おじ推しマーク

「お前ら、おじの推しマークを作ったで」


ある日おじはどこで覚えてきたのか、突然おじリスナーに対し――推しマークなるものを導入しようと言い出した。

推しマークは主にVtuberやライバーの配信者の間で広まったもので、🐰や🐯 🌈 💎のような配信者独自の絵文字を決めておき――ファンの名前にそれを入れてもらうという文化だ。


「何いってんのおじ」


おじの真意が見えないリスナーは、なにかおぞましいものを見るような目でおじのことを見つめていた。


「お前ら、そもそも推しってわかるか?」

「推しくらい知ってるよ。気に入ってる人とか物でしょ」

「せや。お前らおじを推してくれや。推しじゃなくて、おじ担当でもええで」

「うわっ――嫌に決まってるじゃん」

「なんでやねん! おじはデュラのカリスマやねん! 推さなおかしいやろ!」

「何が悲しくて、何の華もないおっさんを推さなきゃならないんだ……」


執拗に推してくれと頼むおじに対して、リスナーたちは冷ややかな反応を示していた。おじはこのままではいけないと思ったのか、別の角度からアピールを始める。


「おじが本気出したらアイドル売りできるで」

「パン工場のアイドルなんでしょ」

「せや。おじはパン工場の社員の人に――『女以外でここまでみんなから人気があるバイトは初めて』って言われてるからお墨付きや」


リスナーは、それはお世辞だろと思ったが口を慎んで、話題を変える。


「で、肝心の推しマークは?」

「おじの推しマークは【🦵🦷】や。みんなの名前の後に入れたってな」

「誰が入れるんだよw」


おじの推しマークは膝と歯で構成されており――とても不吉な雰囲気を放っていた。

恐らくこのマークをつけた人間とは誰とも仲良くなりたがらないだろう。


「お前ら、おじの推しマークつけてくれや」


―― 。 さんが入室しました。

ちょうどおじがお願いしたタイミングで、いつもの連投荒らしが現れ、おじの部屋を荒らし始めた。


おじは慣れた手付きで、すぐに部屋から追い出す。

―― 。 さんの接続が切れました。


―― 🦵🦷 さんが入室しました。

「え?」


切断された後、荒らしは名前を――おじの推しマークに変え、再入室してきた。

荒らしは部屋に入ると、すぐにログを膝と歯の絵文字で埋め尽くし始めた。

🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷🦵🦷


―― 🦵🦷 さんの接続が切れました。


「何やねんこいつ! ほんま!」

―― おばぶ さんが入室しました。


「ちょっと! おじデュラが大変なことになってるよ!」

「どうしたんや、おばぶ」

「いいから部屋の外を見て!」


おじは、おばぶに言われた通りに、部屋の外を見て――その異様な光景を見た。


「なんやねんこれ!」


BAD END

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