短歌を作って
これはまだ私が幼い頃。夜の町に恋焦がれて、一人月明かりに照らされて静かな住宅団地を歩いていた。すると、前からおじさんが何か呟きながらこちらに向かってくる。その呟きは何処か歌のような、落語のような不気味なものだった。私はそんなおじさんと顔を合わせないように俯いていると、急に声を掛けられる。
「お嬢さんも寝れないのかい?」
その時に夜の酔いが回ったのでしょう。おじさんは不思議と怖くはありませんでした。気が付くと、私はおじさんと満天の星空の下、近くの公園で少しお話をしました。
「おじさんは、さっきまで何を歌っていたんですか?」
私が質問すると、おじさんはゆっくりと喉を唸らせて答えました。
「あれは短歌であって。お嬢さんが知っている歌ではないよ」
私はおじさんの言うことが良く解らなくて困っていると、おじさんがポケットから大きな瓶を出すと、丸っこいお月様を見上げて言いました。
「星空と、大地照らした、月明かり。少女と飲んだ、美酒佳肴かな」
私はおじさんが言った内容がやはり理解できず、直接教えを呼応としました。だが、おじさんは答えてくれないどころか、今度はアルコール臭漂った口を開いて言いました。
「おじさんにはね、昔、お嬢さんみたいな子供が居たんだよ。その子は短歌が好きな変わった子でね、毎日暇さえあれば短歌を作っていたよ…… これからって時に、夜道歩いて消えていたんだけどね」
おじさんは今にも泣きそうな声で私にそう言うと、帰るように促しました。だけど私はまだ帰りたくないと言うと、おじさんは血相を変えて私を突き飛ばしました。
「満月を、手に取れるのは、一人だけ。未来託した、酩酊のみさ」
目が覚めると、そこは抜け出したはずの病院の中でした。周りには両親が信じられない顔で突っ立って居ました。その時、私はおじさんの事を理解しました。そして私もおじさんの様に短歌を作って行きました。いつか私も短歌で人を救えるように。
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