こすいと低評価付けられたおじは転売ヤーに報復する
『最悪です。
新品未開封と記載しながら開封済みの商品を送り付けてきました。取引連絡を入れても自分の非を認めないばかりか返品対応にも応じない。
自分の利益しか考えない大阪人らしいこすい出品者でした』
ついにおじが恐れていたことが起きた。
「なんやねんこれ!」
PayPayフリマに『悪い』の評価をつけられてしまったのだ。
数日前、おじは転売用に安く買ったカメラのレンズをPayPayフリマに出品し売り抜けることに成功していた。
しかし『シールが貼ってない! 開封済みだから返品しろ』という購入者からのクレームを拒否し続けていた所、こういう結末となったのだ。
「なにが『大阪人らしいこすい出品者』やねん! 大阪関係ないやろうがああああ!!!!!!!!」
おじの怒りはおさまらなかった。
「この転売ヤーだけは絶対に許さへん。絶対に特定して懲らしめたる」
転売ヤーには得意なジャンルというものがある。商品を仕入れる時に安い商品を闇雲に探すのは現実的ではない。
ジャンルを決めておけば商品を探しやすく、相場価格も記憶しておきやすい。なので必然的に多くの転売ヤーは偏ったジャンルの中で商品を探すことになる。
「こいつ同じ商品ばっか取り扱ってるから、別垢で同じ商品安めに出品したら釣れるやろ」
そしておじの復讐劇が始まったのだ。
***
ピンポーン。
ある郊外のアパートの一室、その部屋のチャイムが鳴らされた。
ワンルームの部屋に住んでるのは一人。その世帯主である男が、おじに低評価を付けた転売ヤーその人であった。
彼はいつもの宅配が来たのだろうと思って家のドアを開けた。
「こじ」
ドアの前に立っていたのはおじだった。男はおじが発する挨拶を挨拶と認識できなかった。
しかし、おじの風貌から受ける雰囲気が――おじを
ガッと鈍い衝撃が男の手に伝わった。ドアが完全に閉まらない。男がドアの下部を見るとおじが隙間に足を入れている様子が見て取れた。
「何だお前!?」
困惑する男がようやく発した一言は何の意味も持たず、
バァン! とドアが力任せに開かれた。
「どうも~。大阪人らしいこすい出品者やで」
その言葉をもって転売ヤーは、目の前の男が誰なのかにようやく気づいた。
「お前、こんなことしてただで済むと思ってるのか! だいたい何でうちの住所知ってんだよ!」
「特定したんや」
おじは真顔でさらに男に詰め寄る。
「おい! それ以上踏み込んだら住居侵入で警察呼ぶぞ!」
「呼べるわけ無いやん」
「脅しじゃないぞ! 本当に呼ぶからな!」
「脅しとか脅さないとかじゃないねん」
おじは家の敷居をまたぎ、男に向かって手を伸ばした――。
「お前は二度と喋れへんくなるんや」
おじと男は揉み合いになり、玄関から居住空間へと移動する。
男の足が机に引っかかり、おじが男を机の上に押し倒す形になった。
男の部屋はワンルームだったが、所狭しとダンボールが積み上げられており、足を踏み入れるスペースは殆どない。
「なんや。クソ狭い部屋やな。実家のおじの部屋の方がまだ広いで」
「がっ……! この犯罪者が!」
勝負あったかと思っていたが、男は足をジタバタと動かす余裕があったようだ。
男の膝蹴りを何度か食らったおじは、一旦立ち上がり後ろに引いた。
「ハァ……ハァ……」
「どしたん? 警察に通報するんじゃないんか?」
警察に通報するにはスマホを拾い上げて操作する必要あるが、そんな猶予を与えないと言わんばかりに、おじが両手を上げて挑発した。
男も体勢を立て直し、立ち上がっておじを睨みつける。
おじの方は余裕なのか部屋をキョロキョロ見回すと何かに気づいたようだ。
「お、それ。おじが送った商品あるやん」
部屋の隅には、同じ型番のカメラのレンズの外箱がいくつも積み上げられている。
おじはどうやって判断したのか、そのうちの1つを指差すと、自分が送った商品であると断定したのだ。
「なんでお前の商品って分かるんだよ」
男が問い詰めるように言うと、おじは積み上げられていた外箱を無造作に倒す。
地面に散らばった箱をおじが蹴り飛ばすと、箱の中から小さい黒い箱のようなものが出てきた。
おじはしゃがみ込むと、それを拾い上げ、男に見せつけた。
「GPSや。おじの商品を2回も買うてくれてありがとうな。たっぷりお礼したるで」
男は自分が買った商品の中に、まさかそんなものが入ってるとは信じられず恐怖に凍りついた。
「お前……頭おかしいんじゃないのか」
「おじはな、『悪い』の評価つけられた時――心に決めたねん。何があっても絶対こいつだけは許さへんってな」
おじは一呼吸置くと腕を構え再び男の元へとにじり寄っていった。
「報いを受けろ、転売屋ァ!」
おじがそう叫んだ瞬間、男の方に向かって急に動き出した。
男はこれまでのやり取りで流石に学習したようで――反射的に身構え、おじが繰り出すであろう攻撃に備えた。
おじの拳が男に向かって飛んできた瞬間、男も腕を上げそれに応じるように防御する。
「レビューの威勢はどうしたんや! お前だって! どうせおじの商品すり替えるつもりだったんやろ!」
「ねえよ! 被害妄想も甚だしいぞ!」
男もおじの隙を見て攻撃を加えようと試みる。
蹴り、掴み、それぞれが技を繰り出す中、周囲の外箱は倒れ、商品は散らばりながらも、彼らは激しい戦いを繰り広げていた。
そのうち男は、部屋の中に転がっていた硬そうなヘルメットを手に取った。
おじは相手が凶器を手にしたことを感じ取ると、少し距離を取った。
そして服のポケットに手を突っ込むと、何かを取り出し、部屋にばらまいた。
おじがばらまいたのはポケカのパックだった。
転売ヤーの性質上、彼はポケカから目を離すことができなくなってしまう。
「ふんっ!」
おじの強烈なボディーブローが隙だらけの男の脇腹に突き刺さった。
「がはっ……!」
男はそのまま大きな音を立てて地面に倒れ込む。
「おじを転売の餌食にしようとしたことが運の尽きやったな」
おじはとどめを刺すために、ググッと膝に力を込め始めた。
「わかったわかった! 運営に頼んで『悪い』の評価は消してもらう!
お互い『良い』の評価を付けあおう!」
「それだけか?」
「こすい出品者扱いしたのも謝る! すまんかった!」
「それだけか?」
「他に何があるっていうんだよ!」
「二度と『悪い』転売したらアカンで」
「転売はお前もやってるじゃないか」
男が口答えしたと見るな否や、おじは男の顔へと膝を強く押し付け、唾を撒き散らしながら叫び始めた。
「おじがやってるのは『良い』転売だ! わかったか!?」
「わかった! 転売も辞める! だから許してくれ!」
「おじの頼みも聞いてくれるか?」
「聞きますから!」
おじは膝を納めるとニヤリと笑って言った。
「おじローション100個お買い上げありがとうございますやで」
こうして、おじのアカウントに『良い』の評価がいっぱい増えたそうです。
END
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