おじカリスマ

「おじな、カリスマあるねん」


ある日、いつものようにおじは自画自賛を始めた。


「カリスマって何?」


納豆ご飯丸はそんなおじに対して興味深そうに尋ねた。


「わからんか納豆。カリスマて、ようはなんかええ感じやいうこと」

「ふーん」

「人を惹きつける何かやろな」

「人を集めるだけなら客寄せパンダでもできるぞ」

「もしパンダがうんこ投げてきたとしても人が集まると思うか?パンダに人が集まるのにも理由があんねん」


おじは急にうんこの話を始めると、いまいち的を得ない反論を返した。


「パンダもおじも物珍しいからみんな見に来てるだけだろ」


納豆の意見に対し、おじは大げさに首をカクカクさせながら大声を出した、


「チャウ!」


「月の石が展示品として成り立つのも珍しいからだよね。そこらへんの川原の石集めたとして誰も集まらないよね」

「納豆。カリスマあるおじに嫉妬してんのやろ?」


おじは急に真顔になるといつもの決め台詞を繰り出した。


「俺の話ちゃんと聞いてた?どこにカリスマあんねん」

「おじが部屋立てたら人集まるで。納豆が部屋立てても人集まらんやろ」


と、おじは自信満々に答えた。


「俺が部屋立てても普通に集まるぞ。しかも人集まるだけでカリスマあるんなら部屋主みんなカリスマあるじゃん」

「でも桜井が部屋立てても誰も集まらんで?」

「桜井はカリスマとか以前に色々ないだろ」

「納豆、お前が桜井の悪口言ったらアカン」

「お前が桜井言い始めたんじゃんw」


納豆ご飯丸が軽口を叩くと、おじは深い哲理を持ったような口調で続けた、


「確かに桜井の部屋は誰も来いひん。でもそれでええねん。なんでかわかるか?」

「知らん」


あっさりと納豆ご飯丸が回答する。


「誰にも迷惑かけてないからや。納豆。お前はおじの部屋来て誹謗中傷する。どっちが悪い?」


おじは真剣な眼差しで納豆ご飯丸に尋ねた。


「俺は相手から言われない限りは誹謗中傷しないんだけどなあ」

「ここはおじの部屋やねん。おじの部屋に土足で上がり込んでる以上は、おじから何言われてもおじに誹謗中傷したらアカン」


おじの言葉には厳粛さが漂っていた。


「勝手にデュラチャに縄張り作るなよ」

「これがカリスマの正体やで」

「ん?」

「他の人におじの魂から生じたルールを適用させるのがカリスマの正体や」

「ただの面倒くさいおっさんやん」


おじの結論を納豆ご飯丸は一蹴した。


「カリスマある人思い浮かべてみ?だいたい面倒くさいおっさんやろ」

「面倒くさいと言うか芯がしっかりして曲がらない人って感じだな」

「おじは面倒くさいおっさんや」

「違いない」


と、納豆はニヒルな笑みを浮かべた。二人の間には、深い理解と共感が流れるように広がっていた。


「でも面倒くさいからこそ世にいいものを届けることができるんやな。そうジョブズのように」


おじの馬鹿馬鹿しい話に対し、納豆はおじに喝を入れる、


「おじが世に何を届けてるんだ。早くパンを焼け!」


しかし、そんな納豆の激励を流しておじは続ける、


「おじがジョブズでこの部屋がアイフォーンだったとするで?」

「何やその意味わからん例え」

「おじはこの部屋を完璧にしたいねん。そこにはオマエラヤンが混入してはならん」

「オマエラヤン?」


オマエラヤンはおじアンチの謎の集団だ。ここでは不純物の意味で使われている。


「納豆はオマエラヤンの看板背負ってるで」

「俺に勝手に変なもの背負わせないで」

「おじのカリスマ高める方法思い付いたで」

「何?」


おじは突然何か良い案を閃いたとばかりに話題を変えた。納豆ご飯丸は興味津々でそれに食いつく。しかし、おじが考え出した案は、案の定トチ狂ったものだった――。


「おじのローションをブランド化してみんなに食べさすわ」

「え、本気で言ってる?」

「ローションの原料は海藻かいそうなんや。食べても健康に問題あらへん」

「そういう問題じゃなくね?」

「おじは行くで」


こうなってしまったおじはもう誰にも止められない。チャットの面々はおじがこれ以上問題を起こさないように祈るしかなかった。



***



大阪ニュースです。今日、自らをおじと名乗る37歳の男性が、公共の場で無理やり女性にローションを飲ませようとし、暴行罪で現行犯逮捕されました。


犯人は逮捕される際に「おじのカリスマに嫉妬すな!」などと意味不明の供述をしており動機は未だ不明です。


幸い、近くにいた市民がすぐに駆けつけ犯人を取り押さえ、被害者は無傷でした。


警察は男を逮捕し現在は取り調べ中です。事件の詳細な調査を進めています。


BAD END

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