おじ赤い封筒

みなさんは「赤い封筒」を知っていますか?


この中にはお金と若い女性の写真が入っているのですが、絶対に拾ってはいけないらしいです。


なぜなら写真の女性は既に死んでいて、この封筒を拾うと死者との結婚に合意する事になるから。


今回は、おじがこの赤い封筒を拾ってしまった時の話です。



***



「チッ、なんやねんあのクソ台。赤文字出てるんだから当たらなおかしいやろうが!」


おじはパチンコで負けてイライラしていた。


「あかん腹減ったわ」


夕飯を買おうとコンビニに入ったところでパンを買う金すらないんじゃないかと思い財布を開く。


「……」


中を見ると1円玉しか入っていなかった。


「チッ! 」


おじは舌打ちをして店を出る。


「ああもうムカつくわー」


おじは道端に落ちていた石を蹴飛ばす。すると石は勢いよく飛んでいき、石が飛んでいった先に妙なものが落ちてることに気づいた。


「え?」


それは真っ赤な封筒だった。


拾い上げて見てみると、宛名も差出人も書かれていないが、何やら中身が入っているようだ。


「なんやこれ……? 赤いんだから激アツやろ!」


おじはその場で人目も気にせずに封を開けた。


「うおぉおおおお、やっぱりや!」


中には1万円札が5枚、総額5万円が入っていた。


「大当たりやんけぇ!」


おじは現金を握りしめると興奮して封筒を振り回した。するとポロリと封筒から何かが落ちた。


「ん?」


地面に落ちているものをみると、それは若い女性の写真だった。


「この女性がおじのこと好きだからお金くれたっちゅうことやんな?」


おじはその写真をポケットに突っ込むと、拾ったお金で豪遊するためにコンビニに向かった。



***



家に帰ってきたおじは、コンビニで買った酒とつまみを楽しみながら先程の出来事を思い出していた。


「改めて考えたら気味悪なってきたわ」


おじは女性の写真をもう一度取り出してみた。


「まぁ、綺麗っちゃ綺麗やけど……」


写真に写っている女性は美人だが、目つきが悪くどこか近寄り難い雰囲気を持っていた。


「でもなんかおじのタイプちゃうしな」


おじはそう言って女性の写真と赤い封筒をクシャクシャに丸めるとゴミ箱へ投げ捨てた。


この夜、おじは呪われることになる。



***



「う、う~ん」


深夜2時、おじは布団の中で目を覚ました。


(トイレ行きたい)


尿意を感じたおじは布団から出て立ち上がった。


すると足元には赤い封筒があった。


「え……」


確かに捨てたはずの封筒だ。恐る恐る拾って開けてみる。


中にはまた写真が入っていた。しかし今度はさっきの女性とは違った。


その写真の顔を見ておじは驚いた。なぜならその顔に見覚えがあったからだ。


「おじやん!?」


そう、写真に写っていたのは死に装束を着た自分の顔だったのだ。


当然おじにはこんな写真撮った覚えはない。


「うわあああああ!!!!」


恐怖心に襲われたおじは大声で叫びながら布団に潜り込んだ。


「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏!」


おじは念仏を唱えて必死に心を落ち着かせる。


しばらく経つとおじは再び起き上がり、先ほどの封筒を拾った。


「チッ、なんやねん。ドッキリやろ?ほんま心臓止まるかと思ったわ。もう出てきていいで」


おじは封筒を床に投げつける。


「ドッキリなんやろ!?ほら、早く出てこいや!」


おじが叫ぶとおじの部屋のドアを通り抜け、髪が長くて顔が見えない女性が入ってきた。


「誰やねんお前!」


おじは枕元に置いてあった財布から4万円を取り出して女性に向かって投げた。


「金なら返すからおじに付きまとうのは止めてくれや!」


おじがそういうと女性は首を横に振った。


「なんやねん! さっき使ったから金足りひんねん!オカンから足りない分貸してもらったら許してくれるんか?」


女性は再び首を横に振った。


「じゃあなんやねん!」


おじが怒鳴ると女性の霊はおじを指差した。


「なんやねん……? もうええ加減にしてくれや!」


おじがキレると同時に女性はおじを睨みつけた。


「ひっ!」


反射的におじは机の上にあった飲みかけていた酒を手に取り、


「おらっ!」


女性に酒を浴びせかけたその瞬間、パァン!


した。


「な、なんや!?」


女性を見ると、苦しそうな顔で悶え苦しんでいた。


その苦悶の表情を見たおじは気づく。女は昼間に拾った写真に写っていた女性だった。


「アカンアカン!おじもう、逃げる!」


おじは急いで玄関に向かい靴を履いて外へ飛び出した。



***



「はぁ、はぁ」


おじは息を整えながら考える。もうおじ一人ではどうにもできないだろうということ。


おじは助けを求めるため友のいるデュラララチャットをスマホで開いた。


『赤い封筒拾ったら変な女に追われてる助けて』


おじがチャットに部屋を立てるとすぐに一人の男が入ってきた。


「大変なことをしちゃったね、おじ」


「よのやん。何か知ってるんなら教えてくれ」


「おじは冥婚って知ってるかい?」


「知らん」


「陰婚、鬼婚、幽婚、あるいは死後婚とも呼ばれるそれらはね、未婚のまま死んだ若者に結婚相手を用意してあげるという風習さ。

つまりおじは結婚させられたんだよ、死んだ女性とね」


「なんやそれ……そんなんアホらしいことあるんか」


「いや、おじは冥婚に同意したんだよ。赤い封筒を拾い上げるという行為が死者と結婚するという意思表示に当たるんだ」


「うせやん……」


「嘘じゃないさ。だからおじは今、死人の女性と結婚させられている最中なんだ。

おじが生きている間はその女性と共に生き、死後はあの世で伴侶として二人は永遠に暮らすことになるんだよ」


「そんなんうちが許さないんだけど」


そこに入ってきたのはおじのことを愛してやまないおばぶだ。


「おじのこと一番好きなんはうちだし、そんなぱっとでの悪霊におじを取られるとかありえないんだけど!」


「おばぶ、何とかならんか?」


「結婚しちゃったんならさ、離婚届でも何でも出せばよくね?」


「それや!ありがとうな、おじは行ってくるで」


おじはそう言うとデュラララチャットを後にした。



***


「らっしゃいますぇー」


おじはコンビニに来ていた。


「あの、離婚届って売ってるか?」


「離婚届ですか?ちょっとそういうものは取り扱ってなかったですねw役所とか行かないとないんじゃないですかw」


「なんやねんその態度、こっちは客やぞ!」


おじはコンビニ店員の態度が気に入らなかったようで、クレームを付け始めた。


「でもないもんは無いんで」


「ないで済んだら店員なんていらんねん!機械にでもやらせとけばええ!」


おじは悪態をつくとコピー機に目をつけた。


「てかこれで印刷できるやん。おいクソ店員、これで印刷しいや!」


おじがそう叫ぶと、店員は嫌な顔をしながらコピー機で印刷をした。


「コピー代10円になります」


「お前ら人間なんだから頭使って仕事せなアカンで?」


目的を達したおじはすっかり上機嫌になり、コンビニ店員を馬鹿にした態度でマウントを取るとコンビニを後にした。


「これでおじは開放されるんや」


おじは安堵し、再び走り始めた。


おじと結婚したいという霊のもとへ。



***



「ふぅー、着いたで!」


おじは自分の家まで帰ってきた。覚悟を決めたおじは家の中に入る。


「なんやねん、これ」


おじの部屋の中はローションまみれになっていた。


部屋を見渡すとおじはあることに気づく。


机の上に指輪が置かれていたのだ。


「結婚指輪か?」


おじが注意深くその指輪を観察すると、指輪は瘴気をはなっているようだった。


「特急呪物かもしれへん」


おじがその指輪に手を伸ばした瞬間、


(身体が動かん!)


おじが金縛りにあっていると、再び女性の霊が姿を現した。おじに抱きつくとその耳元でこう囁く、



(あかん!殺される!殺されてまう!)


おじは焦りながらも、どうにか体を動かそうと抵抗を続ける。


(動け!動いてくれ!)


「殺されたくなければ指輪を付けろ」


「付けたらどうなるんや?」


「指輪は二度と外れない。一生一緒」


「なんやそれ」


おじが思わず笑ってしまうと、女性は怒ったのか突然おじの腹を殴った。


「うっ!」


痛がるおじ。


「選べ。結婚するか殺されるか」


(絶体絶命や。でもおじにはアレがある。突きつけるんやこいつに)


「これを見るんや!」


おじは最後の力を振り絞り、ポケットからコンビニで印刷してきたクシャクシャになった紙を取り出した。


女性は目を丸くした。そして泣き崩れると同時におじの身体も解放された。


「ふぅ、やったか」


「プロポーズ確かに受け取りました」


「え!?」


おじが改めてになった紙を見るとそこには「離婚届」ではなく「婚姻届」と書かれていた。


「っぁあ!あのクソ店員!しばく!」


おじの指にはいつの間にか結婚指輪がはめられていた。


その後、おじは死者の花嫁との結婚を果たし、死後の世界で末永く幸せに暮らしたそうです。


HAPPY END

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