Yay民にパパ扱いされるおじ
深夜2時。一般的な社会生活を営んでいる者たちが寝静まった頃――Yay!では、活力の有り余っている若者達が、他愛もない通話会議で盛り上がっていた。
そんな中、唐突に一人のおじさんが混入してきた。そう、我らがおじだ。
「あ、もしもし」
「もしもしw」
「すごい会社の電話みたいw」
おじの発した第一声から、異物感を感じ取ったYay民は一斉に――おじいじりを始めた。
おじはYayの中では『おぢひろ』という名前をつけていたので、
「おじヒーローw」
「仲良くしようパパw」
とYay民達はおじの名前に爆笑し、おじを早速――パパキャラとして見立て、受け入れつつあった。
しかしおじは、日本男児として礼節を重んじるので、そんな若者たちを冷たく突き放した。
「お前ら、おじを家族かなんかと勘違いしてへんか?」
おじは、お前らの陽キャノリに馴染むつもりは一切ないで――と言わんばかりに、心の壁を作ってしまったようだ。
「パパなんか怒ってる?w」
「おぢひろどうした?」
おじとの会話の温度感が合ってないのにも関わらず――話しかけ続けてくる若者たちに対し、次第におじは居心地の悪さを感じ始めたのか、
「う~ん」
と唸り始めた。
「おぢひろさん走ってますか?」
「泣いてるんじゃないw」
おじに対するいじりは止むことがなかった。そんな中で――おじはついに意を決したかのように、本心からの言葉を発したのだ。
「今悩んでる」
「何に対して悩んでる?」
「おじはな、お前らを消すように命令されてここに来てん」
「消すって何!」
「殺し屋やんw」
おじの奇人変人ぶりに対し、Yayの若者は大盛り上がりだった。
おじは自分の言葉がウケたことで、若者たちとの心の距離感も少し縮まり、饒舌に話し始めた。
「お前ら男は七瀬を狙ってるんやろ?」
七瀬というのはこの通話部屋の部屋主で――声が可愛く愛想が良いためモテモテの女子だ。
「狙ってないだろw」
「イヤッ! 狙ってるねん。でもええで。誰が誰を狙おうと自由や」
「俺は狙ってまーすw」
ほんでな、と前置きを置いておじは続ける、
「お前らさっきおじの事さんざんパパ、パパ言ったよな? そんな言うなら
――おじがお前らの本当のパパになったる」
おじの発言にYayの青少年達は震えあがった。動揺を隠せなかった彼らは一人一人と部屋から退室し――その姿を消していった。
ひとしきり男達が出て行った後に、おじの依頼主であるニトヒロは、
「おじ、ありがとう」
と、おじの仕事っぷりに感謝した。
「ええんや。おじは行くで」
こうして、おじは自分の仕事を果たし、Yayの世界から旅立っていったのだ。
***
「はぁ……なんだったんだよ。あのおっさん」
先程まで、七瀬の部屋でいい感じに話していたYay民の高校男子は、乱入して部屋を滅茶苦茶にしたおじに対して不満を漏らしていた。
「もう少しで七瀬ちゃんを落とせそうだったのに、パパみたいな年齢のやつがYayに来るんじゃね―よ」
男はスマホを充電器につなぐと、荒々しくベッド脇にスマホを放り投げ――ベッドの中に入った。
布団に潜り――男は目を閉じると、再びYayでの出来事を思い出していた。
『おじはな、お前らを消すように命令されてここに来てん』
改めて思い返すと――不気味なおじさんだった。男は一時でもおじのことをパパと呼んでしまったことを深く後悔した。
そもそもパパみたいな声はしていたけど、本当に子供がいるようなパパだったらYayなんてアプリやらないだろうし。おじに対する不信感は募りばかりであった。
「お前ネットでおじのことパパって言ったよな?」
「え?」
突如、耳元で見知らぬおじさんの声が聞こえた。
男が目を開けると、姿形ははっきり見えないが――真っ暗な自分の部屋の中に一人の異物が混ざり込んでいることに気づいた。
「今日からおじが、お前の本当のパパや」
END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます