おじローション革命

「もうやめようや、こんな戦い」


おじは涙を流していた。

カナタの発した言葉がついに一線を超えてしまったのだ。


「あのな、何度だって言ってやる。お前は正論おじさんを自称してるがそうじゃない。お前は……子供部屋おじさんだ」

「……!」


その言葉に、おじの表情が変わった。


「子供のころから親に甘やかされてばかりだったんだろ? だから、そんな甘えた性格になったんだ」

「……イヤっ!!」

「子供ってなぁ、甘やかされるのが仕事なんだよ。だけどな、大人になっても甘えてたら一生子供部屋から抜け出せないだろうがよォッ!?」

「……やめてくれやカナタ。おじにはその言葉が効く」


おじは宿敵であるカナタに痛いところを突かれ心を痛めていた。しかしカナタは心を鬼にしておじに正論を説き続ける。


「あのな、俺はな、ガキの頃は毎日のようにいじめられてたし、殴られて蹴られてきた。 生まれてから一度も彼女できたことがない。それでも頑張って生きてきたんだ。なのにお前はどうだ?」

「……」

「お前は言ったよな?『やりたいことだけやって生きてる』って。じゃあ聞くぞ? お前にとって子供部屋でローション詰め替えてる今が一番楽しかったりするのか?」

「ちゃうねん……」

「違うよな? お前はただ逃げているだけだ。本当は挑戦しなければいけないと思い込んでるのに失敗を恐れて逃げ続けてるんだ」

「チャウチャウ……チャウチャウ……」

「いい加減目を覚ませおじ。そうさ、お前は俺と同じ負け犬なんだ。子供のころに夢見ていたエリートになることができず、ただ年老いて死を待つだけの惨めな人生を送っているんだ」

「ウゥ……ウワァアアーーー!!!!」


おじは大声で泣き始める。その光景を見たカナタは思わずため息をつく。おじはこれまでの自分の人生を思い返していた。


「カナタ……おじは間違ってるんか?」

「俺はお前と同類だからわかる。間違ってるのはおじじゃない。社会の方だ」

「そっか……やっぱりせやねん」


おじは納得した様子を見せると、おもむろに立ち上がって押し入れを開いた。するとそこには100本を優に超える無数のローションが陳列されていた。


「おじ、なんだそれは」


カナタが訝しげに尋ねる。


「おじな。ローション革命起こそうと思ってん」

「は?」

「おじはな、地下鉄にローション撒いて社会に一矢報いてやりたいねん。デュラチャの子らもおじのローション馬鹿にしてたやろ。ローション舐めたらどうなるかってことわからせたるわ」

「待て、落ち着け。何をする気だ」

「勘違いしたらあかんで? おじは別にローションで地下鉄を脱線させようって気じゃないねん。線路にローションかけたら摩擦減るやろ?そしたら地下鉄のスピードってもっと上がると思うねん」


ふざけた話だったが、おじの目は真剣そのものだった。


「おい、馬鹿かやめろ」

「イヤッ、挑戦とか言ったのお前やで? カナタ、一緒に起こそうやローション革命」

「俺は外に出る服ないから無理」


カナタは適当な言い訳を残すと逃げるように去っていった。


「おじの魂見せたるわ。おじは1人でも革命を成し遂げたる」



***



大阪の地下鉄駅。大勢が行き交うその場所で、腕いっぱいにローションを抱えたおじがブツブツと小言を言いながら歩いている。


当然のように駅員さんがその不審者に目をつけ、声をかけた。


「ちょっと君! その手にいっぱい持ってるのは何だ?」

「これはおじがオリジナルで開発したローションやで」

「一体何に使うのかな? ちょっと事務所の方で話そっか」


駅員がおじの手を掴もうとした瞬間、おじはその手を振り払って逃げるように走り出した。


「こいつ、まさかテロか!?」


すぐさま駅員が無線でアナウンスを入れる。


『構内にて不審者発見。大量のローションを所持しており駅員の制止を振り切り2番線の方面へ移動中』


おじはダッシュで地下鉄の方へと向かっていた。


「ハアッ……ハアッ……!」


この日のためにおじは毎日筋トレをして体を鍛えていた。それでも駅員のスピードも凄まじく、おじは急いで線路に降りてローションを撒き始めた。


「何をやっている! 止めろ!」


駅員の制止を無視して、ローションを撒き続けるおじ。


『間もなく2番線に地下鉄が参ります。線の内側へ下がってご注意ください』


そこへ地下鉄のアナウンスが流れる。もうすぐに地下鉄がこの路線にやってくるようだ。


「よっしゃ! 撒ききったで、後は戻るだけや」


おじは地下鉄路線上から上がろうとするが、



おじの手はローションまみれになっており、うまく上に上がることができなかった。


キーッ! とブレーキをかけながら、地下鉄の超重量を持った車体が迫ってくる。


「せや!」


その時おじに天啓が走る。


ブレーキをかけてるんなら地下鉄が止まるまで逆方向に逃げればいい。そう思いついたおじは、上に登ることを諦め、ダッシュで地下鉄から逃げようと試みる。


「ハアッ……ハアッ……!」


おじは全力で地下鉄から逃げる。おじが後ろを振り返った時、少しづつではあるが速度を緩めている地下鉄が目に入った。


「やった! おじは死なへんで!」


おじが生存を確信したその時、おじがローションを撒いた部分に地下鉄の車輪が差し掛かった。


「うわぁぁぁあああ!」


その瞬間、地下鉄は超加速し、おじの身体を吹き飛ばした。最後におじは精一杯の力を振り絞って叫んだという。



BAD END

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