11月15日 4

「人間のくせに、どえらい奇怪な動きするやないか」

 頭上から降り注ぐ声が聞こえてくるのと同時に、蒐は後方に突き飛ばされた。

 同時に、蒐が居た場所に声の主が降ってくる。

 包丁を持った女性を攻撃するように、アスファルトがえぐれるほどの衝撃波を携えて。

「……塗り壁!!」

 目の前で爆発でも起きたような轟音、そして時間差でやってくる衝撃による風圧。

 それに飛ばされないように蒐は目の前を壁で塞ぐ。

 やがて静寂が訪れ、塗り壁を解除した。

 状況を理解しようと頭を回転させるより先に、空から舞い降りた白髪の吸血鬼が喋りだす。

「今の奇襲を避けるんか、裏で手ぇ引いてるやつがいるな。ってかなんやその顔は、誰にやられたんや」

 目前まで迫っていた包丁を持っていた女性は、突然の闖入者ちんにゅうしゃを警戒して距離を取っている。

 それとも上空からの奇襲を察知して、一瞬であの距離を確保したのかもしれない。

 どうあれ、決定的に違うのは、先程の衝撃でマスクが飛ばされて、隠されていた顔がむき出しになっていることだろう。

「私……綺麗?」

 呟く女性は涙を流している。

 顔は唇の端から耳の付け根まで大きく裂かれている。皮膚の下の肉がむき出しになっていて、その部分だけ生々しく変色している。

 元来きれいな肌をしている女性だったのだろう。

 真っ白な肌と醜い肉の部分のコントラストが痛々しい。

「なんやお前、現代の口裂け女ってところか。見たところただの人間やけどな。ただ厄介なのは……」

 ナーシェは女性の持っている包丁と、女性の後ろの空間を見つめている。

「それやな。けったいなもん持ち歩きよって、無理やり呪術師にでもされたんか。同情するが、こいつを襲っていい理由にはならんやろ。次は避けられへんで。意思の疎通ができそうやから、無理やり捕まえてお前の嘆きを吐き出させたる」

 ナーシェは足に力を込める。

「んじゃ、さくっと終わらせ―――ん?」

 ナーシェは後方から飛んでくるとてつもない殺気を感じた。


「そこの青天あおてんしている寄名君は君がやったのかな? さっきの爆発もだよね。こそこそ何を企んでいるのか知らないけど、ついに本性を現したのかい?」

 言葉と同時に三ノさんのめ飛鳥は手に持っている刀を容赦なく振りぬく。動作の後に振りぬいた音と剣圧が飛んできた。その斬撃動作が音速をゆうに超えている証明だろう。

 ナーシェは身の危険を感じて即座に反転し、その刀を爪で受け止める。

「な、ソニックブーム起きとるやんけ。本気で振りぬくアホがおるか!」

「何言っているんだい、ボクが本気だったら切られたことにも気づかせない。今頃君の首と胴体は切り離されていて、その可愛らしい頭でサッカーをしているよ。思い切り蹴り上げて君の家まで飛ばしてあげようか」

 そのまま可憐な二人は罵りあって鍔迫つばぜり合いを始めてしまった。

 刀と爪がぶつかり合うたびに、空気が振動しているような、びりびりとした激震が走る。

「ちょい待ちいやお前、わいのどこがこいつを襲っとったように見えるねん」

「違うのかい? 道路をこんな風にできるのは、君しかいないわけだけど」

「確かに、この道路はわいがやったけど、あっちに口裂け女がおるやろ!」

「口裂け女?」

 三ノ女は視線を道路全体に映す。

 しかしすでに、包丁を持った女性の姿はなかった。

「誰もいないじゃないか、弁明の時はまともなことを話すべきだよ。正気を疑われる」

「嘘じゃないわ、そこのほうけとる奴に聞いてみい」

 唐突に話の矛先が蒐に向いた。

「寄名君、この吸血鬼の言っていることはホントなのかい?」

「え、ええ。本当です。むしろ助けてもらいました」

「ふむ、そうか」

 三ノ女は刀を収めた。

 同時に、周囲を威圧する殺気も消え失せた。

 常に静電気を浴びているような、雷に打たれたような感覚は、目の前の少女が起こしていた、ただの鬼気とした気迫だった。


「そうか、口裂け女に襲われたのか」

 尾咲市東部の山沿いの側道、大きな街灯の下で三人は向き合って話している。

 蒐、ナーシェ、三ノ女という珍しい組み合わせだった。

「確かに、この吸血鬼に撃鉄を起こす前に少女の姿は確認できていた。ただ遠目だったし、ボクに見えるということは人間であるということだからね。怯えているようにも見えたから、襲われている側だと思ったんだ」

「あほか、ちゃんと顔見とけや、大きく裂けてたやろ。確かに女自体は人間やったけどな、持ってる包丁は呪術を帯びてたで。しかも誰かに操られてたわ、人の動きしてなかったからな」

「私、綺麗? ってずっと聞いてきましたね。昔各地方で社会現象にもなった、有名な都市伝説の口裂け女で間違いないと思います。と青行灯が言ってます」

「青行灯のお墨付きか」

「実際に対峙してみた感じやと、あの女は口裂け女に見立てて用意されたただの人間で、力を持ってるのは包丁のほうだと思うたわ」

「……やばい殺されると思って逃げ出したときに、私と和泉を助けてって声が聞こえた気がしました」

 蒐の発した言葉に三ノ女が反応する。

「私と和泉を助けて? それは行方不明の白川和泉のことか?」

「白川和泉?」

「ああ、丸腰が調べた行方不明者一覧に居た白川和泉だ。その白川和泉を助けてだと? 口裂け女が攫ったわけじゃないのか?」

「その白川いう奴のことは知らんが、あの包丁持った女はどっからどう見ても人間やったで。とういかお前ら、こんなとこで時間潰しててええんか、もう結構いい時間やで。人間には睡眠が必要で、学生ってのは毎朝学校に行くもんなんやろ? 夜遅くなると困るんやないか?」

 ナーシェの発言に、ぎろりと敵意を抱いた視線をむき出しにする三ノ女。蒐が思っている以上にこの二人は犬猿の仲だった。

「まさか、君の口からそんな言葉が出てくるなんてね。この数か月で随分と丸くなったものだ」

「待て待て、あの時は有無を言わさず本気の戦いになっただけやろ。そうじゃなければわいはいつもこんな感じやで」

「どうとでも言うがいいさ。ボクは君からもらった屈辱は忘れていないよ」

「たった一回手傷負っただけやろ、こっちは何べんも殺されたんやぞ。意趣返しされえへんだけありがたく思え」

「首を落としても死なない君に感謝する道理はないが、寄名君を助けたことは褒めてやろう。一体どういう風の吹き回しだ」

「どうもこうもあらへん、あいつが様子を見てこい言ったから遠巻きに見てたんや。そしたら死にかけてたからな、そりゃ助けるやろ」

 三ノ女はナーシェに厳しい視線を向けるのをやめない。

 反対にナーシェはあっけからんとしてその視線を受け止めている。

「まあいい、君の証言は今回の事件では役に立つ。さあ、引きこもりは引きこもりらしく山奥に帰って温かいベッドの中でふんぞり返るがいいさ」

 「行こう寄名君、車で瑞穂が心配している」といって刀を携えた少女は風を切るように歩き出した。

「ちょ、三ノ女先輩。ええと、ありがとうナーシェ。君が助けてくれなければ死んでいた」

「あれくらい朝飯前や。むしろあれくらい対処できるようになってもらわんとな」

 ナ―シェの含みある言い方に疑問を抱くが、そこをツッコむ時間はない。

「ああ、手土産持って礼に行くから、また今度」

 蒐はだいぶ離れてしまった小柄な先輩に向かって、夜道を走り出した。


 結局、白いバンに辿り着くまで三ノ女飛鳥には追い付けなかった。

 確かに彼女の足は長く、その一歩が大きいことは理解できるが、それでも小走りで駆けていた蒐が追いつけないのは、どういった道理なのだろう。

 素直に走って真横に並べば良かったのだが、男のプライドが邪魔をして駈け出せなかった。

 三ノ女いわく、鍛錬が足りないらしい。すり足を極めるとこうなるとも。

「遠くからだったけど、すごい爆発だったわよ、寄名君、大丈夫なの?」

 車内で巣南瑞穂が興奮した様子で声をかけてきた。

「ああ、ここからでも視認できるくらいの粉塵ふんじんだった。一瞬で寄名君に危険が迫っているとわかった。だからボクが駆けつけたんだよ」

「そうだったんですね、ありがとうございます。巣南さんもありがとう。この通り、死にかけたけど無事だよ。助っ人もいたからね」

「助っ人?」

「ああ、今度ちゃんと紹介するよ。ドッペルゲンガーの時に世話になったナーシェだ」

 巣南は納得した顔だった。

 考えれば考えるほどナーシェには世話になり続けている。

 今までの出来事の功労賞は間違いなく彼女だ。今夜の最優秀選手賞だってそうだろう。

「さて、ようやく落ち着いたね。瑞穂も寄名君の身に起きた出来事が気になるだろうけど、まずは冷静になろう。ボクの家で、借りてきた猫みたいになる前に、今日の成果をまとめておきたい。まずはボク達からの報告だけど、簡潔に言えば何の成果も得られなかった。犯人は現場に戻るともいうから、昨日橋本紗友里が襲われたという現場を中心に見て回ったんだけどね、よほど警戒されていたのか、西部では何も起きなかったね。だから、帰宅していない生徒も見つけられていないことになる。無事であることを祈るしかない」

 尾咲市は広い。東西の道程は車で二十分はかかる距離だ。

 蒐を東部まで送り届け、それから西部に向かう僅かな入れ違いの時間で、口裂け女が犯行に及んだ可能性もある。

 あの人間離れした動きを見れば、可能であると嫌でも理解できる。

「西部を見て回った感想はこれくらいかな。次は寄名君の報告だ」

 蒐は東部の見回りで起きた出来事の一連の流れを説明した。


「なるほど。犯人が……これからは犯人の呼称を口裂け女としようか。口裂け女がどこから出てきたのかは見ていないんだね。わかった。じゃあ、あの吸血鬼の推測も踏まえて今日の出来事をまとめよう」

 蒐の身に起きた一幕の説明を終えた。

 今でも、目の前であのような激しい攻防が繰り広げられていたのが信じられない。

「まずはっきりとしていることから。寄名君とボクが視た口裂け女は、金髪でマスクをしていて包丁を持っていた。これは目撃証言と一致する。昨日橋本紗友里を襲った口裂け女と同一人物だろう」

「ええ、俺は間近で視ていますし、怪異達も証人になります」

「とはいえ事実確認はこれくらいしかないね。次は増えてしまった謎についてだ」

 ミニテーブルを囲んで話を続ける。

 巣南が白紙にペンを滑らせて、今日の結果をまとめている。

「一つ、口裂け女は人間である。二つ、口裂け女が持っている包丁には、塗り壁を切り裂くほどの力、呪術が宿っている。三つ、人間離れした動きをする。そして四つ、泣きながら襲い掛かってくる異質さ。これくらいかな」

「はい、口裂け女からは常に悲壮感のある声が聞こえてきました」

「白川和泉の名前を口にしたこと、制服姿の金髪。この二点から、あの口裂け女の正体に該当するのは一人、行方不明者となっている高山渚だ。尾咲学園の三年生で金髪は彼女しかいないし、そもそも白川和泉と仲のいい女生徒も彼女だけだ。そう仮定すると、ある程度の謎は解けるね」

 三ノ女の言葉に引っかかりを感じる。

 金髪の生徒は高山渚だけという発言。

 そんなはずはない。帰りがけに金髪の三年生と話している。と口に出そうとするが、そのモデルのような金髪の生徒の顔も、名前も、おぼろげで思い出せない。

「高山渚は普通の生徒だ。一般人だ。家系を遡っても怪異や呪術とは無縁の平凡な家庭で育ってる。大きな怪我をしている事実もない。むしろクラスの中心人物で、とても人望のある生徒だ。そんな彼女の変わり果てた姿を僕らは視てしまった。何らかの事情があるはずだ」

 口裂け女は、何らかの力に抗いきれず、犯行に及んでいる節があった。

「丸腰の聞き込みによると、高山渚は白川和泉と街に出かける約束をしていたらしい。素行調査ファイルによると二人はかなり親密な仲みたいだ。事件が起きた日にちのどこに該当するかは謎だが、二人は一緒に街に出かけていた。その時に何かが起きたと考えられる。白川和泉が行方不明になり、高山渚が顔に傷を負い、呪術を帯びた包丁を手にするような出来事が。そして、その原因を作った相手に操られて、犯行を繰り返している。この筋書きなら、泣きながら、抗いながら襲い掛かってきたのも納得できる。謎のすべてに理由付けができるね」

 巣南は今の仮定を紙にまとめた。

 金曜日の夜から続いている女子生徒の連続した行方不明事件。

 仮に初日に行方不明になったのが白川和泉と高山渚だとすると、黒幕はその後の犯行を高山渚という便利な手先に任せ、その隠れ蓑の裏で手を汚さず平然としているのだろう。

 一行を乗せている車が山道に差し掛かる。

 エンジンの回転数が上がり、鈍い音と強いトルクで坂を上っていく

「ボクは、この線はほぼ間違いないと思う」

「俺もそうだと思います。彼女は錯乱していますが、間違いなく意思の疎通ができます。身柄を確保して話を聞けば更に新しい情報が分かるかも」

「ああ。高山渚の身に起こったことが明らかになれば事件は解決に向かうだろう。寮生である彼女は現在どこを拠点としているのか、黒幕は誰なのか、これを知る必要がある。加害者でもあり被害者でもある人物の相手は、正直複雑で難しいが、明日は見回りをしつつ拠点を探し出したいね」

 鳴り響いていたエンジン音が消えて、一行は三ノ女邸に到着した。


「おかえりなさいませお嬢様、ご学友の皆様もようこそいらっしゃいました。冬の夜は寒かったでしょう。お風呂の準備はできております。お荷物はこちらで用意した部屋まで運んでおきますので、先にご入浴いただいて体を温めてください」

 丁寧なお辞儀と可憐な笑顔で、クラシカルなメイド服を身にまとった人物が一行を出迎える。

 目の前に広がる三ノ女邸のロビーは、以前訪れた時のような無人で静寂に包まれた空間ではなく、多くの使用人たちが忙しくも優雅に歩き回る、豪華絢爛な眩さをもって、オカ研の二人を迎え入れた。

 三ノ女は何でもないかのように自然と「ただいま帰ったよ」といってメイドの脇を通り過ぎたが、蒐と巣南は学園生活とはあまりにもかけ離れた世界の一端に触れて、緊張で身体がいうことを利かなくなっていた。見回りの疲れも重なって足が小刻みに震えている。

「二人ともどうしたんだい? 疲れているだろう、温かい湯で癒されようじゃないか。そのあとは温かいご飯でも食べて早く寝よう。そうだ、瑞穂はボクと入るかい?」

 三ノ女の言葉で我に返る。

 二人の傍らには、荷物を受け取ろうとするメイドと、浴場への案内を請け負ったメイドが控えていた。

 二人は荷物を預け、案内してくれるメイドの後に続いて歩き出す。

 屋敷の中心にある大階段を上った。

「大丈夫だよ、取って食べたりしないし、使用人たちが粗相をすることはないさ。緊張しなくていいよ。みんな可愛く頼りになる三ノ女家の一員だからね。何なら背中を流してもらうかい? あ、瑞穂はこっちね、一緒に入ろう」

 巣南は三ノ女に手を惹かれて屋敷の奥へと消えていった。

 蒐は先導するメイドに視線を移すと目が合い、メイドはにこりと微笑みながら「お流ししますか?」と呟いた。

 その一言で、蒐の緊張はマックスになり、ガチガチになった身体で浴場へと案内された。


「それで、背中を流してもらったのかい?」

「そ、そんなわけないでしょう!!」

 入浴後は食堂に集まった。疲労の軽減した身体が、今度は激しい空腹を訴えだしたが、すぐに就寝する予定だということもあり、今は軽食を摂るに留める。

 巣南はジト目で蒐をさげすんでいる。

 ホントに背中を流してもらうのかと疑っていたらしい。完全な風評被害だった。

 三ノ女飛鳥はもこもことした淡い桃色の可愛い服に身を包んでいた。愛用しているパジャマなのだろう。

 巣南と蒐には、来客用の寝間着が使用人によって用意されていた。

 来客用とはいえ、蒐が普段使いしているモノに比べれば、グレードは幾分か上だった。

「さて、分かってると思うけど、明日はボクの家から学園に向かうからね。使用人が起こしに行くと思うから安心して寝ていいよ。余裕をもって朝食が摂れて、身なりも整えられる時間に起こしにくるはずだ。さあ、今は空きっ腹にモノを入れよう。少しみすぼらしいかもしれないが、味は保証するよ」

 出迎えた時とは違うメイドが、併設されているキッチンからお椀を三つ持って出てきて、それぞれの前に見事な紋様の漆器を置いた。

 中身は正確で綺麗に切られた豆腐と、鮮やかな色の手毬麩てまりぶが入ったすまし汁だった。

「すごい綺麗、それに美味しい」

 巣南は味わうように目を閉じてゆっくり嚥下えんげする。

「それで、飛鳥先輩。明日も今日と同じように見回りに出るんですか?」

「うん、そうだね。明日の寮の不在者次第だけど、基本スタンスは今日と変わらない。プラスして、高山渚が身を潜ませていそうな場所を見つけられれば最高だ」

 三ノ女は口裂け女の正体が高山渚だと確信している言い方をした。

「この広い尾咲市で、あてもなく探して見つけるのは難しそうですね」

「そうだね、だから頭の片隅にでも置いてくれればいいよ。優先するべきは本人の確保だ。時間帯的にも、犯行のために出歩いているだろうからね」

「でも今日の一件で、私達の存在がバレましたよね。そんな中で連続して犯行に及ぶのは現実的ではないと思います」

「普通の人間が起こす犯罪ならそうだろうね。でも今回は確実に怪異がらみだ、そんな常識は通じない。それに、相手からはボク達はたまたま居合わせただけにも見える。徒党を組んで探し回っていることは、まだ気づかれていないはずだ」

「防戦一方の俺はともかく、ナーシェや三ノ女先輩という強大な存在がいることを知って、様子を見て次の犯罪までインターバルを設ける可能性はないですか?」

「確かに……口裂け女となった高山渚だけであれば、ボク一人で余裕で鎮圧できるからね。相手もそんなことは理解しているだろう。ただ今回は黒幕が別に居て、高山渚はただの使い捨ての駒に過ぎない。むしろ力量を見極めたいがために、派手に犯罪を起こしてボク達をおびき出そうとするかもね」

 三人のお椀は空になっていた。

 傍に控えるメイドたちは、会話の邪魔をしないよう食器を回収している。

「結局やることは変わらないってことですね」

「そう。初日でここまで進展があったのは僥倖ぎょうこうだよ。捕まえられなかったのは残念だけど、この情報は役に立つ。むしろ心配なのはこちらの健康状態だ。今日の疲れを明日に引きずるわけにはいかない」

 三ノ女は席から立ち上がった。

「さて、健康管理は基本中の基本だ。もうすぐ日付が変わる。その前に各々部屋に戻って寝ることにしよう。怠慢で疲労が抜けなくて休みたいなんて理由にならないからね。さて可憐な使用人達、彼らを部屋まで案内してあげてくれ。じゃあおやすみ、また明日ね、二人とも」

 そのまま食堂を後にした。

 残された二人も、そばにいるメイドの案内で客間に案内された。

 蒐は身分不相応の豪華な部屋に面食らったが、ふかふかのベッドで横になった途端、隠れていた疲れが出てきたのか、そのまままどろみの中に身を委ねていった。

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