おじYoutuber
『ネットで誹謗中傷している人、今すぐ止めてください。さもなければこうなります。【閲覧注意】』
おじがYoutubeにあげた動画は、過激なタイトルで再生数を稼ごうという魂胆が見え見えだった。
「お前ら、おじYoutuberになるわ。チャンネル名は『正論おじさんの世直しチャンネル』や」
おじの配信画面にはおじのYoutubeチャンネルが画面共有されており、変なタイトルと共におじがしかめっ面で画面を指差す濃いサムネが表示されている。
「え、なにこれw」「グロ動画?」「つべおじw」
おじがついに底辺Youtuberとしてデビューしたことで、デュラチャの面々は浮足立っているようだ。
「大物Youtuber感あるね」
「やろ? ほな再生してくで」
おじが動画を再生すると、自室でおじの上半身から上がアップで映し出された。
『こじ!』
おじが右手のひらをかかげ、元気よく挨拶する。
『正論おじさんの世直しチャンネルのおじや。いきなりやけど、おじには夢があんねん。お前ら何かわかるか?』
「いきなり夢語りw」
「イヤッ。ここはお前らにもおじの夢について考えてみて欲しいねん」
おじが一時動画を停止し、今配信を聞いている人達にもクエスチョンを投げた。
「税理士になることでしょ」
「チャウ。税理士は飽きたからやめた」
「じゃあまともな会社に就職する夢?」
「全然チャウ! お前らなんもわかっとらん! おじは職とかそういう小さいスケールの話はどうでもええねん! ほんまおまえら考え方が心の底辺やわ」
おじは痛いところをつかれたのか、キレてしまう。そして誰も正解を出せなそうなことがわかると、
「正解流すで?」
と言って、続きが再生された。
『おじの夢はな、この世界から誹謗中傷を無くすことや』
「おじかっこよくないか?」
「うわ」
おじが動画の中の自分に自画自賛することに視聴者たちは引いている。
『お前ら、誹謗中傷されたことあるか?
おじな、アンチにめちゃくちゃ誹謗中傷されるねん。その中でも無キャっていうとびきりのアンチがいてな。
まずはおじの永遠のライバルである無キャについて紹介するわ』
そして画面上にはデュラチャの目線にモザイクがかかったアイコンと共に『無キャとは何者なのか』とテロップが表示された。
『ええか? 無キャはな、おじに3年間粘着ストーカーを続けてきた男や。おじがやめてって言っても毎日毎日1日も欠かさずにチャットでおじに嫌がらせを続けてくんねん。
なんでそんなことするかわかるか?
おじな、前無キャに「お前を糖質にしてやるぞ」って脅されてん。つまり、喜ぶやつがいるんや――おじが糖質になったらな』
画面が戻り、おじの顔を再びドアップで映す。
『おじは糖質にならへんで!』
おじはまるで視聴者の中にも敵がいると言わんばかりに――歯をむき出しにし、画面を指さし宣言した。
『じゃあ本題に入るで。今回おじはな、無キャをリアルでボコボコにしたんや。これがその時の証拠や』
そうしておじが見せたのは1枚の奇妙な写真だった。
そこには、『治療費5万円いただきました。被害届は取り下げます。無キャ』
と手書きで書かれ、文末に血判が押されていた。
「なにこれ怖い」「どゆこと?」「警察案件じゃん」
『事の顛末を話すとな、おじいっつも無キャに家近いこともあってリアルファイトしようぜって煽られてん。もう、あまりにもしつこいから一回マジで会ってボコってやるって言うたんや。
ほんで、実際会って速攻ボコっておじの膝まで食らわしたったんやけど、無キャは本気でおじに殴られると思ってなかったらしいねん』
「無キャは馴れ合いのつもりだったってこと?」
「おじはオマエラヤン(注・おじが敵視している集団)とは馴れ合うつもりはないで」
「あっはい」
「続き再生するで」
『で、警察まで呼ばれて刑事だ民事だって結構揉めたんやけどな?』
おじはドヤ顔で眉間にシワを寄せると、
『なんやかんやあって最終的におじが無キャをシバいて改心させたったんですわぁ』
そう言って腕組みしながら満足げな顔で頷くのであった。
『お前ら信じてないやろ? その時の録音聞かせたるわ』
そして、感動的なBGMと共に無キャが
「画面の向こうに人間がいることに気付かされた」「もう二度と誹謗中傷はしない」といった発言をしたシーンが流れた。
『お前らどう思う?おじはな、これを聞いたとき感動して涙を流してん。お前らにも少しは伝わったか?おじの熱い魂』
「多分伝わってないと思う」
『これを見ているやつ! お前らも他人事じゃないで?』
そう言ってカメラの前のおじは急に席を立ち上がると、膝蹴りをするような素振りをし、画面におじの膝が急接近してきた。
『お前らも誹謗中傷したらこうやぞ!!!!!!!!!!!』
その後おじは再び席につくと、
『チャンネル登録と高評価よろおじ!』
と叫んで動画は終了した。
高評価👍4 低評価👎9304
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