おじYay!

「今日はおじ、イェイに女を探しに行くで」


ここ最近おじは友人に誘われたこともあって、Z世代に人気のYay!という――簡単に知らない人と通話できるアプリにハマっていた。


「今日こそ絶対に女を見つけたる」


普段から顔出しを推奨派のおじのYayプロフィールは、いい感じの自撮りが設定されており女子ウケは抜群だ。

おじは早速Yayで部屋を立て、参加者を募った。おじが部屋を立てた瞬間、すぐに一人のユーザーが入ってきた。


「おじガール!?」


入ってきた人は――おじガールという名前だ。おじの配信のリスナーなのか、明らかにおじを意識した名前をつけていた。

しかし、おじガールのアイコンの下にはマイクに斜線の入ったマーク――すなわちミュートアイコンがついており、おじと話す気はないようだ。


「おじガールは喋らないんか?」

「……」


そうしてるうちにマリアという名前の3人目の参加者が現れた。マリアは口元を隠して自撮りしている女性のアイコンをしていた。


「はぁ~結婚してぇ~」


部屋に入ってマリアが初めに発したのは挨拶ではなく、欲望なのか愚痴なのかよく分からない言葉だった。


「おじやで、よろしくな」

「おう」


女の態度に違和感を覚えつつも――おじは初めて自分の部屋に来てくれた女性を寛大な心で迎えることを決めた。


「マリアはいくつなん?」

「いくつぅ?」

「何歳なんや?」

「はぁ? おめえに関係ねえだろ」


気軽に年齢を聞いたおじは、予想外に攻撃的な反応をされ困惑する。

おじは――この女はアカンとようやく確信した。


「イヤッ! 関係なくはないやろ。何のための通話やねん」

「そういうのを聞ける間柄になってから聞くのがマナーだろ?  おめ~Yay始めて何年だよ? 毎回毎回テンプレ質問ばっか聞かれて――もううんざりなんだわ」


おじはマリアの言っている意味がよくわからず、首を捻る。


「チャウネン。おじはこのアプリ始めたてやねん」

「あ゛ぁ~~~~~~ん!?」

「なんやねんその反応。おじが初心者なんはガチやで」

「んだよ! はぁ~~~萎えるわぁ」


マリアは深くため息を吐くと、怒りの矛を収めた。

おじはマリアが怒っている理由が結局わからず、話題を変えることにした。


「マリアはどんな男が理想なんや?」

「はぁ? よくそんなこと聞けるな」

「ええやんか。おじに教えてくれへんか?」

「んーじゃあ、年収は500万以上で、身長は180以上でぇ~細マッチョでぇ~性格がドMのイケメン! 自分で言ってて虚しくなってきたわ。そんな男この世にいるか?」

「それ、おじやん」


おじはキメ顔でそう言った。


「は?」

「いや、だから、おじやん?」

「………………」


マリアが完全に黙ってしまい、おじは焦る。


「ちょ――なんで黙るんや!」


マリアは再び大きなため息を突くと、おじに悲しい現実を突きつけた、


「おめ~みたいなネットで女漁ってるキモいおっさんがあたしの理想の男なわけねぇだろ!」


マリアのその言葉に、今度はおじが衝撃を受ける番だった。


「お前ら――ほんっま! おじのなんにも分かっとらん!」


え? お前ら? と、困惑するマリアを押しのけて、おじの反撃が始まった。


「おじはな、女を漁りたいわけじゃないねん。エエか? おじの趣味は人間観察やねん!」

「んだそれ! おめ~は変態か!?」

「変態やない、おじより紳士的な男なんてそうそういないで? おじはな、まずお前らとは住んでる世界が違うねん」

「うちは日本に住んでまーす。おめーはどこに住んでんだよ!? ホビットの村にでも住んでんのかオッサン!」


おじは予想外の返答に対し、真面目に自分がどこの世界に住んでいるのかを考え始めた。


「おじが住んでるのは――アツシやホリエモンの世界観やな」

「ハァ? それ日本だろ!」

「チャウネン。おじが言いたいのは――」

「あ゛ぁ゛!゛?゛」

「も、もうええわ。マリア、おじに嫉妬するのはやめようや」

「おめーのどこに嫉妬する要素あんだよ! だいたいお前のアイコン――」


マリアの言葉が言い終わる前に、おじはマリアを切断した。


「嫉妬や。おじが高嶺の花だから嫉妬してるんやろ……おじが間違ってるんか?」


おじは虚空に向かって問いを投げた。


「いいえ、おじは正しいです」


返答を期待していなかったおじだが、部屋が2人になったからか――おじガールが初めておじに声をかけてきた。


「おじガール。お前がおじの唯一の理解者や。あと、声かわいいやん」

「ありがとうございます♪ おじの声もかっこいいです」

「お、おじガールたそ(;´Д`)ハァハァ」


おじは鼻の下を伸ばすとおじガールのアイコンを連打しプロフィールを開いて、舐めるようにそれを見た。


「おじガールも大阪に住んでるのか?」

「大阪住んでますよ。いつかおじが焼いたパンが食べたいな♪」

「まかせとき」


その後、2人は会話が盛り上がり、お互いにフォロワー登録してその日は終わったのだ。



***


あれから3年が過ぎた。

おじガールはあれから一度も姿を現していないが、おじはあれからYayで毎日かかすことなく女漁りを続けていた。


「もしもし。おじガールはおるか?」


おじが部屋に入って発言すると、部屋の中で会話していた男女がおじの言葉に反応した。


「うわ出たっ。おぢひろじゃん」

「知ってるの?」

「yayのあたおかとして有名な人だよ」

「やばいん?」

「やばいから切っときw」


おじは次の言葉を発する前に、切断され部屋から追い出されてしまった。

再び部屋に入ろうとしたおじは、自身がブロックされているのに気づく。


「アカン、こいつらもおじに嫉妬してるわ」


おじはめげずにおじガールを探すため――次の部屋に突入する。


「もしもし。おじガールはおるか?」


BAD END

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