おじ家最後の食卓

ここは大阪にあるおじ家の食卓。


「……」


黙々とお母さんの作った手料理を食べている男がおじだ。


「あんたそろそろ、パン工場なんか辞めて資格の一つでも取ったらどう?」


おじママがおじに嫌味ったらしく言った。


おじはご飯茶碗を食卓の上に置くと、母親の方をまっすぐ見つめ口を開いた、


「パン工場……?」


「そうよ。パン工場なんて底辺がやる仕事でしょ」


「ハァハァ……?」


「底辺よ。うちの家系でパン工場で働いてる人なんていないわよ。お母さん親戚に合わせる顔がないわ」


「パンを舐めるな!」


おじは食卓をドンと叩くと勢いよく立ち上がった。


するとおじママもすっと立ち上がり、おじに歩み寄ると、

パシーン!とおじの頬をビンタし、


「人生を舐めるな!」


とキレ返してきた。おじママは続けて、


「あんたいい年して実家ぐらしでバイトでお母さん恥ずかしいわ。資格でも取らな嫁の一人もできないわよ!」


「え?おじが実家住むんはオカンがこの家から出ていくなって……。そんな言うならおじ家出てくで?」


「このっ親不孝者!」


パシーン!おじの頬が再び打たれた。


「堪忍……堪忍や……」


打たれた頬をさすりながら膝を抱えて丸くなってしまったおじに対して、


「パン工場やめろ!インターネットやめろ!」


と、おじママが叫んだ。


「インターネット辞めたら寂しくて死んでまう」


「あんたは定職ついてお母さんの面倒見とけばいいのよ!」


おじはよろけながらもゆっくりと立ち上がり、語り始めた。


「おじは辞めへんで。おじ気づいたんや。オカンこそオマエラヤンやったんや」


「何言ってるの?あんたが30後半なってもフラフラして心配だから言ってるのよ!」


「おじはホリエモンみたいなタイプだから小市民の気持ちは分からへん。おじの魂わからへん子は全員ヤンや!」


「ホリエモンは20代で起業して30歳には会社上場させてたでしょうが!」


「イヤッおじは魂の話を――」


ピンポーン。その時おじの家の呼び鈴がなった。


「来たみたいね」


「なんや?」


おじママが玄関の扉を開けるとキャップ帽を被った一人の男が現れた。


「どうも引き出し屋でーす」


「こちらが愚息になります。後のことはよろしくお願いします」


おじママは引き出し屋を名乗る男に一礼すると席を外した。


「何やねんお前!」


玄関でおじと引き出し屋だけが対峙するような形になる。


「俺は引きこもりや高齢ニートの自立支援を行う者だ。おじくん。もうこれ以上お母さんに迷惑かけるのは辞めようや」


「チャウチャウ!オカンが家から出るなって言うんや!」


「おじくんは今からこの家を出て"愛の家"で資格の勉強をするんだ。そして資格を取ったら俺の知り合いがやってるアットホームな会社に就職する。生活が安定したらまたお母さんにも会えるようになる」


「何勝手に決めてんねん!おじはイヤやで!」


「イヤイヤ期は3歳で済ませておけ」


引き出し屋はおじの肩に手をかけると、無理やり身体を引っ張った。


「イヤッ!イヤッ!」


こうしておじは"愛の家"へ強制連行されたのであった。



BAD END

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