おじ誘拐犯

ここはおじおじファイナンス。どこからも金を借りられなくなった人間が最後に金を借りる場所だ。


「うちは高いで?10日で5割、つまりトゴや」


おじおじファイナンスの社長であり、闇金おじジマくんと呼ばれているおじがそう言った。


「それでもいいです、俺には金が必要なんす!」


そう言うのは現在進行系でお金に困っているカナタという青年だ。


「ふむ……なら5万だけ貸したるわ。ただし!明日の今頃にここに来いや!もし1秒でも遅れたらどうなるかわかるな?」


とおじがドスを効かせた声で言う。


「わかりました」


カナタがそれに了承し、お金が手渡される瞬間。ドアが何者かによって蹴り破られた。


衝撃音とともに全身黒装束の人物が室内に入ってきて言った、


「お前がカナタだな?」


男は慣れた手付きでナイフを取り出しカナタの首元に近づけた。


おじは一瞬で状況を把握し、すぐさま銃を取り出そうとする動作に入ったが、ことなかれ主義だったのでやっぱりやめた。


その代わりにおじは望まない来訪者に向かって話しかける、


「なんや兄ちゃん。おじのオフィス壊してくれよって、どう落とし前つけてくれるんや?」


その言葉を聞いた黒装束の男はカナタの懐から財布を引き抜くと、おじの方に放り投げた。


おじは財布を開けて確認すると、


「12円しか入ってないで」


と財布を広げてカナタの貧乏っぷりを強調した。


「免許証と銀行口座のカードが入ってるだろ。おい、銀行口座の暗証番号を言え」


黒装束の男はカナタをナイフの柄で小突きながらそう言った。カナタは震え声で、


「……4545です」


と答えた。それを聞くなり、黒装束の男は、


「こいつは他にも多額の借金があるんだ。借りていくぜ」と言って立ち上がった。


カナタはせめてもの抵抗なのか手足をバタバタさせ、おじの机にあったローションを手に取り自分の服の中へ入れた。


「あ、おい!」


おじが声を荒げる。それに対し黒装束の男は、


「大丈夫だよ、俺はプロだから」


と自分の股間あたりをさすって言った。おじは怖くなり身動きができなくなってしまう。


そして、カナタとおじの愛玩ローションであるぺぺ太朗が連れ去られてしまった。




数十分後、おじおじファイナンスに一人の男が現れた。


「お疲れ様です、社長」


それはおじの右腕である、ドシタという男だった。


「あれ、ぺぺ太郎どこ行ったんですか?」


ドシタはおじが常日頃から可愛がっているローションが消えたことにすぐに気づいた。


「ドシタ、すぐ用意するんや。出かけるで」




すぐに準備を整えたおじは車を走らせていた。


おじはノートPCを起動すると、あるアプリを立ち上げ、助手席のドシタに渡した。


「社長、なんすかこれ?」


そのアプリにはこの周辺の地図とローションのアイコンが表示されていた。


「このアプリはな、今までおじが出荷してきた子達ローションの位置が全部わかるんや」


「え、なんでそんなことわかるん?」


「最近はペットにもマイクロチップの着用は義務やねん」


「さすが社長!」


2人は会話しながら運転を続ける。目的地はこの近くのようだ。




数十分ほど車を走らすとそこには廃墟となった工場があった。


おじが運転席から降り、続いてドシタも降りる。


「あの……こんなところで一体何をするつもりですかね?なんかヤバい雰囲気しかないっすよ……」


「しっ、行くで」


おじが先に歩いていくとそこにはすでにロープでぐるぐる巻きにされたカナタがいた。


「おじ、助けに来てくれたんだな」


おじの姿を見たカナタは安心して泣き出しそうな顔をしている。


おじはカナタに近づくと、


「お前チャウ!うちの子に何してくれとんのじゃ!」と言い放っていきなりビンタをした。


「うぅ……痛いじゃないか!」


カナタは自分の頬に手を当てる。するとそこにはくっきりとおじの手形が残っている。カナタがおじを見ると鬼のような形相をしていた。


パァン!


その時、おじとカナタの身体の間に、銃弾が風を切って通り抜けた。


「あっぶね!なんやねん今の!?」


「社長……気をつけてくれ、敵がいる!」


おじが周囲を確認する。すると少し離れた所に1人の人物が立っていた。先程の黒装束の男だ。今は右手にハンドガンを持っている。


「どうした情でも移ったか?ここまで後をつけてくるなんて随分とお行儀が悪いな」


「チャウチャウ!こいつがおじのローションを盗ったねん!」


「ローション?何かの隠語か?まぁ、ここまで来たからには3人まとめて死んでもらうぜ」


黒装束の男は手榴弾を取り出すとピンを抜き、おじに向かって投げた。


「あかんあかんあかん!」


取り乱すおじ。その時、ドシタがおじの目の前に落ちた手榴弾を持って走り出した。


「うおおおおおお!!」


ドシタは手榴弾を遠くに投げようとする。


しかし時既に遅し、ドシタが手榴弾を投げた直後にそれは爆発し、音が周囲に響き渡った。


「社長、カタキを取ってくれ……」


そう言って気絶するドシタ。おじはそれを見て「ああ……」と声を上げると地面に崩れ落ちるように座り込んだ。


黒装束の男はゆっくりと歩きながら近づいてくる。おじはその足音を聞きながら頭の中でこれまでの人生を思い返していた。


おじはこれまでたくさんのローションを生み出し、それを販売してきた。なぜローションなのかというとローションは素晴らしいからであった。


ローションはおじの英知が生み出した至高のアイテムであり芸術作品でもあった。おじにとってそれは神からの贈り物だった。おじはローションで人々の笑顔を見るのが好きだった。


おじの使命は人々を幸せにすることだと信じていた。それなのに……。


「おじ、何も悪いことしてへんねん」


その言葉と同時に、おじは立ち上がり、おじに向かって歩いてくる男を見据える。


「おじ?」


おじの様子がいつもと違うのを見てカナタは呟いた。おじは目をつむり、息を大きく吸って吐きだすと大声で叫んだ。


「チャウゥウウッッ!!」


次の瞬間おじは目にも止まらぬスピードで男に向かい駆けていくと男にタックルを食らわせた。


「うおっ」と声を出し倒れ込む男に対し、おじは馬乗りになると男の腕を抑えた。


「お前みたいなやつは口でいくら言っても無駄や。おじがしばいてわからせたる」


「へっへっへっ、そうかよ!」


男をしばくためにおじは拳を振りかざしていたが、急におじの全身から力が抜けた。


「おじ!」


なぜならおじの脇腹にはナイフが刺さっていたからだ。


「うっ」


黒装束の男は立ち上がると、おじの胸を踏みつけた。そして銃口をおじに向けた。


「終わりだ」


男が銃の引き金を引こうとした瞬間、


「やめろぉおおおおお!!!」


カナタが黒装束の男に飛びかかった。


「お前どうして!?」


縄でグルグル巻きにされていたはずのカナタはいつの間にか、拘束から抜け出していたのだ。


「こいつのおかげさ」


カナタの胸からは先程の銃撃で破損したローションボトルのローションが漏れている。


なんとローションによって縄の摩擦が減ることで、カナタは自力で縄から抜け出すことができたのだ。


「……ぺぺ太郎がおじを守ってくれたんや」


カナタが黒装束の男を押さえている間に、おじはよろよろと立ち上がる。


おじは手をグーパーして問題がないことを確認すると再び拳を握りしめ、構えを取った。


「じゃ、行くで。歯食いしばれや」


黒装束の男は身動き1つすらできない。ここから繰り出されるのがおじの必殺技『正論パンチ』である。


「お前ら!誘拐は……犯罪やぁぁぁあああああ!!!!!」


光り輝くおじの腕から正論パンチが放たれ、黒装束の男とカナタは2人仲良くぶっ飛ばされていった。


2人は白目を剥いて気絶しているようだ。おじは勝利を確信すると地面に座り込み、空を見た。


「お空で見守ってくれな、ぺぺ太郎」


そこには雲ひとつない綺麗な青空が広がっていた。

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