おじが競馬で全財産溶かす話

「みんな働きたくないのに働くのなぜなぜ?」


おじが配信で発したその一言はリスナーのみんなを凍りつかせた。


「おじさぁ、もしかして乗ろうとしてる?なぁぜなぁぜ?のブームに」


チャットで配信を見ているリスナーが見透かしたように言った。


「……」


おじは痛いところを疲れたのか急に真顔になって黙ってしまう。


「なぜなぜ?じゃなくてなぁぜなぁぜだよ」


nonameがおじに正しい言葉の使い方を指摘すると、


「みんな働きたくないのに働くのなぁぜなぁぜ?」


改めてカメラに向かってムカつく表情で復唱した。


「生活のためだよ」


nonameが答えるとおじは首をひねりながら、


「イヤッ、おじにはわからへんな」


となぁぜなぁぜアピールを続けるのであった。


「おじも今の仕事辞めたら食べていけないんじゃないの」


「イヤッ、おじにはせどりもあるし家もある。食いっぱぐれることはないで」


「じゃあ家も貯金もなくなって、毎月家賃と光熱費と水道代と通信費と食費を払わなきゃいけなくなったら?」


「……」


考え込む様子を見せるおじ。


「そうなったらnoname。養ってくれ」


「いやだよ」


「おじを養うの嫌なのなぁぜなぁぜ?」


配信ではおじが相変わらずムカつく表情でティックトッカーの真似事をしていた。


「おじを養うメリットがない」


「メリットならあるで」


「ないよ」


おじはnonameに否定されても負けずに続ける、


「おじは金の卵を産むニワトリや」


「おじは今まで金の卵を一つも産んだことがないのに自分が金の卵を産むと思ってるのはなぁぜなぁぜ?」


nonameはおじの真似をはさんで皮肉ることで高度な煽りを放った。

おじは暫くの間、口を慎むと話題を変えた、


「ノーネーム。老後2000万貯金するくらいなら、おじに投資せい」


「投資ならもうやってるよ」


「チャウ。S&P500なんて買ったって儲からないやろ。おじに預けたほうがよっぽどリターンあるで」


「そこまで言うなら……」


おじの度重なる熱意に負けてしまったのか、ついにnonameは半ば強制的におじに投資することが決まってしまった。


「おじを信じるやで」


カメラに向かってガッツポーズするおじの笑顔を見て、多くのリスナーは不穏なものを感じるのであった。



***



翌日。


「ふう。やっぱり飛田新地のお店は最高やな」


おじはnonameから振り込まれたお金で早速朝っぱらから豪遊していた。


しかしお店帰りに一人でとぼとぼ歩いてるおじは唐突に不安を感じ始める。


「アカン金が減ってもた……」


おじはnonameの前でイキった手前、お金を増やして返さなければという気持ちで焦っていた。


その時、おじに電流走る。


「せや、種銭があるんだから競馬で増やせばええねん!」


天からのひらめきを得たおじは競馬場へ向かったのであった。



***



「おじはな、人を見る目だけじゃなくて馬を見る目もあんねん」


競馬場に到着したおじは、馬を眺めていた。おじの心はワクワクと高まり、新たな可能性への賭けに胸を膨らませた。


その中で、ある一頭の馬がおじの目に止まる。


「あいつや、あの馬で勝負や!ええとオッズは10倍か。のーねーむから1000万貰って2万使ったから全部突っ込めば9980万円!?」


おじは一気にテンションが上がり、nonameの老後資金2000万分を返したとしても、ほぼ8000万が手に入るのだと胸躍った。


「おじに投資すれば勝てるのにしないのなぁぜなぁぜ?」


おじはウキウキでひたすら馬券を買う機械にお金を入れていく。


「5番ウマエラヤンに998万全賭けや!」


こうしておじの夢を託した馬券が発行された。




***



しばらくしておじが全財産を賭けたレースが始まった。


「きばってけや!ウマエラヤン!」


おじの必死の声援虚しく、ウマエラヤンはどんどんと他の馬から引き離されていきあっという間に最後尾になった。


「アカンアカンアカン!勝負はここからや!」


おじは鬼の形相で馬が走る様子を眺めるが、先頭を走る馬とウマエラヤンの差は開くばかりだ。


「なにやってんねん!」


おじの心は折れかけ、馬券を握りしめる。おじにできることは力の限り叫ぶことのみだ。


「頼むウマエラヤン!おじの人生かかっとんのや!」


おじの祈りが通じたのか、流れが変わる。


ウマエラヤンは急にスピードを上げ、他の馬を追い上げてきたのだ。


「いいぞウマエラヤン!その調子や!」


レース終盤、ついには2番手まで順位を押し上げ、先頭の馬に迫る。


「うぉぉぉぉぉ!」


会場の声援にも熱気がこもった。


「おっとここでウマエラヤンに何か起こったようです!」


突然、実況が不穏なことを言い出した。


「ああっと!ウマエラヤンがバランスを崩し転倒してしまったぁ!」


「ウマエラヤーーーーーーーン!!!!!!!」


おじが悲鳴ともつかない叫び声をあげるが、ウマエラヤンの最下位は確定だ。


「……」


おじは言葉を失いただ呆然とした。


「イヤッ!イヤッ!」


現実を受け入れられないおじの自我は崩壊し、ちいおじになった。


そしておじの元にはnonameへの多額の借金だけが残ったのであった。



BAD END

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