おじ第二夫人

「のーねーむ。おじの第二夫人になってくれ」


おじのチャット部屋では最近おじの本命であるおばぶが中々現れないこともあり、次のおじの嫁候補探しが行われていた。


そんな中、白羽の矢が立てられたのがnonameという女性だった。


「……」


nonameはおじの馬鹿みたいなプロポーズに答えることはなかった。


「のーねーむはなぜ人を信じられないんや」


「信じるって何」


いったん結婚は置いておき、おじが別の質問をするとnonameが反応した。


「人が言うことを疑わずに素直に受け取ることやな」


「私は正確に物事を見てるだけだと思うけど」


「イヤッ!のーねーむは疑い過ぎや」


「だってデュラチャって学歴とか年収とか詐称してる人多いし」


nonameもおじと同じく嘘マウントしてくるチャット民に辟易していたのだ。


「おじの学歴は本物やで?最初から疑うんじゃなくて、そいつが嘘つきって分かってから疑うようにすればええねん」


「疑われるようなことわざわざ言うからだよ」


「のーねーむ。素直になれ、人を信じるのが怖いんやろ?」


「別に怖くはないけど」


「じゃあ、なんで誰も人を信じないんや?」


「……」


「おじは分かるで。誰かを信じて悲しい思いをしたくないんやろ」


「そんなことない」


「イヤッ、おじは相手の魂を見れば全部分かるねん。のーねーむの魂が何色かわかるか?」


「知らない」


「ドブ色や」


周囲からは「おじ最低」「第二夫人に暴言止めなよ」とおじへの批判の声が上がったが、おじは周りを制し言った。


「のーねーむの魂も元は綺麗な色をしてたんや。誰かを信じて裏切られてきたからこんなことになってん」


「私は裏切られたことはない」


「のーねーむ、もう自分をごまかすのはやめようや。心に蓋をしても何もいい事ないで」


「……」


黙り込んでしまったnonameに対しおじは更に続ける。


「のーねーむは人を信じたくないんやなくて、自分自身を信じられないだけなんや。だからな」


おじはもったいぶって間を開けると、


「おじがのーねーむのことを信じるで」


キメ顔でそう言った。それに対するnonameの反応は、


「きっつ」


と、おじに対する嫌悪感が現れていた。


「なんでや?」


おじは自分ではいいこと言っていると思って発言していたが、現実はそうではなかったようだ。


「言っとくけどおじに対しては信じるとか信じないとか以前の話だから」


「エッ?どゆことや?」


「デュラチャやってるって時点で厳しいのに、すぐヘルスだのマットプレイだの下世話な話をしだす男性はお断り」


「のーねーむは処女か?」


nonameはもはや呆れて物が言えない状態になっていた。おじに対する好感度は地の果てまで下がっている。


「おじはこんな場所じゃなくて結婚相談所にでも行くべきだよ」


「30代後半でパン工場パートの男でもお見合いできるか?」


「……」


「のーねーむ。なんか言わなあかんで」


「ごめん」


nonameは自分がおじに残酷な現実を突きつけてしまったことに気付き、素直に謝った。


「のーねーむ。おじと結婚して第二夫人になってくれい」


「絶対嫌」


「おじはもう後が無いねん。のーねーむは彼氏とかいないやんな。おじのここ空いてるで」


「……」


nonameはおじの隣に立ちたいという気持ちはないようだ。


おじは結局おばぶかひめかの究極の二択にも答えに出せずに居たのだ。


「のーねーむ。じゃあ公認会計士の資格取ったら結婚してくれるか?」


「嫌だって言ってるじゃん。私と結婚したいなら弁護士の資格でも取ってきなよ」


その言葉におじは――ぱっとnonameの顔を見上げると、


「弁護士の資格取ったらいいんやな!?わかったおじ弁護士になるで」


と歓喜の声をあげ、かすかな希望を見出したのであった。



***



次の日。おじはキャスで『おーねーむ弁護士になりました』というタイトルの配信を始めた。


「みんな、見てくれや」


おじは自慢げに言うと胸につけた弁護士バッジを指さした。


「おじな、弁護士になったで」


しかしよくよく見るとそれは段ボールで作られた偽造弁護士バッジだった。


「そのバッジ偽物じゃん」


配信を見ていたnonameが言った。


「本物やで。のーねーむ、簡単に人を疑ったらアカン。偽物だっていう証拠があるんか?」


おじはお粗末なバッジが画角に入らないように懸命に身体をひねっている。


「法科大学院出てないおじはまず予備試験に合格しないとそもそも司法試験すら受けられないから」


「のーねーむ、おじの弁護士バッジを舐めるなや」


おじはそう言うとぺろりと弁護士バッジを舐めた。


「何してるのおじ」


「うっ」


突如おじは苦しみ始めた。


「どうしたの?」


「アカン気分悪くなってきた。ローション入れてたダンボールで作ったバッジ舐めたからや」


「やっぱ偽物なんじゃん」


おじは吐き気を堪えながら配信を続けていた。


「のーねーむ。おじを弁護士として認めてく……おろろろろろろ」


「……」


―― noname さんが退室しました。


こうしておじはnonameにも振られてしまったのであった。


BAD END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る