膝屋オッジ

大阪の道頓堀。多くの人が道行く中、手にビラを持ち大声を張り上げている男がいた。


膝屋ひざややっとりますやで! お願いしまーす!」


道行く人のほとんどは、この人には関わっていけないと雰囲気で察して――誰一人ビラを受け取ろうとする人間はいなかった。


「おじが絶対責任を持って膝を入れたります!」


ビラには料金の他に、膝によって生じた――損害の一切の責任を取らないことが書き連ねられている。

おじの必死の呼びかけが功を奏したのか、一人の男性がビラを受け取った。


「おおきに!」


笑顔のおじと対称的に、男の表情は沈鬱だ。

男は、おじを一瞥すると口を開いた。


「膝を入れて欲しいやつがいる」

「どなたでしょう?」

「俺をだ」


男は、ぶっきらぼうに言う。

おじは依頼を受けて――悪人に膝を入れるつもりだったので、この提案には驚きの表情を浮かべた。


「ほんまに?」

「あぁ、俺は先日悪いことをしてしまってね。せめてもの罪滅ぼしで君に膝を入れてほしいんだ」

「そういう事ならわかりましたやで」


おじは、男から金を受け取ると、男に最終確認を取った。


「ほんまに、おじの膝入れてええんやな?」

「あぁ、いつでも来い」


おじは緊張の面持ちで、男の腹部に狙いを定めた。


「ほな、行くで」


そう言ってからおじは勢いよく膝を振り上げた。膝が当たった瞬間――男は絶叫した。


「いってぇえええええええええ! いてえよぉぉぉお!!!!!!!」


男は先ほどとは打って変わった態度で大声で叫ぶ。そして、手をバタバタと動かしながら地面に転がった。

大通りの人が、一斉におじ達を注目した。


「大丈夫か?」


おじは倒れた男に手を差し伸べるが、その手は振り払われた。


「大丈夫なわけねえだろ! 救急車と警察呼べ!」

「なっ! 話がチャウやん!」

「いてぇよぉおおおお!!!! 誰か警察呼んでぇええええ!!!!」


男は周りの人間が警察に通報しだした事を確認すると、すっと立ち上がり、おじに耳打ちした。


「残念だったな。俺は当たり屋だ」


BAD END

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