おじる~OZIRU~

「ふう、ついに究極のローションが完成したで」


これまで、おじは毎日来る日も来る日も狭い自分の部屋の中で一心不乱にローションをかき混ぜていた。ついにそれが報われる時が来たのだ。


メルカリで運営に怒られながらもペペローションを売ること苦節1年。おじはついに念願のおじオリジナルローションを完成させたのであった。


「早速デュラのみんなに報告せなあかん」



***



「みんな見てくれや。おじのオジリナルローションができたで」


おじはチャットで部屋に人を集めると、おもむろにPayPayフリマの商品URLを貼った。


PayPayフリマのサイトを見ると、そこには『おじる~OZIRU~』という商品名のローションが表示されていたのだった。


商品説明画像欄では『生産したのはこの人です』というメッセージとともに、おじが腕を組みをして立っている写真もついており、おじがこのブランドに人生を賭けている様が感じられた。


「汚汁w」「くさそう」「誰得なんだよ!」


OZIRUに対して、チャットには辛辣なコメントが書き込まれていった。


「まぁみんな待ちぃや。おじの話を聞いてくれ」


しかし、おじは怯むことなく営業をかけていく、


「今、お前らが言っていた通り、この商品に一見抵抗あるのはおじが一番よくわかってる。やけどな、品質はピカイチやねん。お前らも騙されたと思って買ってくれへんか?」


おじが言った後、チャットには沈黙が流れた。買うと言う人はいないようだ。


「……お前ら、沈黙は肯定やからな?わかったわ、じゃあ初回特典サービスとして全デュラチャ民に無料でローション配ったる」


「どうやって?」


「デュラチャにはな、表の部屋リストに出てこない深層デュラララチャットっちゅうのが存在するねん。そこでな、デュラ民の住所リスト持ってるやつがおるんや。それ見て配る。おじ配や」


「こわ……」


こうして、『おじる~OZIRU~』がみんなの元へ届けられることが決まった。



***



「踊ってない夜を知らない♪」


いちデュラチャユーザーのまめちゃんが歌いながら夜仕事から帰ってくると、家のドアの前に不審な細長い筒状の物体が置かれているのを発見した。


「なにこれ……」


まめちゃんが近づいてそれをよく見ると『おじる~OZIRU~』の文字とともに死んだ目をした髭の男の写真が貼られていたのだ。


まめちゃんは恐怖を感じ小さく悲鳴を上げると、


「警察に通報しなきゃ」


と震え声で言い残し、家の中へと消えていった。



***



2日後。おじが全国各地のデュラ民の家の前に設置したOZIRUは、その異様な見た目と目的の見えない底知れなさからニュースとなってお茶の間を騒がせていた。


テレビでは有識者たちが考察に考察を重ね、このローションは「新興企業のプロモーション」だの「カルト宗教の儀式」だの「汚染水放出への抗議活動」など様々な推測がなされた。


「どれも不正解や。みんな、これがなんなんかわからへんみたいやな」


そんな報道をおじは家でほくそ笑みながら眺めていたのだ。


「えー番組の途中ですが、OZIRUと書かれた謎の液体について速報が入りました。大阪府警の科捜研によりますと、これはただのローションで危険な物質ではないということです」


やて?」


おじはニュースキャスターの説明に気に入らなかったのか、


「こいつらほんま何もわかっとらん!これはローションであってローションやないんや!」


と、激昂して言った。そしておもむろにスマホを取り出すと、テレビ局にクレームの電話をかけ始めた。


「あ、もしもし?さっきニュースでOZIRUがただのローションって言っとったけど、ちゃうからな。ほんまにお前ら何もわかっとらんな。あれはOZIRUゆうて、ローションの歴史を変えるイチモツやねんからな」


「あなたがこのローションを設置した犯人ということですか?」


「しまったぁあああああああ!!!」


おじは焦ってすぐに電話を切ると、自分の口を手で塞いだ。しかし、もう遅い。テレビ局には、おじの電話番号とおじがローションの製造者という情報が出回ってしまったのだった。


「もうこれあかんな……」


おじはスマホを机の上に放り投げると、諦めたかのようにため息をつきながら天井を仰いだ。するとその時である、テレビから突然緊急ニュースが流れてきたのだ!


テレビには岸田総理が大勢のマスコミに囲まれながら演台に立っていた。


「えー国民の皆様、おはようございます。突然ですが、これをご覧いただきたい」


そして岸田総理は、テレビの画面上に『国家非常事態宣言』というテロップを表示させた。


「昨今ニュースで世間を騒がせている『おじる~OZIRU~』ですが、危険な物資でないというのは誤りです。私共が慎重に慎重を重ね検討を重ねました結果、新手の無差別テロであることが判明した次第であります」


「なんやて!?」


「えー、内閣情報調査室によりますと、OZIRUはアダルトグッズに偽装した、人間の嫉妬感情を増幅する生物兵器であることが判明いたしました。緊張感を持って対応するため、私、岸田はこれを持って国家非常事態宣言を発令いたします」


「……」


おじは呆然としてテレビを眺めていた。


「アカン。岸田もおじのローションに嫉妬しておかしくなってしまったんや」


おじは、自分のローションが認められない悔しさから拳を固めると、テレビに向かってそれを振るった。


「岸田!岸田!岸田!」


おじのパンチによってテレビは破壊され画面は真っ暗になった。しかし、いくら殴っても事態は変わっていない。おじはテレビを殴ることをやめ、また力なく天井を仰いだ。


「もうあかんわ……おじのローションに嫉妬した岸田が国家非常事態宣言なんて出すから、おじの人生もこれまでや」


おじはこれまでの自分の人生を振り返っていた。おじは真面目に世のため人のために生きてきたつもりなのだ。それなのにこんな仕打ちを受けるなんておじは許せなかった。


「最後にでかい花火咲かせたる」


おじは拳を固め、決意を新たにすると押入れから大量のOZIRUを取り出した。


「おじは今からOZIRUをロケットに載せて空に打ち上げる。OZIRUは上空から降り注ぐことになる。そしたら、国家非常事態宣言もなんの意味もない。お前らがおじのローションに嫉妬して変なケチつけてるだけだって証明できるはずや」


おじは準備のために深層デュラチャへ接続した。


「おじの最後の伝説を作りたいんや。力を貸してくれ、よの」



***



ロケットの打ち上げ場では大急ぎで準備が進められていた。


ロケットには既に大量のOZIRUの積載が完了している。ロケットは打ち上げられた後190.2kmの高度で爆散し、空中に散布したOZIRUが霧となって全世界を覆い尽くす予定だ。


『10.9.8……』


カウントダウンは進む。そして――、


『3.2.1...テイク・オフ!』


その瞬間、OZIRUを乗せたロケットは轟音とともに夜空へと飛び立っていった。


「あれ、さっきまでここに居た依頼主はどこへ行った?」


打ち上げ場の職員が不審に思って言った。


「大変です!打ち上げだロケット内に1人の人間の生存反応があります!」


「まさか……」


そう、おじはあろうことか打ち上げられたロケットに乗っていたのだ。


「皮肉なもんや。地べたを這いつくばって作ったおじの子が、地上のお前らに受け入れられず、最後に空に旅立つなんてな」


ロケットの中では、おじが大量のOZIRUを胸に抱え涙を流していた。


「たとえ日本の総理大臣であっても、おじの魂を捕えることはできへん。おじはお前らの手の届かないところへ行くで。

この魂の輝きに、嫉妬してんのやろお前らァァァァァ!!!!!!」



***



ロケットは上空で爆発し、おじの汚れた汁が雨となって世界中に降り注いだ。


日本では嫉妬の嵐が発生し、三日三晩その雨が止むことはなかった。


おじの一件は国際的なニュースとなり世界中の人々がおじに嫉妬した。


嫉妬心は人間をオマエラヤンという存在に変え、世界からは争いが絶えなくなった。




おじる~OZIRU~全世界が嫉妬した究極のローション。


PayPayフリマで発売予定!

商品名:『おじる~OZIRU~』

価格:41002円(税込)

限定特典:おじのブロマイド付き

発売日:おじが起業したら

[購入手続きへ]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る