師を探しているとは。


「……これは秘密なのだが」


本来はけして言ってはならないことだ。


王家では秘密裡に呪術師を雇ってる。


呪いへの対抗手段がないといざというときに身を護る事が出来ないためだが、その力は貴重なため他国に漏らしてはならない。


国家機密の案件だが、ティタンの婚約者については様々な噂をエリックも聞いている。


今後自分に忠誠を誓う事、そして自分も同行する事を条件に、エリックは呪術師の紹介を約束した。







「今回の彼の事は皆様他言無用で」


事前に契約書まで書かせてエリックはサリーをスフォリア邸まで連れてきた。


フードを目深にかぶった男性は一言も喋らずミューズの側に来る。


何かあればただじゃおかないとティタンの体からは気迫が溢れ出ていた。


サリーの目とミューズの目が合った。


きれいなオッドアイに思わずサリーが目を逸らす。


「……今から解呪をしますが、何が起ころうとミューズ様に触れませんようお願いします」


杖を掲げ、ぶつぶつと呪文を唱え始める。


ティタンは無意識に剣に手を伸ばし、ミューズの家族も身を寄せ合い、祈るようにしてその様子を見守る。


「うぅっ……」

ミューズの口から苦悶の声が漏れる。


途端に激しく身を捩り、痛みに耐えるようにきつく毛布を握りしめた。


「ミューズ!」


「近づくなよ」


エリックに制され、ティタンはその場でグッと堪える。


自分の力では救えないことに悔しさが募る。


「あぁっ!」


痛みが激しくなっているようだ、ミューズの目からは涙が溢れている。


その時ミューズとサリーの視線が合った。


「?!」


黒い霧がミューズの体から立ち昇るが、フードの奥でサリーが僅かながら動揺を見せる。


皆が黒い霧に集中していたため、気づいたのはエリックのみであった。


黒い霧は勢いよく窓から外に飛び出していった。


ティタンが行く末を追う様に窓から身を乗り出すが、もはやどこへ行ったかなどわからない。


「今のが呪い、なのか?」


はっとしてティタンはミューズを見やる。


伏せている彼女の様子はこちらからじゃわからない。


サリーの方を見ると大きく頷いてた。


「彼女から呪いは離れました。もう大丈夫です」


余程力を使ったのか、サリーの声は掠れていた。


「ミューズ!」


ミューズの両親も弟であるリオンも、ミューズの元へ駆け寄る。


ゆっくりと身体を起こすミューズの身体は包帯の上からでもわかる程良くなっている。


「……ミューズ、包帯を外すわ」


ゆっくりと震える手で母であるリリュシーヌが包帯を解いていく。


「私の身体は……?」


皆の視線を受け、恐る恐る頬に触れる。


痛みもなく、膿も感じられない。


やや痩せてしまったが手も足も白い滑らかな肌に戻っている。


「治ったのね」


ぽろぽろと涙を流すミューズをティタンは強く抱きしめた。

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