おじガチャ

「お前ら、おじガチャを作ったで」

「おじガチャ?」


おじはツイキャスで配信を始めると、画面上に――おじの部屋の中に設置してある改造されたガチャポンを映し始めた。

そのガチャマシンの表面には汚い字で『おじガチャ 1回500円』と書かれていた。


「この中には、デュラチャ民の名前が書かれた紙が入ってるねん。それを引き当てたやつはそのデュラ民とオフ会できる権利を得られるで」

「有効期限とかあるの?」

「有効期限は特にないで。希望者には裏で住所教えてくれれば引いたガチャ券を郵送したる」


リスナーたちがおそるおそるおじに質問を投げかけ、引くべきか引かぬべきか迷っている中、


「女の子は入ってますか😃」


と、おじに真っ直ぐな質問を投げかける男がいた。

おじのガチャに釣られてきたのか、この――ぽよんは女の子が入ってるならガチャを回す気満々といった様子だった。


「あぁ。もちろんSSRにはおじ選りすぐりの女の子が入ってるで」

「じゃあ引いてみようかな。はぁはぁ」

「やるならPayPayで送金してな」


おじはそう言うと自分の電話番号を開示した。


「送ったよ」

「回す前にレアリティの説明しとくわ」


おじによるとガチャのレアリティは、

N(ノーマル) R(レア) SR(スーパーレア) SSR(スペシャルスーパーレア)

の4種類でNがいわゆるハズレ枠で、SSRが大当たりという設定らしい。


「じゃあバチコリと回してゆくぅで」


おじが自分でガチャに500円玉を入れガラガラとハンドルを回し始める。

箱に入った大量のカプセルのうちの1つが、取り出し口へと落ちてきて、おじはそれを取り出した。


「ハズレや。『N 桜井誠』!」

「うわぁぁぁん」

「桜井誠は特典として、どこでも一緒に旅行へ行ってくれるそうや。あ、旅行費は全額お前ら持ちやで」


配信を見ていたリスナーから「いらな……」という声があがる。

ぽよんも引き当てたものの、この券を使って桜井誠と会う気はないようだ。


「どうする? まだ引くか?」

「女の子引き当てるまで回すよ😃」


ぽよんは再びおじに送金を行ったようで、おじは再びガチャポンを回し始めた。


「おっ。出たで、『N 桜井誠』!」


なんと、ガチャポンから出てきたのは2連続でハズレの桜井誠であった。


「またかぁ~」

「まあガチャやしそういうこともあるで」

「もう1回、回すよ」


3度目の正直ということで、再びガチャが回される。


「――『N 桜井誠』!」

「なんで桜井誠しか出ないの。いい加減おこるよ」

「チャウネン。まだ始めたばっかだからハズレの供給率のわりに人員がスカウトできてないねん」


ぽよんは怒りながらもガチャで当たりを引き当てることは諦めていないようで、更に追加でおじにお金を払い続ける。


「お! ついにSRや! しかも女の子やでぇ~」

「おおおおおおお」


おじが配信画面によく見えるようにガチャから出てきた券を映した。

そこには『SR おじの奥さん』と書かれていた。


「おじって奥さんいたっけ?」


配信を見ていたミャオチョフからコメントが上がる。


「いないで」

「は?」

「これは将来おじが結婚して、奥さんができた時に始めて有効になる券や」

「できんかったらどうするんだよ。半分詐欺やろ草。ぽよんも泣いとるで」


ぽよんはSRを当てたのにもかかわらず黙っていたので、喜んでいるのか悲しんでいるのかわからなかった。

おじは、そんなぽよんに声を投げかける。


「まだ引くか?」

「こうなったらSSR引くまで回すよ。まさかその中身全部開けてもSSR1枚も入ってないなんてことはないよね?」

「ギクッ! い、イヤッ! SSRはちゃんと入ってるで」

「じゃあ回すよ😃」


ぽよんはガチャを回し続けた。

桜井誠を何度引き当てようともめげることはなかった。

そして――。


何十回目かのガチャを開けた時、おじの顔が笑顔になる――確定演出が見えた。


「SSR出たで! ほら! ちゃんと入ってたやろ!」


ガチャを購入しているぽよん本人より嬉しがってるのではないか――というくらい、おじはSSRが出たことに喜んでいた。


「で、SSRは誰なの?」

「おじや」

「は?」

「だからおじやで」


満を持して登場したチケットには女の子の名前はない。

代わりにそこには『SSR おじ 膝蹴り無料』と記載されていたのだ。


「ふざけないで。おこるよ」

「おじと会えるんやで?」

「SSRには女の子が入ってるって言ったよね。このまま全部引いたらちゃんと女の子出てきますか?」

「イヤッ! わかったで、引き分け……引き分けで手を打とうや。もうこれ以上ガチャを回すのはやめてくれ。その代わり、おじが何でも好きなこと1つ聞いたる」

「おじに会える権利とは別だよね?」

「あぁ。会った上で言う事聞いたる」

「わかったよ😃」


そしてぽよんは何事も無かったかのように去っていった。


残ったリスナーたちは、おじガチャが詐欺だったということを感付き、おじガチャはすぐに廃業となった。



***



X年後。


おじの婚活がうまくいき、おじの結婚式が大阪で開催されていた。


「新郎おじ――あなたはここにいる新婦を、病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も、妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」

「はい、誓うで」


おじが誓いの言葉を口にした時、結婚式会場の扉がバーンと勢いよく開いた。


「ぽよんインしたお!」


結婚式に乱入してきたのは、ぽよんだった。

式場に来ていたデュラチャ民たちが、「ぽよん?」や「うせやろw」とざわつき始める。


ぽよんは歩いておじと花嫁の前まで来ると、なにか紙切れのようなものを取り出した。

それは、かつてぽよんが――おじガチャを回し続けた先に引き当てたSRとSSRのガチャ券だった。


「あの日の約束を果たしに来たよ。おじの花嫁は貰っていくよ😃」


BAD END

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おじ小説短編集~デュラチャ最強おじ伝説~ ヌマルネコ @numaruneko

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