第6話 呪いとは
呪いが解け、穏やかな日々が戻った。
表向きは高名な医師に治してもらえたと話をし、ミューズはリハビリに励むようになった。
食欲も以前と同じく戻り、母であるリリュシーヌの主催する茶会の参加を目指し、社交界への復帰を頑張っていた。
倒れてから半年の月日が流れていた。
「あの時は本当にありがとうございました」
そんなミューズが今エリックの目の前にいる。
金色と青色のオッドアイは宝石のように美しく、肌も白く艷やかである。
手足はほっそりとしているものの、女性らしい丸みを帯びた身体つきは魅力的であった。
キラキラと光る金髪を結い上げ耳にはティタンの髪色である薄紫のイヤリングをつけている。
纏うドレスも薄紫色だ。
「サリー様にも感謝しております」
エリックの後ろにはサリーが控えている。
現在護衛騎士には席を外してもらっているので、三人だけだ。
「ティタンはもう少しで来るはずだから、安心してくれ」
今日の護衛騎士はティタンではないため、訓練後に来るはずだ。
さすがに未婚の女性と長時間一緒にいるのはよろしくない。
「大丈夫です、エリック様もサリー様も私の命の恩人ですもの。ティタンからも許可を得ていますわ」
美しく可憐に笑うミューズは見るものを虜にする。
清楚で清純で、保護欲を駆り立てられるのだ。
「ティタンが居ないうちに少し聞きたいことがあってな」
ちらりとサリーに目を配り、サリーが一礼して話し始める。
「実は呪いを解呪するときに違和感を感じたのです」
「違和感、ですか?」
訝しげにミューズは眉を顰める。
「解呪した際に呪いはその場で霧散するのですよ、しかしあの場は違った。まるでどこかに行くように外界へ出て行きました。異例です。行き先が決まってたかの如く」
淡々と述べていく。
「そして実はあの呪い、俺の力だけでは解けなかった。とても強力な呪いで俺の呪力は解呪まで保たなかった」
スフォリア邸から帰ったあと、サリーは一週間寝込んでしまった。力を使いすぎたのだ。
「そんな呪いを解除どころか更に高等な呪詛返しをするなんて、考えられませんでした」
あの場にいたのは呪術師のサリーと王太子のエリック、護衛騎士のティタンとミューズの両親、弟のリオン、そしてミューズのみだ。
「あの場にいる誰かが俺の力に上乗せして、呪詛返しをしました。そしてミューズ様の呪いの緩和を行なっていたのです。そうでなければあなたはひと月と保たずに死んでいた」
「そんな…!」
口元を抑え、ミューズの身体は震えだす。
「数か月前、オーランド公一族とルアンドール公一族が、流行り病で亡くなったのはご存知ですね?」
こくりとミューズは頷く。
「実はあのとき血縁のみならず関わった呪術師も亡くなっているのですよ。
身体中が膿だらけになり、痛みに苦しみもがいて」
じっとミューズはサリーを見る。
「皆あなたと同じ症状です。しかし進行はあなたよりも早かった。一人残らず亡くなったのです、ミューズ様の呪いを解いた日からひと月以内に。とても強力な呪いでした。オーランド公爵令嬢とルアンドール公爵令嬢はあなたを嫌っていたそうですね」
「……」
ミューズは蒼白になりながらも大人しく話を聞いている。
「つまり呪いをかけたのは彼女達で、呪詛返しにより血縁の方々や周囲の方も亡くなられたのですか…?」
「ミューズ様の呪いに縁深い者が呪詛返しの対象だったようです。しかし、呪詛返しは普通は術者にのみ行くもの、ここまで範囲が広いのは普通ではあり得ない」
エリックはミューズの怯えた表情を見て、今ティタンが来ては殺されそうだなぁとぼんやり考えていた。
「ティタン様に魔法や呪力の才能はない。もしかしたらあなたの血縁ではないかと思い内密に話させて頂きました。心当たりありませんか?」
サリーの質問に静かに首を横に振る。
「呪力などというそのような力、私の家族からは聞いておりません」
「…それで君はどうなのだい?ミューズ嬢」
エリックがようやく口を挟む。
「君が魔法を使えるのはティタンから聞いた。水魔法などで領地の畑などに潤いを与えるなど民のために頑張っているとかな。魔法学校も首席で卒業したと聞いている」
「魔力と呪力は違います。私にそのような力などありません」
「そして君はとても本が好きで博識だ。今回のものも呪いだと言ったのは君だろ?」
ミューズは困惑した様子だが、エリックはにこやかに見つめている。
「呪いに馴染みのない者が呪いなんて言葉にしないよ。この国で呪いは禁止されているし、存在も知らないはずだ」
エリックはひと呼吸おいてミューズを見た。
「君はどこで呪いを知った?」
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