おじvs荒野キッズ

「おじな、ゲーム実況者になるわ」


ある日のデュララチャット。おじが突然思いついたようにそう言った。


「え、いいじゃん。あれやってよ、荒野行動」

「いやっ、おじあんまり銃とかで戦うゲーム好きじゃないねん。兵役時代の胸糞悪い思い出がフラッシュバックするねん」


おばぶがオワコン中のオワコンと名高い荒野行動というゲームをおじに勧めるが、おじは乗り気ではないようだ。


「えー、一回でいいからやってよ。銃撃ってるおじかっこいいよ」

「ちっ、しゃーないな。やったるわ」


おばぶにおだてられて気を良くしたおじはニヤけながら舌打ちすると、スマホに荒野行動のインストールを始めた。


「ほーん、これが最近の子らがやってるゲームかぁ」


おじは初心者ということもあり勝手がわからないながらもマッチングに参加しゲームを始めることに成功する。


「おい! なんか飛行機から落下しとるで! あかんあかんあかん」

「降下したらすぐ物資集めてね」

「おじは何したらええんや。あぁっ!」


おじの操作するキャラクターが地上でウロウロし始めると、それを狙った熟練のプレイヤーがおじに対して発砲してきた。その一撃でおじのキャラクターの体力が半分を切ってしまう。


「あかん死ぬ死ぬ! おじは逃げるで!」


パンツ一丁のおじのださい初期キャラは無様に戦闘フィールドから逃げ出し、屋内に避難することに成功した。


「あいつら何やねん。いきなり撃ってくるのは反則やで。お、装備あったわ拾うで」


屋内の階段を上がりアイテムを発見したおじは嬉々として装備していく。


「おじがんばれええええ」と、おじリスナーもおじの初陣を熱心に応援していた。


おじが伏せながら装備を漁っていると、唐突におじの周りでコンコンと聞き慣れぬ音がした。


「足跡聞こえてるよ」


FPSのやりすぎで病的に足跡に敏感になっているリスナーが、近くに敵の存在を示唆したが、おじは全く気づいていないようだ。


「え、足音した? 何も聞こえへんで」


そこへ階段を上がって敵が現れる。敵はすぐにおじに対して攻撃を始める。


「あ、痛! なんか撃たれたぁ!」


おじのHPはみるみるうちに減っていき、おじのキャラは地面に倒れ込む。ゲーム画面には『こんな日もあるさ、どんまい!』と表示され、結果は99位でゲームオーバーだった。


「何やねんこのクソゲー! やっぱ一人だとあかんわ。デュオでやるで」


おじは再びマッチングに参加し始める。そしてすぐにマッチングに成功し、2人でプレイすることになった。


「よし行くでぇ。これ味方とボイチャ繋がってるん? bkbさん、よろおじ」


荒野行動にはゲームしながら他プレイヤーと会話できるボイスチャットという機能がある。おじはボイチャで味方プレイヤーに話しかけるが、味方からは反応がなかった。


「ボイスチャットオフになってない?」


リスナーから指摘され、おじはよくわからずにボイスチャットの設定をに聞こえるように切り替えた。


「こうか? おじこういうのわからんわ。よっしゃ1位取ったるで」

「くすくす」


おじの独り言を聞いてか、ボイチャからは他のユーザーの嘲笑が流れてくる。


「ん? 今笑った奴誰や!?」

「おじってw 絶対初心者の雑魚じゃんw」

「おじさんやっちゃうよ?」


それは勉強もせずに四六時中荒野行動をプレイして荒野行動を極めてしまった歴戦のキッズプレイヤー達だった。


「ええやん、かかってこいや」


おじは不敵に笑い、荒野キッズ達に向かって挑発する。


「じゃあおじやるね」

「やれるもんならやってみろや!」


おじが叫んだ瞬間、パァンと甲高い音が響き、おじのキャラクターが一撃でダウンしてしまう。


「ヘッドショット決まった!」


既におじのキャラクターの位置を特定し、おじをうまく倒したキッズが喜々として喜ぶ。


「bkbゥゥゥゥ! 何をやってんねや! 早くおじを助けろおおおおおお!」


おじは必死に味方プレイヤーに助けを求めるが、おじがモタモタしているうちに遠くへ行ってしまっていたbkbは助けに来るそぶりがゼロだった。


「おじさんはそうやって地べたに這いつくばってるのがお似合いだよw」


おじをダウンさせたユーザーが追い討ちとばかりにおじの周りで屈伸運動を始めて煽り始める。


「お前らほんま許さんぞ!」


悔しそうな顔をしながらも、おじは立ち上がることができない。


「おじ、もういいよ。次行きなよ」


おばぶがキッズの玩具おもちゃになってしまったおじを慰める。


「いや、おじはまだ負けてへん。お前らおじに本当の意味で勝ちたいんならな、顔出しでキャスに上がってこいや」

「何言ってんだこいつ」

「新手の出会い厨おじさん?」


おじの発言にこれにはさすがの荒野キッズ達も困惑した。


「来れないならな、所詮お前らが荒野行動の中でしかイキれないネット弁慶やったっちゅうことや」

「ツイキャスもネットだろ」

「チャウチャウ! じゃあもう住所言ったるわ。大阪府大阪市西成の天下茶屋公園来いや! そこで勝負したるわ!」


理では不利になったと悟ったおじは、個人情報暴露チキンレースに勝負を切り替え、おじの家の近くの公園の情報を開示した。


「あ、俺も大阪だし丁度近いから行けるよw」


偶然にもおじを散々煽っていたキッズが住んでる場所が近いということでおじに会いにいく意思を示す。


「えっほんまに来るんか?」

「もしかしておじさん日和ってる?w 30分後くらいに行けるよ」

「日和ってへんわ! しばきに行ったるさかい待っとれよ」



***



ニュースの時間です。昨日未明、大阪府内の公園で未成年に対して暴行を加えたとされる、自らのことをおじと名乗る35歳(無職)の男が逮捕されました。


2人は有名ネットゲームの荒野行動のアプリを通じて知り合ったとのことで、警察は詳しい経緯を調べています。


逮捕された男は「おじは悪くないねん! オマエラヤン!」等と意味不明な供述をしており、警察はさらなる余罪がないか目下調査中です。


BAD END

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