おじvs動物虐待Youtuber
「ウヒョヒョヒョ。やらせ動物レスキュー動画は儲かるゾイ」
底辺Youtuberのこの男は動物をあえて危険な目に晒して救出する自作自演の動画で荒稼ぎをしていた。
今回男は猫を海に投げ込み、溺れさせた上で救出する様子を撮影して、ユーチューブにアップするつもりなのだ。
「保護猫を使えば経費もタダだし、良い画が撮れるまで何回もやるゾイ」
男は以前にも動物レスキュー動画を投稿したことがあり、バズったことで味をしめていた。
彼は今回バズってチャンネル登録者が伸びればそのまま猫系Youtuberに転身しようとする打算も持っていたのだ。
「さあ子猫ちゃん、チャンネルの収益のため――行って来い!」
今まさに男が子猫を海に放り投げようとした時、その悪逆非道な行いをする腕を――太い腕がガシッと摑んだ。
「ヒョ?」
男が猫を落とさないように手に力を込め、後ろを振り返る。
そこには眉間にしわを寄せたおじが立っていた。
「その薄汚い手を子猫から離せ!」
おじの怒声が冬の海に響き渡る。
「この猫は俺が保健所から貰ってきて俺の所有物になったものだ。この猫をどうしようと俺の勝手だろ」
「そうか。じゃあ今日からおじがお前を飼うで」
「何を言って――」
「ふんっ!」
おじは男の胸ぐらを掴み上げると海へと投げ込んだ。
「わっぷ! 冷たっ! 何をする!」
男が必死に岸に戻ってこようともがき、手を伸ばした。
おじはその手を地面に転がっていたタモ網で付き、再び彼を海へと落とした。
「うわっ!」
「まだ撮影が終わってないねん」
おじはそう言うとスマホのカメラを起動し、男から少し距離を取った。
「まじか。やばいでやばいでやばいで。溺れてる人がおるで」
おじはわざとらしく棒読みで溺れている人を見つけた演技をすると、駆け寄って男が海で溺れている様子を撮影し始めた。
ひとしきり撮影した所で、男の手を掴み取り、岸に上がることを許す。
「ハァ……ハァ……」
「よしっ、OKや」
撮影が終わった瞬間、おじはラリアットで男を押し飛ばし、自分ごと海へダイブした。
「うわぁああああああっ!」
「ここからが本番やで」
逃げようとする男の腕をおじが掴んだ。
「お前はここで――溺れ死ぬ運命やったんや」
男の襟首を掴み、おじが彼を海へと沈める。
ブクブクと男の沈んだ顔の周りから泡が立っていく様をおじは眺めていた。
「プハァ!」
海面に引き上げられた男はゲホゲホと咳込み、なおもおじから逃れようとする。
おじは無理やり男を自分側に向き直させると、真剣な眼差しで語り始めた。
「海で溺れてるお前を助けられるのは、おじしかおらへん」
「ハァ……お前は……ハァ……何を言ってるんだ」
「選ぶんや」
その言葉を皮切りに、おじは再び男の首を鷲掴みにし、海面へと押し当てた。
「このまま溺れ死ぬか!? それとも、おじに救出されて飼われるか!?」
耳まで海水に浸かった男に聞こえるように、おじが大声で叫んだ。
男は腕を上下にバタつかせると、おじの肩に手が触れ、それを掴んだ。
おじはそれを見て、男の首元から手を離した。
「答えを聞くで」
男はおじの肩を支点に体勢を立て直すと、呼吸を整え言った。
「……わかった。飼われれるから命は助けてくれ」
「ええで。猫ちゃんには選択肢すら無かったんや。おじ、優しいやろ?」
「あ、あぁ……」
2人はずぶ濡れになりながらも、岸へと上がった。
男が事前にタオルをいっぱい用意していたので、2人はそれで濡れた身体を拭いた。
「おじの家は実家だからペットOKやし人が増えても問題あらへん。動物を飼うには好都合やで」
こうして、男はおじに拾われ、彼の家に飼われることになったのだ。
***
おじの部屋の中には、猫がいる。
「よしよし、美味いか?」
「ミャア~」
男が海に投げ捨てようとしていたあの猫だ。
おじの手によって無事保護され、今では立派な成猫になっていた。
おじはあの後、人が溺れている様子を撮った動画をまとめて、
『海で溺れている人がいたので助けてみました』
というタイトルでYoutubeに投稿したのだが、動画はおじの思惑とは裏腹に全く再生回数が伸びず、コメントもされないまま埋もれていった。
おじは床にあぐらをかいて座りながら餌を食べる猫の様子を眺めていた。
その様子は愛らしく、見た目が良くないと再生回数も伸びないものなのだと改めて感じさせられる。
そのうち、ふと思い出したようにおじが呟く。
「そうや。あいつにも餌やらんとな」
おじは床に手を付き、あぐらを崩して立ち上がると、部屋の襖に近づいていき開けた。
押し入れの中では、ゲージに入れられた男が怯えるような目でおじを見上げていた。
END
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