おじ開示請求

ある日、おじのスマホに知らない番号から、一本の電話がかかってきた。


「ひよこ鑑定士の正論おじぽよさんですか?」

「え?」

「ひよこの鑑定お願いしたいんですが……」

「イヤイヤイヤ。いきなり何を言うとんねん!?」

「あ、すみません。こちら正論おじぽよさんの電話番号ではなかったでしょうか」

「イヤッ! おじやけども!?」

「こちらに何か不手際ありましたら申し訳ありません……。ひよこの鑑定をお願いしたいんですけども」

「何やねん! ひよこの鑑定って」

「ひよこ鑑定士の正論おじぽよさんではなかったでしょうか?」

「イヤッ! 正論おじぽよの部分はあってるけども、どっから電話かけてきたん?」

「ひよこ鑑定士の電話番号でググったら出てきましたので、今回電話かけさせていただきました」

「誰やねん。そんなクソしょーもないイタズラしてる奴は!」


おじは怒りのあまりに、スマホを床に叩きつけた。

先ほどの通話の内容を頼りにGoogle検索を行うと、確かに1番上におじの電話番号が出てくる。

ページを開くと、確かに事業者の情報として「正論おじぽよ」という名前と、「ひよこ鑑定士」という業種が登録されていたのだ。


「ほんまにあるやんけ!」


おじは自分の個人情報を晒されたということで、フツフツと怒りが沸いてきた。


「誰がやったかわからんが絶対に許さへん。こいつは開示請求して特定したる! 裁判も起こすで。裁判所にも問答無用できてもらうからな。慰謝料の準備もしといてくれや! おまえらは犯罪者や! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしといてくれや!」


ハァハァとおじは息を切らすと、開示請求を行うために立ち上がった。


「アカン……。やけど開示請求のやり方が分からへん……。デュラチャで聞いてみるで」


おじはそういうとチャット部屋を立て、有識者の知識を募った。

そのうち自称法律に詳しいおじさんが現れ、開示請求について解説してくれた。


「2022年10月1日からプロバイダ責任制限法改正によって、開示請求の手続が簡単になったらしいぜ。

開示請求はログの保存期間が限られていることが多いから、スピードとの勝負だ」

「ほーん。じゃあどうやって手続きを進めるんや?」

「それは……弁護士にでも聞いてくれ」

「わかったで」


そして、おじは弁護士に連絡を取って、開示請求の手続を進めだしたのだ。



***



開示請求は滞りなく進んだ。

おじは電話番号を晒した相手の、氏名・住所・電話番号を入手することに成功した。

そして――。


おじは、特定した相手の家の前までやってきていた。


「ククク。奴の個人情報は全部手に入れたで……。あとは、デュラチャの誰なんやろかってだけや」


おじが相手の顔を拝もうと、リビングのガラスをこっそり覗き見た時である。


「あれ!? あいつは!!」


そこには見知った顔があったのだ。


「クク……。そういうことやったか」


おじは相手を特定した途端に、震えが止まらなくなってしまった。

震える指で、ディスコードから相手方のスマホに着信をかける。

ガラス越しに――着信を確認する相手の様子が見えた。


「確定や。まさかお前が晒しとったとはなぁ……」


おじは、邪悪な笑みを浮かべると、家の正面口に回ってた。

そして家のチャイムを押そうとした瞬間、何かに気づいたように、後ろを振り返って言った。


「あ、お前らはここまでや。正体が気になった人はおじに直接聞いてきてな」


END

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