おじマネーの虎
「では、どうぞ!」
号令をかけたのは、マネーの虎(現・令和の虎)の主催者でもある岩井社長だ。
コンコン。
「入るで」
間抜けなノックとともに入って来たのが、デュラララチャットが誇る最強起業家。
南◯◯。通称おじ、その人であった。
今宵も一人の志願者が己の野望を胸に、虎へと挑む。
おじは神妙な面持ちで虎たちの前へと座った。
「まずはご経歴をどうぞ」
「おじや。大阪の西成から来たで。最終学歴は東大卒や。その後ソフトバンクに入社し営業でトップの成績を出したで。孫さんには可愛がってもらったわ。
でもな、ここはおじの戦場じゃないと思って辞めたんや。んで今はメルカリでローションを売るなどして生計を立ててるで」
「えーでは今回の希望金額と、出資形態を教えてください」
「希望金額は1000万円で投資でお願いするんやで」
「あなたが思い描く未来の姿は?」
「おじの焼くパンで世界を変えたい」
***
「では、ALL or NOTHING 新しい未来をつかみとれ Catch the fund!」
そして、おじの戦いの火蓋が切られた。
「えっとまず面白い経歴ですね!なんか途中まではすごかったのに、後からの失速がすごくて、ん?ローション?ってなるよね」
おじの経歴にツッコミを入れたのは林社長だ。
「途中はぶいたけど、おじ、ずっと公認会計士の資格取るため頑張ってたんや」
「その資格はどうなったの?」
「筆記は余裕やったんやけど小論文が苦手で諦めてん」
「なるほどなるほど。それでローションに行くってのもすごいけど、パン屋ってのはまたどこから出てきたの?」
「おじな、パン屋出すのがずっと夢やねん。だからな、最近パン屋のアルバイトに応募したんや。そしたらな、なぜか工場で働くことになったんや。
でもな、店長にパンの作り方教えてくれ言うてもな、教えてくれへんねん」
「自分で独学でパンを焼いてみようとは思わなかったの?」
「思ったで、それで150万するオーブン買ったんや」
「いきなり150万はすごいねー。じゃあそれでパン焼いて勉強してるってこと?」
「せやで、お前らにも見せたるわ。ドシタぁ!」
おじが叫ぶと、一人の男が大きなオーブンを押して虎たちの部屋へと入ってきた。
「今日は焼きたての食パンを食わせたる」
おじはオーブンからパンを取り出すと、紙皿の上に載せ、虎たちの前へと置いた。
「食ってみな、飛ぶで」
困惑する虎たち。誰も出されたパンに口をつけようとはしない。
その沈黙を破ったのはここまで静観を決めていたトモハッピーだった、
「いや俺はこのパン食いたくないです」
「なんでやねん!おじのパンが食えない言うんか?」
「だってこのパンカットすらされてないんですもん。試食とか以前の話ですよ。あなたは普段このままパンを食べてるんですか?」
「イヤッ!おじはこのパン食べたことないで」
ざわつく虎たち。
「食べたこと無いって、どうゆうこと?」
これには岩井社長も驚きを隠せないようだった。
「あのな、高いオーブンで焼いた焼き立てのパンが美味くないわけないねん」
おじのあまりにもパンを舐めた態度に、遂に岩井社長の堪忍袋の緒が切れた。
「ちょっと待ってくださいよ。俺は確かにあんたの熱意を買ってここまで連れてきた。事業計画書がなくても実績がなくても目をつぶってこの番組に出そうと決めた。
けどね南さん、さすがにパン屋やりたいっていうのに自分でまともにパンすら焼いて食べたことすらないってのはダメだろ」
「イヤッ!パンの焼き方店長が教えてくれへんねん!」
「人のせいにするは止めなさい」
「でも絶対おじの焼いたパンはうまいねん!」
「なら今ここでまずお前が食ってみろ!」
岩井社長の圧に押され、おじは渋々自分が焼いたパンを口にした。
「なんやこれ!まっず!」
おじが思わず叫んだ言葉を聞き、虎たちは失笑が隠せない。
だがしかしおじは笑っていない、むしろ真剣だ。
「ちゃうねん。おじのパンがまずいなんてありえないねん。
これは罠や!オマエラヤンに変なもの混ぜられたんや!」
「えーでは南さん、最後に言い残したことがあればお願いします。ラストステイトメントです」
「いいから黙って全部おじに投資しろや!」
おじの尊大な羞恥心が彼をもまた虎に変えた。
迎える最終局面、虎たちはいかなる決断を下すのか。
***
「はい、ありがとうございました。では一旦壁側をお向きください」
おじは自信たっぷりにやりきった顔をすると、壁側を向いた。
「では、これよりファイナルジャッジメントタイムです。ではお直りください」
0円 0円 0円 0円 0円
「全員0円ということでノーマネーでフィニッシュです。拍手!」
しーん。虎たちは早々に帰り支度を始めている。
こうしておじの夢は無残にも散った。
BAD END
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