気分屋始めました。

 会社帰り見慣れた道を歩いてると、私が街を歩いてるとある看板が目に入った。

その看板は悪く言えば質素で、私以外の人は見向きもせずに通り過ぎていくのを片目に、今までこんなものあったけな?と思いながら少し冒険をする気分でその看板に誘導されるがまま入っていく。

 店内は以外にも小洒落ており、ランプや少し暗めの色をした木製のテーブルや椅子が4つほど置いてあり、奥にはカウンターらしき物が見える。

「いざ入ったは良いものの、ここはなんの店なんだ?」

 私が思わずそう呟くと、奥からバーテンダーのような服を着た白髪の少年がカウンターの暗闇から現れる。

「いらっしゃいませ。本日はどのような気分でしょうか?」

 白髪の少年の声は似つかわしくないほど低く掠れたかぼそい声でそう私に問い掛ける。

「えっと…気分ですか?」

 私は何かの聞き間違いかな?と思いもう一度白髪の少年に問いかける。

「ええ?気分ですよ。お客さん看板を見ましたか?」

 白髪の少年はそう言うと私の元に近づくと、額を私の胸に突拍子もなくくっ付けてきたので、私は咄嗟に後ろに仰け反る。

「わぁ〜!お兄さん案外身長デカいんですね!」

 白髪の少年は目を輝かせながらそう言うとまた奥に戻っていく。

 気分の事を聞かれたり急に額を胸にくっ付けてきたり…一体全体なんなんだ?と思いながらもう出ようか迷っていると、さっき奥に行った少年が何やら飲食店などでよく見るメニュー表を抱えながら走ってこちらに向かってくる。

「お待たせしました〜。一応自分の気分を言えない方や分からない方向けの、大まかなメニュー表はあるのでこれを読んで決めてください!」

 そう説明し終わると少しデコレーションをされたメニュー表をこちらに差し出して来たので、一応入ったのだからメニュー表くらい確認しよう。と思いメニュー表を開く。

 メニュー表には喜怒哀楽の4つのコースが書いており、その他にも色々なコースやトッピングなど、よく分からないが様々な物が書かれており、とりあえず最初に目に付いたオススメコースを選んでみる事にした。

「オススメコースですね!それでは僕に着いてきてください!」

 そう言われ私は白髪の少年について行くと個室見たいな部屋に案内される。そこはアロマか何かを炊いてるのか、ゆずのような柑橘系の香りと暖かい色をしたライトが印象的な落ち着く部屋で、目の前に白髪の少年が座ると私も座るように促され対になるように座る。

「それではまず。軽いカウンセリングからさせてもらいます!まず、呼び方はお兄さんでも良いですか?」

「えっと……それでお願いします」

「次に、今回はオススメコースという事で、お兄さん仕事帰りで疲れてる様に見えるので、癒しを中心としたマッサージやお風呂などを案内させて頂きますね!他に何か注文などありますか?」

 私は内心そんなに疲れている風に他人からは見えているのかと思いながら私は首を縦に振ると、少し咳払いをした後少年はさっきより少し声を高くした様な声で私の顔を見つめる。

「分かりました!それでは今日お兄さんの案内させて頂きます。名前をユズと言います!」

 そう言うとユズさんは机を隅に置き直し、壁を叩き始める。

「あれ?おかしいなぁ。少し待ってね!」

 少しの間壁を叩いてるのを横目にユズの姿を見てると、服装がさっきとは変わっており、キッチリとした服とは一変してどこが見た事のあるような少しダボついた服装になっている事に気が付く。

「えっと…ユズさんいつ着替えたんですか?」

 私がそう訪ねるとゆずさんは叩くのを辞めて私に問いかける。

「えっと。お兄さんにはどういう風に見えてます?」

「どういう風って…ダボついた私服のように見えますね」

「そうなんですね!えっと。もしかしてお兄さんお子さんか、弟さんいました?」

「そうですね…弟ってよりは昔親しかった後輩が居ました。ちょうどユズさんと同じような身長と髪の長さでしたね」

 私は何でそんなことを聞くのか不思議に思いつつ答える。

「そうなんですね〜。ならよっぽどその人の事が忘れられないのですね〜」

「いや、忘れられないってより…」

 私が咄嗟に反発の言葉を述べようとすると、「ガタンっ」と言う音と共に目の前にベットが現れる。私は最初こそ理解出来なかったが、それが壁に収納出来るタイプのベットだと言うことをすぐに理解する。

「さっ!先輩ぃーうつ伏せになってください?」

 ユズさんがそう言うと、私はベットにうつ伏せになりながらずっと思っていた事を質問する。

「今更ですけどこのサービスっていくらなんですか?」

「お金はいりませんよ?この店自体私の気分よって経営してますし〜あっ!ただ強いて言うなら今感じてる気持ちを分けてください!」

「気持ちを分けるですか?」

 まるでおとぎ話のような奇妙な事を言い始めたので私が聞き返すと、ユズは首を縦に振ったあとに続けて口を開く。

「例えば、先輩の場合。そのミズキさん?との感情を私にも体験させて欲しいって感じです〜」

「待て待て…なんで私の後輩の名前を知ってんだ?」

 今までなんやかんや不思議な点をスルーしてきた私だったがこればかりは、おかしいと思い思い切って聞いてみる。

 するとユズさんはすこし唸りながら答え始める。

「えっと。まず。この空間は先輩の気分や性格を表しているんですよ。だから私の服が変わったふうに見えたりしてるんですけど、この仕組みが先輩の記憶などが僕の頭の中に流れてて…んで、その対価として先輩の1番楽しかった時の気持ちを私にも体験させて!!っと言う感じで〜わりました?」

 一通り説明を理解しようと真剣に聞いてみるが何一つ分からなかった。まず、人の感情を見るのって…そんな事可能なのか?私がそうこう考えると、ユズは私の腰に触れると体全体の凝りを揉み始める。

「とりあえず!感情を読み取れるとかはテレパシー見たいなものっていう解釈で大丈夫です!それに折角来たんですし、楽しみましよ?なんなら金銭を要求しない契約書でも書きますか?」

 私はとりあえず。マッサージを無料で受けれるならという感じで、考える事を辞めてそのままたわいも無い会話をする。

 そうしているといつの間にか寝ていたようで、起きるとユズさんはそっと私の耳元で

「お代はもう貰いましたんで、また辛くなったらここに来てくださいね?先輩」

 と言ってそのまま、入口まで見送ってくれた。

 私は暫く体が軽いことや懐かしい気分を味わいながら、またあの店に行こうかなと思いながらスマホを開く。

 スマホ画面には当時私が密かに片思いしてた後輩の写真が表示されていた。

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