おじTikTok

「あかんあかんあかん!スマホの通知が鳴りやまへん!」


その日、おじは人生で初めてバズりというものを体験していた。


「緊急会見やこれは」


おじはこの喜びをデュラチャ民達と共有すべく、早速チャットに部屋を立て配信を始めた。


「お前らやばいで!昨日おじTikTokに動画あげたんけど、すでに再生回数1M超えや!」


おじは興奮気味にそう語るが、TikTokに縁がないデュラチャ民は、


「なにそれすごいの?」「どんな動画投稿してんの?」


と反応がいまいちだった。


そこでおじは自分のスマホ画面を画面共有で映した。


「めっちゃ通知来てんのわかるやろ?」


「いいから動画見せろよ」


「動画はこれやで」


おじが動画を再生するとそこには、


『Chu!強すぎてご~め~ん♪前歯、折っちゃってご・め・ん♪』


流行りの曲に合わせて、おじが無キャに膝蹴りを食らわせている姿が映し出された。


『Chu!正しくてご・め・ん♪示談でいいよね?ざまあ』


動画の内容は今回のおじと無キャのバトルの様子をおじの武勇伝としてまとめた動画だった。


「うわっ」「何やってんだよwwww」「これは引くわ……」


動画を見たデュラチャ民の反応はあまり良くない。だがそんなことはお構いなしに、おじは自らの心境を語り始めた。


「お前らちゃんと見たか?動画でも解説してるやろ。こうなる前にもともと3年間おじは粘着荒らしされてん。おじは被害者やで」


「まぁそれはわかったけど……これ無キャの許可取ってるの?」


「許可は取ってる。お前らおじのすごさわからんか?あの無キャを改心させたんやぞ」


おじの問いかけに対しデュラチャ民から反応はなかった。


「TikTok民はおじのすごさ理解したで?なぜならTikTokもおじも陽だからや。おじにしばかれた無キャも陽キャの仲間入りや。オマエラ陰キャもおじにしばかれたほうがええんちゃうか」


おじは心の底から嬉しそうな笑い声を上げながらそう言った。


「DMの通知数もすごいことになってるで。おじもここまで誹謗中傷と戦ってきた甲斐あったわ」


おじは自身へのファンメッセージがたくさん来ていることを期待して、DM欄を開く。


「なんやねんこれ!」


しかしそこにはアンチからの罵言雑言しか並んでいなかった。


「おかしいやんけ!こんなはずちゃうぞ!」


おじはその中の一つのメッセージを開いてみる。そこには、


『きも🤣』『ヤンキーこわ』『犯罪自慢やめろ』『デュラチャ界隈w』などの暴言が大量に書き込まれていた。


「なんじゃこりゃ!どこのどいつがこんなこと言うとんねん!」


その時ツイキャスにコラボ申請が上がる。


「ちょっとやばいよおじ!」


上がってきたのはおばぶだった。


「おばぶ、どうなっとるんやこれ」


「おじのTikTok炎上してるっしょ?原因はこいつ」


おばぶが貼ったURLは、ある有名インフルエンサーの投稿したツイートだった。


YONO @superwizardirrr

俺の元親友が膝蹴りされて歯を折られた動画がTikTokで晒されている件。

俺は許せない。ネットでの関係が悪かったとはいえ、会ってすぐに暴力を振るうことを認めていいのか?

無キャは殴られて親にも怒られ、チャットも引退に追い込まれた。

しかし本人が示談で済ませていいと認めた以上、俺はこれ以上何もできない。

[おじのTiktokへのリンク] #おじを許すな


よのがおじに対する反感感情を煽る文章とともにおじのTikTokへフォロワーを誘導していたのだ。


「あいつ、なんてことをしてくれたんや」


「よのほんま最低よな」


「チャウ」


「え?」


おばぶは突然のチャウに驚きを隠せなかった。


「おじはな、バズればなんでもええねん。今おじはバズってるんや!もっと過激な動画あげればさらに伸びるで!」



***



翌日、おじは更に過激な動画を撮るために街へ出かけていた。


「こじ!今日もおじの膝で悪い奴らを更生させてくで」


おじが向かったのは、とある繁華街。おじはそこでガンを飛ばしてくる人全てに、


「お前、オマエラヤン?」


と声をかけた。


違いますと否定したり無視を貫く者が大半だったが、中には喧嘩を売ってくる者もいた。おじはそういう人たちに容赦無く膝蹴りを食らわせた。


「お前らみたいなもんはおじの膝で更生させるしかないんや!」


そう言いながら何度も相手の顔面や腹に膝を入れた。


「おいっ!警察呼ぶぞ!」


その様子を見ていた通行人がおじを静止するように声をかけた。


「警察に捕まっても5万払えば示談で済むねんで?」


「何を寝ぼけたことを言っとるんだ!真っ昼間からこんなことして働いてないのか?馬鹿なことはやめなさい」


おじはその言葉に激怒し、


「働いてるとか働いてないとか関係あらへんやろ!コンプレックスをおじにぶつけるな!」


と言いながら男を引きずり倒して顔に膝を入れた。


「何をするやめろ!」


「お前がおじを先に誹謗中傷したんや。お前らがおじの心を傷つける!これは正当防衛や!」


その時、おじの肩が優しく叩かれた。振り返るとそこには警察官がいた。


「何やってんの君?」


「あ、おまわりさん。こいつらがおじのこと誹謗中傷してきたんで分からせてやったんすわあ」


「何言ってるの?傷害罪だよ?とりあえず署まで来てね」


こうしておじは逮捕されてしまった。初犯ではなく更生の余地なしということで実刑判決が言い渡された。


BAD END

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